ほぼ一四〇字コレクション

田中ざくれろ

短編集

 俺は世界を牛耳るエリート企業の長男として生まれた。

 将来は退屈なくらい、約束されていた。

 成功するしかない人生は本当に退屈だ。

 ある日、ネットから流れてきたパンクソングが俺の心に響いた。

「♪親に敷かれたレールの上を、暴走死神地獄特急!♪」

 二〇××年。地球はパンクな俺によって支配された。


★★★


 初めまして、地球さん。

 恒星型生命体『太陽』としてあなたへの最初のメッセージになります。

 このメッセージは光速で届くので、あなたがこれを受け取るのと影響が現れるのは同時だと思います。

 実は……超巨大スーパーフレア発生させちゃった!(てへぺろ)


 地球「じゅっ!(消滅)」


★★★


「これが答えだ文句あるか?」

 物心ついた時から友人知人家族教師に「冷酷」だの「冷血動物」だの「人の心がない」だのと言われ続けてきた俺は、一等賞金三億円・前後賞一億円の当たりくじを換金した現金すべてを、彼らの眼の前で駅前に並ぶ募金箱に片っ端から無造作にねじ込みながら不敵に笑った。


★★★


「近所の河辺は半端じゃなく四つ葉のクローバーが多かったんだ。五つ葉や六つ葉も簡単に見つかった。最高記録は九つ葉だったな」

「幸運まみれだね」

「上流にゴミの不法投棄現場があってね。どうやら土地が化学汚染されてたみたいなんだ。とても幸運とは思えない。子供の頃のクローバーの思い出さ」


★★★


「あ、医療従事者と配送業務者だ」

「このパンデミックの中、私達を支えてくれてるんだ。拝ませてくれ」

「あ、マスクその他諸諸の転売ヤーだ」

「石投げたれ」」

「汝ら、心の中で一度も転売を考えた事ない者のみ、石を投げなさい」

「じゃ、遠慮なく石投げたれ」


★★★


「宝くじの一等が当たる確率は道を歩いていて、偶然、隕石が当たって死ぬ確率より断然に小さいんだ」「俺の望みは死ぬ時は絶対、隕石に当たって即死する事なんだ」それが口癖だった親友は宝くじの一等前後賞に当選したその日、隕石が命中して死んだ。彼は果たして超幸運だったのか、超不幸だったのか。


★★★


(拍手)「こんばんは。『あの人はイマ!』の時間です。では早速この方からどうぞ」

(マイクにシャウト)「おまいら! COVID-19が完全収束してないってのに、あたいをキレイさっぱり忘れてんじゃねえっ!」

(笑いながら)「えーと。アマエビさんですよね」

(真剣な顔)「アマビエです」


★★★


(拍手)「こんにちは。『正論ティータイム』です。ではこの投稿から」

(動画)「新型コロナって呼び方やめろ! 次に新しいコロナウイルスが流行ったらどう呼ぶ? 新新型コロナか、その次は新新新型か!?」

(司会)「真剣ですね」

(ゲスト)「アニメオムニバスCDにこういうのありましたね」


★★★


(拍手)「こんばんは。『映画ヒーホー』の時間です。ではこの投稿から」

(動画)「Tレックスを輸送した船の人間が全滅してた謎! 伏線にもならずあのまま投げっぱなしかい!」

(司会)「ジェラシックパーク2の話ですね」

(ゲスト)「投稿者はそれが3のメインプロットになると思ってたらしくて」


★★★


 ずっと片思いだと思っていた同級生の家に呼び出されて、彼女の部屋で僕に渡されたチョコレートは体温ですっかり溶けた、甘すぎるほどの口移し。

 制服姿の二人がいつしか指を絡ませるほどに溶けたチョコの口移しに思いきり熱中し、あのバレンタインデーの夕は妻と僕の心にくっきり焼きついている。


★★★


 俺が恒星間ローコスト・キャリアの乗員になって五年。

 この宇宙船の二等乗客用人工冬眠装置は、全自動コインランドリーを改造した安上がりな品でしょっちゅう事故が起きる。

「あー! またお客様が機械の中でグルグル洗われてる!」

 洗濯完了したお客様を死体袋へ移すのが俺の主な仕事だ。


★★★


 ギョギョギョ!

