第20話 子どもたちの願い〔1〕
「な、な、な、なんだー、この土は!!!!」
急に大きな声が森の中に響いてびっくりした。ひっそりと身体を休めていた鳥たちが羽ばたいていってしまった。
「バカラ様!」とクリスとカミラが異常を察知して私たちの前に出る。
おどろおどろしい煙のようなものが祠から発生すると、その祠の上にほわんと浮かんでいるものがあった。
モグラである。
それも特大のモグラだ。なぜかスコップを持っている。なかなかシュールな光景である。
「えっと……、あなたはもしかして土の大精霊様でしょうか?」
バカラの記憶にも土の大精霊の姿はない。見たことがないのだ。
しかし、状況から考えたらそう考える方がいいんじゃないか、どうせガバガバ設定なんだから。どう考えてもまともな動物じゃないだろう。
これで「しゃべるモグラ」というのなら、それならそれでいい。発声器官がどうなっているのか、気になるところだ。
「そうだよ。ああ、姿を見せるのは初めてだったね。あれ、君、ちょっと変わった? それよりこの土どうしたのさ? 毎年の出された土よりも上品で美味しい。こんな土を隠し持ってたの? だとしたらひどいよ」
大精霊というのはこんなに軽いものなのか。もう考えるのが馬鹿馬鹿しくなってきた。
とりあえず、用意した土は公爵家で研究している土であり、今年は特別な土であることを説明した。
祠に用意された土がすっかりぱさぱさになっている。大精霊が食べたということか?
「そうなのか。いやあ、人間って面白いものを考えつくんだね。自然のものが一番美味しいなんて間違ってたね。実はあの土、僕もどうかなと思ってたんだよね。そうか、こんなものを作れるんだ。いいね、その心意気は買った。一つくらいは願い事を叶えてあげてもいいよ」
大精霊はご満悦のようで安心した。モグラは土を好むのだ。食べるとは思わなかったが。
「願い事ですか?」
「うん、無茶苦茶なものじゃない限りはいいよ」
だったら、第一王子派の連中を一人残らず苦しめてほしいと思ったが、たぶんそれは無茶苦茶だ。
それにそれは誰かにしてもらうんじゃない。私の手でやることだ。
「カーティス、アリーシャ、何かあるか?」
あえて子どもたちに訊くことにした。今の私よりも良い願い事があるかもしれない。
二人とも悩んでいるようだ。願い事を一つ、と言われてもすぐに浮かぶもんでもないだろう。私もなかなか浮かばない。
そのうち、アリーシャが先に声を挙げた。
「私はもっと豊富な種類の花や植物があったら嬉しいです」
確かにそれは魅力的な提案だ。
土地によって育っている植物は異なる。様々な植物があるのは良いことだ。アリーシャは土の精霊と契約している縁もあって、植物を愛でる子なのだ。
「私もアリーシャと同じです」
カーティスもアリーシャと同じ願いだった。
ただ、カーティスがどこか様子がおかしくて、言いたいことを言えていないように見える。
私も少しばかり考えてみた……。
ふむ、そうだな。これがいいかもしれないな。
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