第45話 お菓子と歯科衛生

 モグラから妖精の話を訊いたので、改めてスイーツについて考えていた。


 ただ、すでにもうプリンやクッキーなどは作っている。保存の期間が長いものはせっせせっせと作り続けている。

 それらは給食にも出している。月に1回か2回くらいの頻度である。子どもたちは喜んで食べている。


 もったいないからと言って、家で一日中汗水流して働いている家族のために食べずにそっと包んで持って帰る子すらいる。なんともこちらの心が痛くなる話だろうか。そして一番心を痛めているのはその子の家族だろう。

 無理のない範囲で、給食にお菓子を出す日を増やしてくれないかとやんわりと嘆願はしているが、なかなかやりくりも難しいようなので無理は押しつけられない。

 それに栄養価もきちんとプロが考えているのだから、そういう越権行為は慎まなければならない。


 一口に甘いと言っても、いろいろな段階がある。

 チョコは好きだが餡子あんこは苦手、あるいはその逆の人もいる。

 娘は前者で妻は後者である。私は餡子あんこと娘とカーティスとアリーシャだ。

 妻は羊羹ようかんが上手かった。妻の作る羊羹はとても美味かった。良い小豆と砂糖の配分と丁寧な加工がその美味しさの秘密なのだろう。


 そもそも料理は味というが、食感だって色だって同じくらい重要なものだ。

 どんなに美味しい料理があったとしても、それが液体状になっていたら美味しいと思うだろうか? 

 そんな宇宙食みたいなものはまだ必要ない。


 だから、ふわふわ、さくさく、ぷにぷになどのオノマトペは、料理作りには大切な要素だろう。もちろん、これは広告のキャッチフレーズにも必要なことだ。


 この世界には牛がいて、さすがに牛乳はあって、そこからバターやチーズなどの乳製品はあらかた開発に成功している。

 加えて生クリームも作り、ショートケーキもチーズケーキも、さらにカカオの加工も上手くいき、チョコレートの開発もできた。


 総じて洋菓子については着々と進められており、いろいろな材料や手間の関係から、たとえば餡子あんこを使ったおはぎ、大福、どら焼きなどは開発されていない。

 それに加えて、和菓子については洋菓子ほどにはヒットしないかもしれないという商売上、運営上の理由もあり、洋菓子の方が反応が良いようにも思えて無理に手をつけようとはしていないところもある。こちらの方は他がある程度落ち着いてからでもいいかなと思っている。

 

 このあたりからスイーツ部門とアルコール部門の共同開発製品もできてきている。ブランデーなどの洋酒を使った菓子など、少し大人向けのスイーツもできた。

 冷蔵庫、冷凍庫の家電部門班たちのおかげで、アイス、シャーベットなども開発できている。

 夏場の給食に冷凍ミカンを出したら、ものすごい反応だったという。ミカンの入ったネットを使った石けん入れはできていない。


 家電製品もそうなのだが、この世界にはすでに電気はあり、だから昔の社会のように朝日とともに活動を始め、夕闇になったら終え、貴重な灯りの原料を無駄にしないように早寝早起きという生活スタイルではない。だから華やかなパーティーが薄明かりの中で執り行われるということもない。

 ただ、その電気はもっぱら電灯が使用目的であり、室内の灯りについてはかなり豊富だったのだが他の家電製品への応用、援用はなされていなかった。

 人工的に雷が起こせ、それを保存できる謎の技術があって、少しいびつな技術の普及だなと思ったが、家電製品についてはどういう仕組みと機能かを大雑把に伝え、比較的需要がありその仕組みもシンプルなものについては開発は歩みは遅いが進められている。



 さて、こうしたスイーツは一部限定商品にして、売りに出しているが、すぐに売り切れになる。

 一部を除いて大量生産、大量在庫には今しばらく日がかかるので、こういうのはやはり他国の王族、貴族や、この国でも第二王子派や中立派の貴族たちにケビンを通じて商売をしている。



 甘いものばかりが原因ではないが、糖と虫歯の関係にも注意をしておかなくてはならない。特に歯科衛生というものは注目されていない。

 私たちが生み出した食品によって、虫歯患者が増加するのは明らかなことなので、歯ブラシの宣伝、そして適切なブラッシングの情報提供も必要となる。


 ただ、妙にみな歯が白いように見えるのは不思議なことである。

 実際、私もそうなのだが、カーティスもアリーシャもとても綺麗な歯並びをしている。

 それに加えて白いし、虫歯もないし、不快な口臭もしないようである。


 髪の毛の色の件もあるので詳細は不明だが、総じてこの世界の人間の歯は丈夫で口腔内は清浄に保たれている、としか今のところ言えない。


 貴公子たちやヒロインが歯周病ししゅうびょうだったり歯槽しそう膿漏のうろうだったり、紅茶の飲み過ぎで歯が黄ばんだり、開いた口には詰め物や虫歯ばかりが見えるというのは確かに興ざめだろうし、目も当てられない。

 キッスや接吻というのがゲームの中にあるのか知らないが、ためらうかもしれない。

 朝に目覚めた時の口の中に不快さを感じないのは良いことである。


 これには実は面白い情報があって、側にいる者たちの中でも、とりわけ護衛のクリスとカミラの歯は白い。芸能人かと思うくらい白い。歯が命かというくらいに白い。

 あれこれと調べていったら、あの地獄の劇薬であるポーションが関わっているようで、二人の話でもポーションにはそういう効果がある、と護衛たちや冒険者仲間たちの間でも有名らしい。


 おそらく現在でも二人の歯が白いのは、ポーションに限らず、何らかの薬草や、特殊な水の中に殺菌や浄化効果があったり口内を酸性にせずに中性に保っていく効果がある、つまり歯周病などの防止、口腔内の環境改善や歯のエナメル質を守るような効能があるのではないか、と今のところ結論づけている。


 逆に歯科の技術がないということは、入れ歯もないわけで、歯が抜け落ちた場合の食事のあり方はかなり深刻といえるので、こうして流動食というものが注目されていくことになる。

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