 この『さかなクン』の正体に気づいてしまった人は、正気度ロールを失敗すると1D6の正気度を失うんですね~。

 フグの帽子を脱がした人達は、もれなく1D100+10の正気度損失ですよ~。

 ふんぐるい むぐるうなふ くとぅるう るるいえ うがふなぐる ふたぐん!


★★★


「オス・メス・キス・パンツ・ヌゲ」

「何それ」

「小学校で流行ってた言葉」

「子供ってHな言葉を流行らすわよね」

「今日のおかずは靴下♪ 明日のおかずも靴下♪」

「それもHな言葉?」

「学年で一番面白い奴が歌ってた」

「ふうん」

 ベッドで語り合う話題じゃない。しかし無意味すぎて笑える。


★★★


「きめーんだよ!」

「そう言われましても」

 僕のプロポーズはいきなり潰えた。

 四〇すぎで毛髪も寂しくなったサラリーマンにいきなり町中で告白されたら、ギャルでなくてもそう返すだろう。初対面だし。

「大体、あたしの何が気にいったんだよ?」

「胸尻太腿」

 靴底は容赦なく僕を踏みつける。


★★★


 五歳児が、原爆の幻を見ておびえている。

 鳩が飛ぶこの街に、生らぬ松ぼっくりの影。

 達磨さん、達磨さん。アップデートしましょ。

 東北に水の蝶蝶が舞い、光薄めてウオの刺身の舌。

 君はホメオパシーが好きかな。

 好きならばきっと気に入らないと思うよ。

 夏の暑さは腐らない青。


★★★


 コンピュータが生活に無縁だった頃、下手に触ると火を噴いて爆発すると本気で思っていた。

 初めてパソコンを買った時にウィンドウを開きすぎてパニックになった私を救ったのは、解説書の「PCは多少乱暴に扱っても壊れません」という一文だ。

 あれを書いてくれた人、今もお慕い申しております。


★★★


「おすぎとピーコって双子の評論家いたじゃん」

「あー。いるなあ」

「どっちが映画評論家だっけ」

「『ピーコのファッションチェック』って言葉を憶えているから、残ったおすぎが映画だよなあ」

「ピーコいいなあ。俺も人のファッションのケチつけてお金もらえる仕事やりたいな」

「頭悪そうな感想」


★★★


「どんくさいわね。全く」

「互いに初めてなんだから仕方ないよ」

 思春期になって幼馴染に手っ取り早い初体験相手に選ばれたのはいいけど、まさかキスでここまでてこずるとは思わなかった。

「知識だけあって実践はからっきしなのね」

 嘲笑う彼女の唇を、僕はキスで無理やりこじあけて舌を絡める。


★★★


「全裸で仁王立ちはやめてくれないか」

「やらしい眼で見てる方が悪いのよ」

 家では、母と姉と妹は裸族。

 服を着るのは俺と父だけ。

 俺は思春期になって変わってしまった。

「素直になればいいのに」

 そう言うが男には素直な気持ちを如実に表示する器官がありまして……これ以上は言えません。


★★★


「赤ちゃんって可愛いわよね」

「! なに赤ちゃんが欲しい!? 解った! 早速僕が手伝ってあげよう!! ……ってえぷし!?」

 俺はベッドの上で平手ではたかれた。

「何故そんなに短絡するのよ!」

「恋人とのベッドの上でその対応こそないんじゃないかい!?」

 俺は遺憾の意を堂堂と述べる。


★★★


 馬に乗る騎士が地上のドラゴンにランスを突き立てている。私はそういう絵を描いている。

「なんでお前の描くドラゴンはこんな小さいのばかりなんだ」

「それは宗教観に因る。キリスト教ではドラゴンは悪魔なんだ。聖騎士は卑小な悪魔に常に勝利する。そういうテーマさ」

 私は言いつつ筆を休める。


★★★


「生アイドルって見た事ある?」

「初めてのアイドル? 成人式にサプライズで人気アイドルが出てきてコンサートが始まったよ」

「へえ。それは盛り上がるね」

「いや人気だと言っても観客全員ファンじゃないし、アイドルも雰囲気のギャップに戸惑って場はギクシャクしてた」

