第53話 生誕祭の準備〔2〕

 前の茶会は半年前だったが、すでに半年前から用意をしている。

 その間にカトリーナ王女とアベル王子が公爵領に何度かやってきていて、カーティスとアリーシャがその世話をして、確実に親交を深めていった。

 王妃も一度だけ公爵領にやってきて少しの間、静養した。


 この生誕祭には、国内の有力貴族が出席するが、王族はほとんど出席しない。だから、前の時も王族はあの王子キリルとその生母カルメラは確認されている。王族ではないがカルメラの家の人間が来ていた、その情報はある。

 あの時にそのカルメラもいたのだろうが、私には見つけられなかった。だが、あの婚約破棄現場を見て、どこかでほくそ笑んでいたのだろう。

 ただ、出席者の選定にあたってはそういう慣例があるわけでもなく、どのような貴族を呼ぶのかというのも、恣意しい的であり、全員に声をかけるわけではない。


 そう考えると、普通は9歳のアリーシャが招待されるというのもおかしな話だったが、やはり公爵家の娘でありアレンの家が世話人でその婚約者だからなのだろう。無理矢理あの場に呼ばれたということだ、私も一緒になって。

 思い出すだけでもムカムカするが、今はそれどころではない。


 招待客についてはすでにもう手配をしている。

 そもそも今の時点でキャンセルできるわけでもないのに弱気になるのは、それほど追い詰められていたに違いない。この王妃にも勇気と活力を与えて、安心してもらえるようなものにしたいと思っている。

 半年で王妃もふっくらと肉が付き、だいぶ健康的な顔となっていった。

 やはり王妃の毒味役は第一王子派の息がかかっていたようで、モグラの力を使って底なしの落とし穴に蹴飛ばして落としたい気持ちだ。


「そう、この方がいらっしゃるのね」

「はい。少々難航しましたが、出席する旨を承りました」


 参列者のリストを王女に渡すと、意外だという反応を示した。

 国内からは第二王子派や中立派には声をかけ、第一王子派であっても何人かをピックアップしておいた。

 たとえば、同じ公爵家のカーサイト公爵家である。正確にはカーサイト公爵家の立場は微妙なところなのだが、ここにはアリーシャと同い年の男の子がいる。


 バーミヤン公爵家にも声をかけた。あのアレンの父親である。

 ただ、アレンを呼ぶことはなかったが、アレンの妹のローラがアリーシャと同い年だったので当主とそのローラにも声をかけたのだった。このローラは兄のアレンと異なり、実は火の精霊と契約している。

 が、度し難いことにバーミヤン公爵家は欠席だ。まあ、それはもういい。


 もちろん、今回は他国にも手を回している。

 前回は内輪向けの宴であり、どうも閉塞へいそく感があった。どうせならおもいきって外交の場としても機能するようなものにしてみたい。

 その他、いろいろと生誕祭に関しては王に許可を得てほしいことを述べ、王妃もわかりましたと納得してもらった。

 あとは遺漏いろうのないように粛々しゅくしゅくと準備をするだけだ。


 したがって、王都にはしばらく留まることになったが、生誕祭のために少しずつ設備や装飾、人を本邸に移らせていた。

 生誕祭もそうだが、そろそろ王都で仕掛けていく時期でもある。

 ドジャース商会も王都でのシェア率は日に日に上がっている。一方のバハラ商会はみるみる堕ちていっている。ケビンの話でも別の商会にも客を多く奪われているようだ。


「それでは旦那様、どうぞよろしくお願いいたします」

「ああ、勝手のわからないところも多いが、頼む」


 公爵領の別邸にはバカラの時と同じように、ロータスに総責任者として働いてもらっている。

 こちらではロータスの娘のキャリアが新しく私を補佐するようになった。

 ロータスの指導が行き届いているのか、自分の子だからといって手を弛めていない。私と違って良い教育者だ。

 キャリアは王都の本邸でいろいろと仕事していた子だった。ロータスと同じく諜報活動なども得意とする。闇に生きる者たちである。キャリアにも娘がいるが、そういう教育を施しているようである。

 他にもアリーシャやカレン先生、料理長のオーランたちも同伴してきている。


 当日は立食パーティーのようなものだ。

 2年前はなんとも気が利かないものかと思ったものだった。

 わずかばかりの軽食と、濁った酒やジュースがあったくらいで、みんなただただ立ち話をしているだけだった印象しかない。

 大半はいなくなった私とアリーシャを罵倒して笑う会と裸の王子様を言祝ぐ会でも進行していたのだろう。モグラの力を使って去る前に邸を泥まみれにしてやればよかった。


 今回は食品部門とアルコール部門、スイーツ部門をフル動員していく。

 他にも必須の部門や職人たちもいたが、彼らにも少し頑張ってもらおう。

 やるからには徹底的にやらせてもらう。


 ただ、本邸に行こうと言ったところ、カレン先生だけ浮かない表情をしていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る