アーニャの冒険~鍛冶の国の盗賊娘~

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第1話 盗賊少女と新米冒険者

 街の喧騒を背に木造平屋建ての商店が並ぶ大通りを進み、蒼い暖簾を抜けて冒険者ギルドの建物へと入ると、外とは打って変わって静けさが支配していた。

 年明けすぐ、しかも込み合う時間からは外れた中途半端な頃合。ギルドは年中無休とは言え、さすがにこんな日は人が少ないらしい。いつもは酒場兼食堂に詰めている荒れくれモドキたちも、今日は呼び出しでもない限りお家で大人しくしているのだろう。


 壁に並べて張り出された依頼書に目を通す。すべて共通語で書かれているが、生まれた国とは癖が違って読みづらいな。そもそもあたし自身、読み書きが得意な方じゃないんだけど。

 掲示されているのは薬草採取や護衛の依頼などがメイン。採取は安くてめんどくさいし、ちゃんとできるかが分からない。護衛はギルドのランクが足りなくて不可。って事は、掲示の依頼じゃなくて受付で魔物の目撃情報を仕入れるべきか。


「魔物の目撃情報について、伺っても良いですか?」


 カウンター越しにちょっと暇そうにしていた受付のお姉さんに声をかける。

一見すると人間っぽく見えるけど、鳥人バードマンかな?首元に若干羽毛が見える。


「あら、可愛い獣人のお嬢ちゃんね。年明けから熱心な事だけど、どんな情報が欲しいのかしら?」


 ん~……そりゃあたしはまだ成人したばっかりで、背も低いから侮られるのは分かるんだけど……まぁ、良いか。特に実績があるわけじゃ無いし、そんなもんだよな。


「ランク2に上がるために査定にかかりそうな大物の目撃情報」


 冒険者ギルドの会員証を提示しながながら、目的を告げる。

 正月を過ぎたばかりの冬のさなかに、わざわざ一人でギルドに来ているにはそれなりの理由がある。


 あたしの名前はアンナ。孤児院の出だから、フルネームならアンナ・グレイビアードになるのかな。今は愛称だったアーニャで通している。


 あたしはココよりはるか北にあるクロノス王国と言う国の生まれなんだが、ちょっと理由があって、魔物の大ボスである魔王を倒す、と言ってる師匠――当人の前では言わないが、あたしは心の中でそう呼んでいる――にくっ付いてこの国までやってきた。

 旅に出た時はまだ未成年でギルドにも仮登録だったのだが、先日晴れて成人を迎え、駆け出しの冒険者として認められるようになったのだが、その後、このボラケ皇国にしばらく滞在することに成った師匠から与えられた課題が、パーティーメンバーの力を借りずに、冒険者のランク2に上がることである。


「え……あのね、お嬢ちゃん。首都の周りは確かに強い魔物は少ないけど、今は活動している冒険者も少ないから危ないのよ? 成人してステータスが上がって、ちょっと無茶できるのは分かるけど、そう言うのは感心しないわ」


 ……普通の人の反応はやっぱこんな感じだよな。あたしも数か月前まで似たようなもんだったし。


 成人すると神様の加護で健常者に成って、そこから神殿で祈りをささげると様々な職に就ける。職業にはレベルがあって、レベルが上がればステータスが伸びてスキルを覚える。この職業システムは1000年程前に神様が作ったらしい。職にもよるけど、10レベルもあれば人の倍の力が容易く振るえるようになるのだから、そりゃ調子に乗るやつも出るだろう。そう言うのが無茶しない様に指導するのも、ギルドの重要な役目だ。


 しかしあたしの場合、そうも言っていられない。

 ランク2に上がるのに一般的に必要な貢献量は、魔物の討伐だと半年から1年かかると言われている。他の方法もあるのだが、今回の課題だとそれはやらないほうが良いだろう。

 あたしの目標はこの国滞在予定である長くても2カ月の期間でランク2に上がる事なので、あまり悠長にザコ狩りをしているわけにも行かないのだ。


「ちょっとそうも言ってられない事情があってね」


 カウンターの上に自分のステータスの一部を表示して見せると、彼女は驚いたように目を見開いて、「す、すこしお待ちくださいっ!」と慌ててバックヤードへ駆けて行った。

 ……そんな慌てなくてもいいのに。

 あたしの目的は“普通”の冒険者として成果を上げてランク2に上がる事であって、コネで実績を上げても、そりゃあ師匠の意図とは違うだろう。そう言うのは良くない。


「おい、お前!お前も新人だろ?」


 暫く手持無沙汰で待っていると、背後から声をかけられた。

 さっきから掲示板の前で何やらは話していた、若い二人組の男女だ。年齢は同じくらいだろうか。男の方は刀と呼ばれる片刃刀を腰に差し、女の方は長い天然木の杖を持っている。二人ともまだ若く、あたしとそう変わらない年齢だろう。

 師匠が少年少女と呼んでいる範疇に入るかな?


