旧式の俺と旧式のアンドロイド

残業が終わり誰もいない会社を出る。

砂嵐のような音を立てアスファルトの上で踊る雨粒。

開きかけた傘を閉じ、たたきつける雨を全身で感じ歩き出す。

アンドロイドと人間が共存する世界になってしばらく経過した今も俺は未だに順応できないでいた。

誰もいない道を歩いていると見慣れたシャッター街に旧型アンドロイドが廃棄されていた。

新型と違い旧型は家事、会話、キス、性行為といったセクサロイドとして販売されたが新型はさらに美男美女になり、旧式の機能以外に運転、料理、洗濯など身の回りのことはすべてプログラムされているため新型アンドロイドが発表されると次々廃棄されていった。

廃棄され雨にうたれている「物」を尻目に帰宅する。

会社で同僚が新型のアンドロイドを買ったと自慢げに話していたのを思い出す。

俺はアンドロイドを物として見ることは出来ず「買う」という行為に抵抗があった。

次第に男性型も開発、販売され購入する女性も増えていった。

「俺には必要ないし関係ない」

帰宅し、ドアを開けると当たり前だが部屋は暗く誰もいない。

玄関に鞄を投げ捨て冷蔵庫からビールを取り出し一気に流し込む。

「俺には必要ないし関係ない」...そんな思いをかき消すようにもう一本取り出し一口飲む。

もし...もしあのアンドロイドを連れて帰っていたらと頭をよぎる。

気づけば家を飛び出し、旧型アンドロイドに傘をさしている俺がいた。

人を感知したのか無機質で温かみの感じない音声で「何か御用でしょうか」...と。

「あっ...えっと...風邪ひくぞ」

「アンドロイドは風邪をひきません」

「故障個所があればサポートセンターにご連絡ください」

そんな彼女を俺はアンドロイドとしてではなく「人」として接することにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る