第10話 ソフィアはドキッとする

「ほう、ソフィア殿が弟の辺境地まで行ってくれるのか!」


 私とアーヴァイン様の二人で陛下がいる王室で相談させていただいた。

 陛下は私が思っていたよりも前向きな反応を示してくれている。


「陛下。どうか私に引き続きソフィア様の護衛を含め同行の許可を……」

「うむ。むしろ、騎士団の半数を護衛としてソフィア殿の同行を命ずる。それほど今回の件は重要である」


 アーヴァイン様の言ったとおりになってしまった。

 ところで重要な件とはどういうことなのだろうか。


「ソフィア殿よ、ひとつ頼みごとを聞いていただけぬかな?」

「はい。できることでしたらなんでもします」


 陛下たちには多大な恩がある。

 おそらく辺境地での名産品を買ってきてほしいとか、公爵様に会ったら伝言を頼むとかそういうことだろう。

 それくらいお安い御用だ。


「弟の怪我と病気もなんとか治してくれないだろうか?」

「へ!?」

「実は先日モンスターの襲撃にあってしまったらしい。その際に呪いもかけられて声と右腕を失ってしまったと報告を受けている。私としてもソフィア殿が弟と会う機会を作れないかと考えていたところだったのだよ」

「呪いですか……」


 ここまでの流れでは怪我や傷の治療、病気に関しても治せることはわかった。

 だが、呪いとなるとどうなのだろう。

 怪我の治癒と言っても、失ってしまった腕の再生までできるのだろうか。


 すぐに治しにいきましょうと言えなかった。


「むろん、弟の状況は深刻なものである上、呪いがソフィア殿の魔法で対処できるかどうかはわからぬことくらいは理解している。だが、たとえ失敗したとしても試してみてほしいとは思っている」

「わかりました。できる限り良い結果が出せるように魔法の研究もしておきたいと思います」

「結果はどちらであっても謝礼は当然支払おう」

「いえいえ、それはお気になさらず。私も公爵様に会いたいところだったので、会わせていただける許可が出ただけでも十分です」

「本当にソフィア殿は謙虚なのだな。まぁ謝礼に関しては後ほどだな」


 いえいえ、すでに豪邸と生涯賃金と通行手形を貰ってますから!

 これ以上お礼をもらってしまったら、恩返しができなくなってしまう。


「団長よ、ソフィア殿の護衛をしっかり頼む」

「はい。私の命に変えても護ります!」


 アーヴァイン様が私のほうを見ながらニコリと微笑んだ。

 またしてもアーヴァイン様に対して謎の緊張感が発生して心拍数が急上昇してしまった。


 私自身に治癒魔法を発動したほうがいいのかもしれない。



 私の身体はどうなっているのだろうか……。


 アーヴァイン様の顔を見たとたん、私の身体が異常を起こしたような気がした。

 すぐに元どおりにはなったが、なにかあるのかもしれない。

 陛下との対談が終わり、屋敷へ帰ってから自室で誰にも見られないようにコッソリと治癒魔法を発動した。

 コッソリと魔法をかけた理由は、周りの人たちに心配をかけたくなかったからである。


 だが、治癒魔法の発動前と発動後で特に変化は感じられなかった。

 もしかして私の魔法、自分自身には効かない仕組みなのかもしれない……。

 だとしたら、今まで怪我をしても翌朝に完治していた現象はなんなのだろう。


「ソフィア様。魔力を感じましたがなにかありましたか!?」

「ひゃ! ななななななんでもありませんよ」


 アーヴァイン様が慌てながら部屋に入ってきた。

 魔力を感じとることができるなんて知らなかった。


「どうやって魔力を感じることができるのですか?」

「はい?」


 アーヴァイン様が不思議そうな表情で返事をしてきた。

 もしかして、魔力を感じることって当たり前にできることだったりするのだろうか。


「人間から魔力が発動される際、周囲にゾクっとしたような感覚が生まれるのですが……」

「知りませんでした……」

「今、試しに私が魔力を出してみましょうか」


 そういうと、アーヴァイン様は持っている剣に対して固有魔法を発動していた。

 だが、私にはゾクっとするような感覚は全くなかったのだ。


「うぅん……。わかりませんでした」

「……よほどソフィア様の魔力が規格外だから、私の魔力では感じとることすらできないのでしょう……」


 アーヴァイン様を残念がらせてしまったかもしれない。

 すぐに謝ったが、むしろそういうふうには捉えていなかったようだ。


「私もまだまだ騎士団長として甘いということでしょう。魔力の鍛錬も怠らないようにして、いつかソフィア様でもゾクッとした感覚を体験できるようにします」


 アーヴァイン様の前向きな発言を聞いて、ゾクっとはしなかったがドキッという感覚が私を襲った。

 アーヴァイン様は魔法ではないなにかしらの力を持っているに違いない。


「ところで明日、辺境地へ向けて出発します。今日はゆっくりお休みください」

「アーヴァイン様もゆっくり休んでくださいね」

「いえいえ、お気遣い大変ありがとうございます」


 公爵様に会えればゾクッとした感覚を体験できるのだろうか。

 だが、アーヴァイン様も魔力に関しては騎士団の中で一番優れていると、他の団員から聞いたことがある。

 私にだけゾクッとした感覚がわからないなにかが発動されているんじゃないだろうか。


 魔法に特化しているという公爵様にそのあたりのことも聞いてみよう。


「明日からアーヴァイン様たちと一緒に旅かぁ~。楽しみだなぁ~」


 ところで、先ほどのドキッとした感覚がまだ離れない。

 それにアーヴァイン様のことを考えはじめたら、なぜか心が締め付けられるような感覚まである。

 しかも、なかなか寝付けない。


 こんな状態で旅などして大丈夫だろうか。

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