Ⅱ章 オーパーツと謎の大学生 ――そぐわない存在――

5-1話 吉本直樹 ――奪われた遺物――

「なんとも、たいそうなものだな」


 四条教授が発掘現場に運び込まれた様々な機械に眼を細めた。


 吉本も驚いた。トラックほどもある巨大な機械からスーツケースほどの装置まで、大小さまざまな調査機器が並んだ様子は、まるで巨大な工場のようだ。とてもその場が発掘現場とは思えなかった。


「超音波非破壊検査装置といっても様々あるようです。対象の大きさや素材によって変わるようですが。それだけでは不安なので、レーザーや電磁波による装置も準備してもらいました。工場内で使うものがほとんどだそうで、クレーンや台車までそろえると、こんなです」


 久保田准教授が説明する。


「予算内に収まっているのかね?」


「もちろん。そこは調査実績を広告に使用することを認める条件で、値引きしてもらいました」


 彼女は得意げに応じた。


 前方後円墳型の遺物には足場が組まれ、上部や左右に様々な装置が設置できるようになっていた。底部を調査するために、数カ所、トンネルが掘られたが、そこも上部と変わらず出入り口のようなものはなかった。左右が対称であるように、上下も対照的な形状をしていると推測されたが、それも電子機器による調査で明確になるだろう。


 上空をドローンが飛んでいく。メディアのものだ。多少の放射線など、彼らの好奇心を封じることはできない。一方で発掘チームは天鳥船を岡の上や冷房の効いた本部テントの中から観察し、直に触れることは極力控えた。命あっての物種だ。


 調査会社の技術者は、目の前に横たわる天鳥船の異様さに驚きながらも、黙々と検査装置を設置した。半日もすると天鳥船に慣れて、「これは火星人のUFOですよ」と冗談を飛ばすまでになった。若い准教授たちは話しをあわせて笑ったが、四条教授は苦虫をかみつぶしたような顔をしていた。


 検査には5日を要した。そうしてわかったのは、後円部にあたる場所に4層の空洞があるということだった。一方、前方部の内部は判然としなかった。空洞らしきものがあるという程度だ。空洞があったとして、何かが密な状態で埋め尽くされている、というのが調査にあたった技術者たちの見解だった。


「表面は同じですが、後円部と前方部の内部素材は異なっているのかもしれません。それで計測機器の反応が違っているのでしょう」


 技術者の意見に吉本は困惑した。彼の言うことが事実ならば、天鳥船が高度な科学技術をもって造られているということだ。


「オーパーツ……」


 頭に浮かんだ言葉が唇を震わせた。オーパーツは発見された場所や時代にそぐわない遺物のことだ。もし、目の前にある天鳥船がそうなら、もはや、自分の手に余る遺物だ。


「やはり内部の一部は空洞なのだな」


 渡辺教授が喜色を浮かべた。


「天鳥船ですね」


 無邪気に喜ぶ木野川准教授を、四条教授が険しい眼で見た。


「空洞があるだけなら、石室の可能性は否定できないだろう。クフ王のピラミッドのようなものだ」


 渡辺教授が四条教授を窺いながら、おもねるように言う。


「クフ王のピラミッドは、墓ではないかと……」


 矢野准教授が言わずもがななことを口にし、久保田准教授に袖を引かれた。


「モニュメントを移動しやすくするために、内部を空洞に作ったのだろう」


 四条教授はどうしてもそれを天鳥船にはしたくないようだった。


「前方部は宝物庫ではないか?」「集合墓かもしれない?」「天鳥船の機関部ではないか?」


 内部構造の複雑さは研究者たちの好奇心を刺激し、同時に、彼らの調査能力の限界を突き付けた。

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