第92話 ポーションと光魔法の関係
今のことに関連することだが、心臓を一突きされたり、頭を吹き飛ばされたりしたら、そういうのは容易に治せない、ということだ。
たとえば、心臓をずぶりと刺される、いわゆる急所と呼ばれる所を攻撃されて酷く損傷すると、上級ポーションなどを呑んでも回復しないことがあるという衝撃的な事実がある。上級ポーションには肉体をつなげるほどの回復効果、復元効果があるにもかかわらず、である。
これについてはアーノルドたちの証言がある。
「瀕死の人間にポーションを与えていても、確かに治らなかった事例が多いです」
「全く回復しなかったのか?」
「いえ、外と内と言いますか、人体の外側や表面については治ります。しかし、あまりに深い部分にはそれほどの効果はありませんでした」
ポーションはまだ明らかになっていないところがあるが、どうやら身体の皮膚の外傷、打ち身、骨折、そういうものには効果はあるが、臓器を傷つけられた場合には効果は薄い。
それは上級ポーションといえども限界があるようだ。それでも致命傷をある程度までは治せる。だが、当たり前のことだが、本人の生命活動が止まっている場合は難しい。
死者は蘇らない。
そして光魔法でも死者の蘇生はできない。
それにしても、四肢をつなげるほどの効果があっても内部を回復する効果があまりないというのは奇妙である。
これは上手くいえないのだが、この世界の生命状態は何らかのゲージ、数値みたいなものがあって、それが0になったらいずれ死ぬ、こういう観点から捉え直してもいいのかもしれない。そして、その場所が急所の場合にはポーションは効かない。
そうでなければ、頭の損傷はまだしも、心臓を一突きしたくらいでポーションが効かないというのは考えられない。腹部を深く刺されて回復した事例もあるのである。体内の内部といっても部位によって効果が異なるのは事実である。
この世界では武器は発達していて、かなり特殊な金属があり、それを使えば肋骨すらも簡単に切って心臓まで到達する、そんな恐ろしいこともある。実際、そういう殺人事件もある。
もっとも対人用として開発されているのではなく、魔物の皮膚が硬く、骨もどうやら強固で、そういう武器開発の必要性があったからなのだろう。
脳や心臓は急所であり、ある程度の損傷でゲージが一気に0になってしまう、やがて生命活動も止まる、これがこの世界での死の捉え方の一つの仮説である。
急所を突かれたら0から1や2にすることがもうできない、あるいはポーションでは一度0になったものを1や2にできない、この可能性もある。
どうやらこの状態は光魔法でも回復が難しいと言われている。
傷を治すポーションの場合は、呑んでから効果が出るまでは一瞬ではなく、実際には数十秒から数分のタイムラグが一定時間ある。
さすがに10分も20分もかかるわけではないが、呑んで数秒で全回復というわけではない。
真冬にフロントガラスに降りた霜や雪が、自動車のエンジンを入れて暖房で少しずつ解けて綺麗になるように、徐々に身体の傷が癒えていく。これがポーションの特徴である。
この事実は初級ポーションの研究でも明らかになっている。
だから、急所を損傷して上級ポーションでも治らないのは、身体が治るまでに時間が掛かりすぎて亡くなる、という可能性もある。
一方、致命傷ではなければ光魔法は効果があるようだが、この魔法による治療の時間は一瞬に近いようだ。
回復ポーションと光魔法の大きな違いはこの回復時間の差だと思う。
マナポーションは検証していないのでわからないが、これは回復ポーションとは効果が出る時間は異なるかもしれない。
というのは、回復ポーションだと①呑む、②全体に広まる、③各種の細胞などに変異をもたらす、このような過程がある、
マナポーションの場合は①呑む、②全体に広まる、という過程だけだと考えると、呑んだ瞬間に欠乏していた魔法の素のようなものが全快になるのではないか。
これはレシピを入手したらいつか検証してみたい。
以前にエリクサーと呼ばれるものを知った。
これは「天使の涙」と言うが、これなら何でも治すという伝説の薬だが、本当に伝説である。
この「何でも」は肉体の損傷のみならず、あらゆる病というのだから、危ない薬だとしか思えないくらいだ。
これは伝説というより神話の話なのだろうが、光の大精霊の力だとこのエリクサー並なのではないかとまことしやかに
ただ、心臓をぶすりと貫かれてもこのエリクサーが身体を治すのかどうかは明らかにされていない。
死者の蘇生や心臓や脳の損傷、つまり急所の攻撃は光魔法では通常効果がないと言われていることは確認した。
ただ、それは光の精霊との契約だからである。
光の大精霊の力だと、たとえば私が使っているモグラの力のように通常の精霊との契約よりも数十倍の威力があると考えられる。
もしかするとから光の大精霊との契約による光魔法であれば死者の蘇生までも可能になるのかもしれない。
あるいは通常の魔法でも威力を上げることはできるので、光魔法でも熟達するとそのような域にまで達する人間はいた可能性はある。
死者蘇生の考え方としては、強引に心臓を動かす、壊死した脳をも再生させる、心臓や脳、血液までも含めた肉体の完全修復、傷ついた魂の修復、どこかへ行った魂を肉体に定着させる、ゲージが0だったのを10とか100くらいに上げていく、肉体の寿命を若返らせるというのがある。
魔法という現象はすべての因果律をひっくり返すようなものだから、魂の存在と同様に死者蘇生というのがありえないと一概に否定することは難しい。
それは液体のポーションではないように思う。なぜなら肉体が活動をしていないのだから呑むという行為がおそらくできない。
可能性があるとすれば光の大精霊との契約による光魔法による蘇生である、と推測できる。
ただ、そうは言ったものの、特にエリクサーによる蘇生の可能性を完全に否定もしづらい。
というのは、魔法という不可思議な現象を考えると、ポーションの作成過程にはたとえば水魔法が使用されるので、ポーションなどの回復薬も純粋に自然物から作られる回復薬ではない。
エリクサーのレシピはまだ手元にないが、その作成過程に魔法が介在していると考えると、どうなるか。
呑んで体内に取り込んで染み渡らせるということ以外に、何らかの魔法の効果が身体に影響を与えて、たとえばエリクサーと呼ばれるものでも体内に、あるいは口に含むだけでも蘇生をする、そんな可能性は残されている。
いずれにせよ、モグラたちの話でも過去の契約者のことはよくわかっていないが、光の大精霊が気まぐれというのはこういうところも含めているのかもしれない。
もう数百年も前の伝承には光魔法で人が蘇ったというものがあるが、1件のみであるし、詳しい状況はわからない。果たして魔法で、そしてエリクサーで人は蘇るのか、興味深い。
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