第52話 生誕祭の準備〔1〕

 3年目の4月、ここにやってきて2年経ったことになる。

 

 小学校の運営は順調に行っていて、優秀な子はもう次の段階に進めてもいいのではないか、という声が学校の講師たちから漏れ聞こえてきた。

 講師は午前、午後のいずれか、あるいは両方の時間帯に働いてもらっている。

 もう学習することのない子には、個人指導をしている実態があるという。

 また、成人を迎えた大人の中にも、文字の読み書きや計算について相談されてきて、夜間学校を開いているところもあった。少しは講師数に余裕を持たせているが、整理が必要だった。

 なお、学校数は5校から20校になっている。


 中学校は2カ所作ったが、教育内容は講師たちに任せていた。教科書は1冊では収まらず、数冊用意することになった。中学校にまで進める子はそんなに多くはない。これは家の仕事とも関係があるのだろう。今はまだ強くは望むまい。

 もちろん、中学校にも給食はある。小学校に通っていた子どもの中にはそれを聞いて喜んだ子もいるようだった。


 高校はあと1、2年後くらいに作る予定にしている。この高校に教員養成コースを作って、たとえば小学校で子どもたちに教えるというのも一つの手かもしれない。今の講師ほどの仕事を求めるのは難しいが、支援することは期待できそうだ。

 

 実はすでにボランティアとして各学校の近くに住んでいる人で読み書きをかつて教えたことがあったり、教えたことはないが教えられる人たちが志願してやってきている。

 それぞれの学校の代表者に面接をしてもらって、必ず他の講師とセットで支援をしてもらっている。もちろん、有償である。こういう場で無償のボランティアなど、話にならない。

 学校から遠くに住んでいる子は通えない。学生寮を作るかとも思ったが、それも何か違うなと思い、やめた。へき地への支援はやはり悩ましいことだ。いずれは何名かをその場所に派遣していく、そういう支援の方がいいのかもしれない。



 学校といえば、カトリーナ王女があの学園に通うことになった。

 カトリーナは風の精霊と契約しているので魔法使いコースである。ちなみにアベル王子も風の精霊と契約している。

 このコースは人数が少なく、カーティスが最高学年にいるので、いろいろと手助けをしているという話である。


 じゃじゃ馬カトリーナのことでマリア王妃からも相談が持ちかけられたので、急遽王都に向かうことになった。


「ごめんなさいね、出不精なのにここまで来させてしまって」

「いえ、それは構わないのですが、やはりあの件でしょうか?」

「ええ、そうなの……。迷っていて……」


 忘れもしない2年前の王子の生誕祭だったが、今年はカトリーナ王女の生誕祭がある。

 時期は5月で、あと1か月である。

 その催しの総責任者は生母であるマリア王妃ということになっている。いったいバラード国王は何様のつもりかと思う。


 どうやら内々で相談に行ったマリア王妃に「バカラ・ソーランドがいるのであろう?」と確認したらしいというのだが、要は全てを私に丸投げをしているようなものだ。

 前の教会とのやりとりについては感謝しており、無難な政治をしているらしいが、第一王子派にも第二王子派にも中立であろうとし続ける。単に動かないだけかもしれない。


 邪知じゃち暴虐ぼうぎゃくでないだけまだマシなのかもしれないが、親としての仕事はきちんと果たしてほしい。とても3人の子の親とは思えない。

 どこか主体性のない国王、つまり傀儡くぐつのように誰かの言いなりになっている印象を、特に一年目は感じたが、そうかと思うと教会との一件のように妙に積極的になることもあって、よくわからない王である。


 この第一王子の場合は、他の公爵家、つまりバーミヤン公爵家が主体となって準備をしたようだった。場所もバーミヤン公爵家であるが、実務部隊はあのバハラ商会である。


 つまり、今回は我が公爵家が世話人として尽力することになる。

 ただ、王妃としてはこのまま辞退して開かないという選択もあるのではないかと弱気になっていたのだった。王妃は言わなかったけれど、第一王子派が圧力をかけてきているようだ。全く愚かさの底が見えない。

 この生誕祭の話は前の茶会にも出ていたが、なんとなくそういう気配があった。


「もう準備はしてあります、弱気なことをおっしゃいますな」


 それだけを伝えたが、まだ振り切れていないようなところがある。今さらキャンセルなどできようはずがないと、なんとか説得をして、開くことに決めたようだった。


 このままあの王子たちに我が物顔をされても困る。それにじゃじゃ馬カトリーナの晴れ舞台だ。せっかくなら思い出に残るものにしてやりたい。

 その熱意が伝わったのか、王妃も前向きになっていった。


「そう、そうね。ここで私が諦めたらあの子たちにも不憫な思いをさせるものね。わかりました。それではお願いします」


 王妃なのに私に礼をするというのは気が引けたが、他の人間に気づかれないようにした。

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