「タケル、いきなりは失礼だよぉ」


「コノハは黙ってみてろ。こういうのは最初が肝心なんだ!」


 口に出しては最初が肝心も無いと思うけど。

 孤児院にもいたなぁ、こういうガキ大将っぽいの。ってか、師匠に会わなかったらあたしがそうだった可能性も高い。


 タケルと呼ばれた少年は深い藍色の髪を短く切りそろえていて、ところどころくせっけがはねている。おそらく人間族だ。この国で髪を伸ばしていないのは、髪を売らなくていい富裕層に多いらしい。年齢と武器から言っても多分そうだろう。


 コノハと呼ばれた少女は、師匠と同じ黒髪を長く伸ばして後ろで結っている。杖を握る手から、中流階級か、それより下か……と言った雰囲気。良い所のお嬢様では無さそう。しかし、いいなぁ。ストレート黒髪につやがある。あたしの赤毛は癖があって、どうにもまとまりがない。師匠は燃える炎みたいで良いと言ってくれるが、コレでも一応女なのでその表現はどうかと思う。悪い気はしないけど。


「簡単に言うぞ!今、この辺りは冒険者が減ってて、パーティーの人数が少ない俺らみたいなのは森に入らないように制限があるんだ!採取依頼も受けられないし、ドロップ品もかなり安く買いたたかれちまう。お前も同じだろう? だから、俺たちの仲間になれよ」


 後で訊いた話だが、これは新米冒険者を守るための冒険者ギルドの措置らしい。


 首都の周りは見晴らしのいい農地が広がっていて、魔物が多いのはその先の森になる。農地に侵入した弱い魔物は、初心者ノービスと呼ばれる成人したばかりの若者が狩っていて、職に就いた冒険者なら、たとえ新人であっても離れた場所で依頼をこなす。

 ただ、森はそれなりに危険なので、普段は助けを呼べば誰かに聞こえるような状態で活動するのが新人のスタイル。今は森に人が少ないので、周囲に援助できる中堅やベテランが居ない。なので人数が少ないパーティーには制限をかけているらしい。


「あ~、いや、あたしは別に……」


 困って居ないと言おうとして、別にいいんじゃないかと言う考えが頭をよぎる。

 どうせ一人でやるのは限界があるし、一人でやる物でもないはずだ。あたしが森に籠って魔物を蹴散らしても、ギルドはランクを上げてくれないだろう。


「……3人居れば森に入れるのか?」


「それは……職業の組み合わせによるな。俺は侍。コノハは治癒師だ。お前は」


「お前じゃねぇよ。アーニャ。職業は……盗賊シーフだな」


「お、斥候職じゃん。盗賊はあんまり知らないけど、ちょうどいいな」


 パーティーの理想的な構成は、3人なら物理前衛、索敵、魔術師の組み合わせらしい。4人なら後衛が魔術師と治癒師に分れ、5人なら前衛に盾役タンクが入り、6人なら物理後衛の弓兵か、もう一人魔術師が入るらしい。

 こいつが侍で、コノハって子が治癒師ヒーラーなら、あたしが居れば最低限の組み合わせはクリアできることに成る。


「レベルはいくつだ?」


「……まだ一桁だよ。そっちは?」


「俺は6、コノハは4だ。二人で冒険者に成って2カ月、中々だろ?」


 どうだろう?あたしには分からないんだけど、スピード的にそれなりなのかな?

 レベルは魔物と戦わないと上がらないから、そう言う意味では早い方かもしれない。

 なんにせよ自分比べてはいけないと、もう一度気を引き締める。


「お待たせいたしました。主任が……」


 二人と話している間に、受付のお姉さんが上司を連れて戻っていた。

 幸いに見たことある人物だ。


「あ、いい所に!俺たち3人でパーティーを組むことにしたんだ!それなら森には行っても大丈夫だろ!?」


 まだ返事をした覚えは無いんだけどな。でも、悪くないはずだし、同い年くらいの冒険者の実力も気になる。

 幸い連れて来られた主任さんは師匠と一緒にギルドに来た際に挨拶した覚えがあるから、話を併せてもらうことにした。


「あたしはこの国の生まれじゃないから分からないけど、侍、治癒師、盗賊の3人なら、森に入る条件はクリアしてるか?」


「……そうですね。奥の方に行かなければ大丈夫だと思います」


 主任はあたしの職業にちょっと怪訝な顔をしていたが、念話のスキルを使って口止めする。名前を知って居れば、初心者ノービスのスキルでもこういうことが出来るのは便利だな。成人するまでは思いもしなかった。


