2-2話
デモの隊列はズンズン進んでいて、最後尾も彼らの横を通り過ぎた。3人の視線がそれを追った。その影は、もう遠い。
「のんびり歩いているようで、早いものですね」
住吉が感心し、洋一が頷いた。走って追いかけるのも
「今日は終わりにしましょうか?」
姫香が提案すると住吉が目を丸くした。
「いいのかい? そうしろよ。ヒロ」
洋一が畳みかける。
「僕は構いませんが、先輩はいいのですか?」
「僕のために申し訳ない」
チャンスを逃がすまいとするように、洋一が頭を下げた。
「いいんです。核問題にはそれなりの信念がありますが、デモには義理で出たようなものだし……」
話ながらスマホを取った。デモ隊の中にいる純子に、用事ができたので帰る、と伝えた。
3人は地下鉄の駅まで歩いた。最初は比呂彦と洋一が並び、その後を姫香が歩いた。ところが、いつの間にか姫香と洋一が並んで歩いていた。彼が最寄り駅や比呂彦との関係など、あれこれ質問を投げてくる。それは地下鉄に乗ると度を増した。プライベートなことを訊かれると男性恐怖症が頭をもたげる。それを避けるために姫香から尋ねた。
「宗像さんは、政治には関心が無いのですか?」
「そうだなぁ。俺はボールを追っていたほうが、気持ちがいい」
「体育会系ですか?」
「洋一君はそう見えても、原子物理学を専攻しているんだよ。サッカーボールを蹴るのは、核分裂のシミュレーションだろう?」
比呂彦が背後で笑った。
「私、理系の人、尊敬しちゃいます。おまけに体育会系なんて、オールマイティーですね」
半分は本音で、半分はお世辞だった。
「そんなことはないよ。此花さんが言う通り、政治の方はちんぷんかんぷんだから……」
彼が苦笑いを浮かべて問い返す。
「……此花さんは、どうして歴史を?」
「自分のルーツが知りたいからです。宗像さんは、知りたくないですか?」
「僕にとってのルーツは、DNAということになるね。そしてそれはタンパク質であり、窒素やリン、炭素などの原子だから、僕もルーツを追っていることになる」
「うわぁ、格好いいですね」
それは100%本音だった。
洋一が顔をほころばせて頭を掻いた。
――まもなく池袋――
到着駅のアナウンスがある。すると比呂彦が顔を寄せて耳打ちした。
「奈良での発掘は細心の注意を図るよう、吉本准教授に伝えてください」
彼の話が呑み込めなかった。
「発掘だもの。先生たちは慎重にやるわよ」
「普段と同じではだめなのです。くれぐれも健康に留意するよう……」
彼がそこまで言った時、地下鉄のドアが開いた。乗客が慌ただしく動き出す。
「それじゃ、くれぐれも……」「僕らは西武だから……」
比呂彦と洋一が人波に押されていく。
「お疲れ様でした」
姫香は手を振った。
電車から押し出された2人がホームで手を振っている。姫香は頭を下げた。その時には、比呂彦の警告をすっかり忘れてしまっていた。
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