 特にオチはありません。


★★★


「へい! 必殺パグチョキ!」

 パーから薬指小指だけ曲げた手を出す。

「何それ」

「ジャンケンで無敵の手だぜ! グーにもチョキにもパーにも同時に勝ってる!」

「グーにもチョキにもパーにも負けていると言えなくない? あんたの負けね」

 相手は最後のプリンをプッチンして一口でたいらげる。


★★★


「孫悟空といったら堺正章だよ」

「そうか。俺は志村けん派だが」

「やはり『モンキーマジック』は名曲~」

「ドリフの人形劇のピンクレディが歌う『スーパーモンキー孫悟空』もいい」

「ジャンジャンやろうぜ、ジャンク―ゴ♪」

「何それ。そんな歌知らね」

 年配の男達のTV番組談義で夜は深まる。


★★★


「神林長平が大好きなんだよね~」

「ああ。SF作家の」

「ソリッドな文体からのメロウな作風。ロマンあふれるロジック。メカを描写するとすっごくイキイキしちゃってさ~。映像化したらいいのに~」

「『戦闘妖精雪風』はアニメ化してるじゃないか」

「……ファンの眼からするとあれはあかんかった」


★★★


 核兵器で滅んだらSF。

 魔法で滅んだらファンタジー。

 滅んだ後、科学知識で再興したらSF。

 精霊が生物相を潤したらファンタジー。

 地球が巨大隕石で滅んだらSF。

 巨大魚で滅んだら新井素子。

 新人類が滅亡前の車を復活させようとしたら神林長平。

 人類が滅んだ後も年表が続くのが永野護。


★★★


「全然刺激が足りないのよ! 私が欲しいのは軟らかい肉に固い肉がぶつかるのとか、毛がもつれるのとか、生臭い匂いと匂いが混ざり合うのとか、互いの汗で滑り合うのとか、シーツを掴んでしわくちゃにするのとか、恐怖映画の如く絶叫するのとか……!」

「……で結局キミは何が言いたい?」

「シたい」


★★★


「円盤だ! 空飛ぶ円盤!」

「白い球体に見えるな。平たくないから『円盤』ではない」

「じゃ、UFO!」

「物体に限らないからUFO(未確認飛行物体)ではない。米国の様にUAP(未確認航空現象)と呼ぶべきだ」

「……呼び方で揚げ足とって面白い?」

「俺は不真面目でないから。じゃ、明日」


★★★


 皿の数をお菊さんの幽霊が数える『皿屋敷』。

 この怪談は同じ話が日本のあちこちにあり、その中で最も有名なのが『番町皿屋敷』だ。

 同じく怪談の定番『牡丹灯籠』。

 これは中国がルーツらしい。

 調べてみると意外な事が解る日本の怪談。今の都市伝説で何が生き残るかは百年後のお楽しみでございます。


★★★


本の中ほどを開く。

イソギンチャクとクマノミのイラストが描かれた童話のページ。

俺はそろえた二本指をイラストに置いて、作者の仮想執筆空間にダイブする。

俺の第三の眼は作者が執筆していた時点の心象風景にリンクした。

醜い。腐った野菜の心象だ。

図書館探偵の俺は、更に作者の狂気を調べる。


★★★


「失敬」

そう言いながら私は非常用コックをひねった。

旅客機のドアが吹っ飛び、機内が一気に減圧。客の荷物が外へと吸い出される。

私はタキシードの裾をなびかせながら、警官の包囲を逃れて高度二千mの空へと飛び出す。

パラシュートはない。

しかしすかさず私を拾ってくれる相棒の鷲が頼もしい。


★★★


「キュンです」

「はあ?」

「貴女に一目惚れした僕の気持ちです。結婚してください」

「初見で言う台詞か。どうしてもって言うんなら金持ってこい」

「じゃあ現金で五〇億円」

「……いいわ。結婚しましょ」

 こうして二人は夫婦となった。

 愛は妻が財産を使い尽くすまでの間、実に七日間続いた。


★★★


灼熱や あどけなき肩の 雀蜂

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