第24話 水の大精霊との契約〔3〕

「土の大精霊様からいろいろな植物が手に入りさえすれば、そのようなもっと美味しい『水』が用意できると思いますが、いかがでしょうか」

「うーん……そうねぇ。こんなのが呑めるのなら、いいわねぇ。うん、わかったわ、契約してあげる。えっとどの子なの?」

「はい、こちらにいる私の子どもです」


 カーティスがアリーシャを伴って前に出た。


「えっと、そっちの僕ね。うーん、えい! これでいいはずよ。なんか気分がふわふわしてくるわね」


 そりゃ一樽を一挙に飲み干したんだから、酔いもするだろうとは言えない。

 アルコール度数もそこそこだが、これほどの量を飲むならあの八岐大蛇やまたのおろちも確実に酔って眠ってしまうだろう。


「うーん、今の気分は最高潮だから、隣のかわいらしいお嬢ちゃんにも少しだけ水の魔法が使えるようにしちゃうわ。隣の僕よりは弱いけれど、他の精霊よりは使えるわよ」

「えっ?」


 なんとアリーシャまで恩恵にあずかることができた。これは願ってもないことだ。


「こらこら、ちょっとやりすぎじゃない? 水の大精霊ちゃん。一人に二つの属性魔法なんてあまり例がないよ」

「だって良い気分なんだもの、あなたも呑みなさいよ。ねえ、もうないの?」


 ないかといわれたらある。

 しかし、数は少ない。

 それでも、今渋って放出せずにいつ出すんだ。

 今がその時だ。


「あります。おい、持ってきてくれ!!」


 急いでもう2樽用意した。これはラガーで、もう一つはワインである。

 ワインの方は今ひとつクオリティーが低い。それでもこの世界のワインよりは遙かにましだ。


「ほら、あんたも呑みなさいよ。ほらほら……あら、この水もさっきとは違うけどいいわね。じゃあ、水の精霊もあげちゃうわ」

「うん? うん、うん。…………あー良い気分だね。そっかこういう気持ちで契約しちゃったんだね。そうかそうか、じゃあ僕もえい! 一人に二属性なんて前例だってあるしね。うん、君にもちょっとだけ土の魔法を使えるようにしたからね。これで兄妹のバランスがとれていいね、うん」

「はっ?」


 今度はカーティスとの契約をしてしまったようだ。

 つまり、カーティスとアリーシャは土と水の魔法が使える、ということになった。

 二つの魔法を使える人間がこれまでいたのだろうか、モグラの話では数が少ないようだ。

 さらに小さな白蛇、水の精霊を世話することにもなった。やはり、報酬はお酒だろうか。


「俺様にも美味しい水をよこせ!」


 こちらは腕白な精霊のようだ。蛇というのもこうしてみると愛嬌のある生き物だ。

 仕方なく、残り少ないエールを分け与えた。身体の大きさ以上に呑めるのだから、精霊というのはまた特別な身体構造なんだろうな。


 急なことだが、アルコール部門にも一時的に仕事を追加しなければならないか。

 今の質程度であれば設備さえ整えればがっつりと大量生産ができる。それが一定量市場に出回ればまとまった利益が定期的に入ってくる。

 

 飲食業界、特に居酒屋などの場合は創作料理やつまみというよりは、その利益はドリンク代、つまりアルコール代に支えられている。正確にいえばその飲み物に合い、手間が掛からず原価率の低いものが注文されると利益が上がる。

 生ビールはそうではないらしいが、チューハイなどは原価率は低い。

 しかもドリンクは調理と違って時間も掛からず、生食品と違って保存もできるので、用意さえしていればすぐに提供ができる。ソフトドリンクなどもそうだろう。


 行きつけの居酒屋の店主が言っていたのは、手間がかかって原価率も高い料理と、一杯のソフトドリンクならまだしも、水だけだとなかなか厳しいということだった。

 もちろん、客に罪はないし、経営の難しさだ。


 粉ものと呼ばれるうどんやお好み焼き、たこ焼きなどは原価率が低いことで有名であるが、一方で調理時間や仕込みが長いという欠点もある。それに客の回転数も関係している。

 鉄板や炭火などを使う場合は光熱費も馬鹿にならない。だからおのずと限界も見えない苦労もあるようだ。

 粉ものに関しては麺類やつゆやソースなども含めてまだ試作途中であるが、また一風変わった料理なので是非とも完成させたい。


 研究者たちには報酬を上乗せしておこう。成果に見合った報酬を与える、これは彼らとの約束でもある。


 バタバタすることになったが、こうして二大精霊たちは帰っていき、小さなモグラのモグ子と、小さな白蛇のヘビ男が新しく仲間に加わった。

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