第41話 精霊たちの働き

 土の大精霊と水の大精霊は、しょっちゅうソーランド公爵家にやってきて、呑んだり食ったりしている。どこの誰がこのモグラと白蛇が人の前には姿を現さないと言ったのだろうか。

 ただ、あまり人前ではない時に現れるのは確かなことであり、基本的には人に姿をさらすことは好まないようである。


「だって、みんな……しつこいのよ」

「うんうん、なんだかなって思うよ」


 白蛇もモグラもこの世界ではいろいろと苦労をしてきたのだろう。


 モグラ好みの土というのを土研究者のレイトは発見したらしく、モグラは最近はそれがお気に入りらしい。

 土の精霊のモグ子も遠慮するそぶりを見せて、でもがっつり食う。人の目のない時に一挙に口の中に掻き込んでいるかのようである。恥じらいなのだろう。


 白蛇はすっかり酒が気に入ったようだ。何でも呑んでチャンポンで、もはや中毒ヘビとでも名付けたいくらいだ。

 水の精霊のヘビ男も身体の大きさ以上によく呑む。


 この呑兵衛のんべえのヘビ男は水質調査が専門らしい。

 だから、地中の水質を調べることができる。

 呑兵衛でも素面しらふの時はしっかり仕事をする。いつも一言も二言も多く、不平不満を並べ立てているが、そういう不平不満は呑兵衛の時には言わない、不思議な生き物である。


 地中の水質ということで、「だったら温泉もあるんじゃないか」と言ってみたら、「温泉とは何だ!」と言ってきた。「温かい湯のことだ」と言うと、「それならあるぜ!」という流れになって、ヘビ男が見つけていたいくつかの場所に赴いた。


 それらの場所の中から、できる限り人里に近いところの地中に向かって土魔法で細い穴を空けたら間欠泉かんけつせんが噴き上げた。

 迫ってきた飛沫しぶきれた両のてのひらを何度かおもてうらにひっくり返して、あちちあちと、燃えてるんだろうかと訊いても、「火があるわけねえじゃねえか!」と言われたので、「マグマだってあるだろう」とつい言い返した。


 こうしてソーランド公爵領は天然温泉、露天風呂を手に入れることができたわけだ。

 ヘビ男が温泉を知らないということは湯治とうじというものもないということなのだろう。

 そこまで不便ではない場所にあるので、どうにかして観光資源という観点から利用ができないものか、これは課題として残しておくことにした。


 魔物などがやってこないように塀を築き、それなりの見栄えのあるように手を入れたが、周辺の村々の人たちが利用をしているようだ。

 風呂という文化のない人たちは多い。だから、いきなり温泉、いきなりダイブという子どもたちも多いという。穴があったら入りたく、風呂があったら飛び込みたい、そういう心理はあるのだろう。

 だいたい日本でもよくされる注意点などを村の責任者たちに伝えておいた。おしっこをされたら大変である。


 循環ろ過ではない源泉掛け流しは近くに欲しいが、これはヘビ男の働き次第なわけで、まだ見つけていないところもいくつかあるようだ。「ささ、もう一杯」と酒を促し、便宜を図ってもらえるようにヘビ男には接待をしている。


 他にもいろんな水の発生する場所を教えてくれて、硬水や軟水が発生する場所がわかったり、村々にはない井戸を掘り当てることもできた。


 水不足が深刻な地域には大いに助けられた。地を掘ることは多くは徒労に終わることもある。ここだとピンポイントで教えてくれることは、その徒労感を味わう必要がなくなる。

 水がなければ人も獣も生きていけない。これだけでずいぶんと領民たちの生活も楽になったと思う。


 米もようやく手に入ったので、こちらも秋頃には収穫でき、日本酒だって造ることもできるようになる。

 また、カカオの実も入手できた。米もカカオのどちらもこの国からは離れた他国で育成されているらしいが、知名度も利用した形跡もほとんどなく、しかし公爵領地で栽培ができる。

 この世界にはまさかチョコレートもないとは、というのはもう今さらか。


 いずれにせよ二大精霊と二小精霊たちがいるおかげで、元々の計画を早めることができた。

 そのことを考えたら、ある程度採算を度外視して、土や酒の研究をして奉納してもいいくらいだ。

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