第11話 ソフィアは旅をはじめる
アーヴァイン様を含む騎士団たちと一緒に王都を出発した。
旅の最中は景色を見たり、持ってきた魔法関連の本を読んで魔法についてさらに勉強するつもりでいる。
ひとつ気がかりなのは、どういうわけか私は、カーテン付きの王族御用達といわれている馬車に乗っていることだ。
こんなに高級な馬車……いったいいくらするのだろうか……。
カーテンで外から中が見えないのは助かるが、私は外の景色も堪能したい。
カーテンをめくって外を眺めったりしながら旅を楽しんでいた。
一緒に同乗しているアーヴァイン様は私の仕草を見ながら微笑んでいるようだった。
「ソフィア様は良い意味で本当に旅がお好きなようですね」
「はい。今まで知らなかった世界を知れてとても楽しいです!」
「そういうところも……いえ、なんでもありません。失礼いたしました!」
そういうところがなんなのだろう。
またアーヴァイン様は顔を赤らめている。
馬車に乗ってから何度目だろう……。
病気だろうか。
「アーヴァイン様? 回復魔法か治癒魔法をかけますか?」
「いえいえいえいえ!! とんでもない! 私は元気ですよ!」
「でも顔が赤くなっていますけど……」
私が心配しながら言うと、馬の操縦をしている御者が笑い出した。
彼も騎士団の一員である。
「団長よ、ソフィア様がそう言ってんだし回復してもらえばいいじゃないっすかー!」
「からかうな……。私はもともとこういう顔なのだよ」
「苦しすぎる言い訳にしか聞こえねーっす。ま、ソフィア様もそのくらいにしといてあげてくだせー」
「はい?」
からかったつもりはなかったんだけどな……。
もしかしたら、アーヴァイン様はこの程度の変化で回復魔法に頼ってはいけないと思っているのかも知れない。
さすが騎士団長だ。
私は勝手に納得したため、これ以上は追求しないようにしておいた。
♢
王都から離れると、道も整備されていないため馬車の移動は難易度が上がっていく。
自然豊かな森の中へ入ってしばらく進んだあたりで空が暗くなってきた。
今日はこのあたりで旅は終了となり、森の中で野営の準備が始まる。
モンスターは火に弱い傾向があるため、旅には焚き火が有効らしい。
石と木の枝や燃えそうなものを集め、騎士団員の魔法によって火が放たれる。
「慣れない環境かもしれませんが大丈夫ですよ」
「いえ、むしろ豪華だなぁって感心しています」
「でもソフィア様は今までこうやって旅をしていたのでしょう?」
「いえ、焚き火のことは知らなかったので、こういったことはしないで寝てました」
「……ソフィア様は運も良いようですね。無防備で寝ていたらモンスターの餌食ですから……」
私の運が良いかどうかはさておき、義父様の領地を出てからは良いことしか起きていないような気がする。
このまま何事もなく無事に公爵様のいる辺境地までたどり着けると願っておこうか。
騎士団員たちが焚き火を利用して料理を始める。
私もなにか手伝おうとしたが、あっという間に断られてしまった。
なにかしてもらってばかりだし、そもそもが私も一緒に旅の醍醐味を楽しみたいのだが……。
しかし、アーヴァイン様は教えてくれた。
「今の騎士団員はソフィア様をお守りすることが指名です。お気持ちは大変嬉しいのですが、ここでソフィア様が団員たちの作業を手伝うようなことがあってはならないのです」
「うーん……、騎士団員の仕組みというのも難しいのですね」
「いえいえ、ソフィア様には十分すぎるほどの恩がありますからね。少しでもソフィア様が快適に旅ができるようにしたい気持ちもありますよ」
今回は団体行動だし、アーヴァイン様の指示に従っておこう。
私は用意された温かいスープや焼き立ての肉を食べてお腹も身体も満たされた。
ご飯も食べ終えたころ、周りは完全に真っ暗闇で焚き火の炎で明かりが照らされている状態だ。
騎士団員たちは交代で見張りをしてくれている。
ただ立っているだけでは今の季節、寒さで風邪をひいてしまう可能性もある。
さすがに私はこのまま寝るわけにもいかない。
旅のために屋敷から持ってきた毛布を騎士団員たちひとりひとりにかぶせる。
横になって仮眠をしているアーヴァイン様にもそっとかぶせた。
カッコいい寝顔を見て、またしてもドキりとしてしまった。
こんなことくらいしか出来ないけれど、起きている団員たちから感謝され、とても嬉しかった。
だが、そんな喜びはそう何日も続かなかったのだ。
王都を出発してから五日ほど過ぎ、最初の目標地点である村に到着するころ……。
私たちは信じられないような光景を目の当たりにするのだった。
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