「やったぜ!お前もいいよな!」


「アーニャだ。ちょっと落ち着いて待ってな」


 念話で主任に確認すると、彼らは最近王都で活動を始めた冒険者らしい。二人とも近隣の村の出身で身元は問題ないらしい。外国人で種族も違うあたしに、物おじせず声をかける度胸は感心する。危なっかしくもあるけど。


「あたしは別にパーティーを組んでるから、臨時ならつきあってやるよ」


「なんだ、一人じゃねぇのかよ。他のメンバーはどうしたんだよ?」


「うちの師匠は薬草採取何てしねえよ。……いや、すっかも知れねぇけど、あたしはしばらく一人でやってみろって言われただけだ」


「なんだ、役立たずで放り出されたのか」


「ちげぇ」


 何気にムカつくな。一度ノシてやろうか。


「なんでもいいや。臨時パーティー発行してくれよ。今からならでも、2~、3時間は採取できるだろ?」


「……良いのですか?」


「あたしは構わないよ。どうせ一人で森に行くのはルール違反だろうしね」


 実力的には特例くらいもらえると思っているけど、ランク的にそういう事をするのは望ましくない。

 ルールとしても問題無いので、手続きをして貰って、臨時のパーティーを組む。臨時パーティーは冒険者ギルドが様々な仲介をしてくれるようになっていて、依頼の報酬などがすべて一律人数割りになる。

 この国のギルドだと。既存のパーティーに新たなメンバーを迎える場合、最低でも3回は臨時パーティーとして依頼をこなす必要があるそうだ。


 そんなわけで、一人で冒険者ギルドに言ったその日に、あたしは運よく臨時の仲間を見つけることに成った。


 ………………


 …………


 ……


 それから2時間ほど、ボラケの首都カサクからほど近い森着いていた。

 時間は……おそらく11時ごろかな。MPが満タンだから、経過時間が分からないけど、そんなに時間は経っていないだろう。

 ペースとしてはこんなもんなのかな?師匠たちと移動するときより格段に遅いが、自分が未成年だった頃に比べるとそれなり早い。治癒師ヒーラーのコノハもそれなりに健脚だ。か弱そうに見えるのは表情からだけかもしれない。


 農地の中の街道を抜けて来ただけで、ここまでの道中では魔物に出会わなかった。遠目に初心者ノービスたちが弱い魔物狩りをしているのが見えたが、おそらく藁人形ストロー・ドール大鼠ヒュージマウスだろう。わざわざ積極的に狩る相手じゃない。


 1000年前に現れた金の魔王が生み出した魔物は、価値ある物を核として、魔力で肉体を形成された疑似生命体らしい。

 難しいことは分からないが、強い魔物ほど価値の高い物を核としている。通貨などは判りやすいが、そのほかにも薬草や森で取れる食料、珍しい鉱石や、撃ち捨てられた武器防具の一部など、核になっている物は様々だ。

 農地に発生しているような魔物は、大概が1ゴールド未満の価値しかない魔物で、いくら倒しても冒険者のランクを上げるには足りないだろう。


「よし、それじゃあ探索を始めよう!アーニャは索敵は出来るか?」


「問題無いよ。不意打ちされない程度の範囲は見える」


「それじゃあ、ちょっとずつ奥に行ってみよう」


 ここに来るまでの道中で、二人について少し話が出来た。

 二人とも近くの村の出身で、タケルは村長の次男、コノハは木こりの娘だそうだ。コノハの方が数カ月だけ年上で、タケルが転職のために王都に来た時、一緒についてきたらしい。


 本当はすぐに村に帰る予定だったのだが、タケルは侍に転職して冒険者になると言い出したので、そのまま一緒にパーティーを組むことに成ったのだと。

 まあ、15を越えれば成人だ。自分の人生は自分の好きにすべきだろうし、村へは連絡を入れたらしいから、そこはあたしが口出しするところじゃないな。


「近くに魔物は居るか?」


「ん……ああ、いるけど……どれくらい強いのから必要?」


「どれくらいって……魔物の強さも分かるのか?」


「ええっと、うん。なんとなくだけど分かるな」


 しまった、それも分からないのか。


「いる魔物は全部教えてくれよ。1G未満だって、不意打ちされたら危ないだろ」


 師匠たち100G未満の魔物なんか見向きもせず切り捨てるから、そんなもんだと思ってたけど……そう言う物か。やばいな、思ってた以上にあたしも師匠に毒されてる。


「それなら、10メートルもしない先に、多分鼠か何かが居るな」


「そんなにわかるのか。すごいな!ネズミならコノハのレベルアップにも使えるか。いいよな」


「あたしは構わないけど、コノハは大丈夫か?」


「うん。大丈夫だよ。大鼠は初心者ノービスの時にも戦ったし、そんなに強くないからね」


「じゃあ、ちょっとおびき寄せよう。開けてる場所の方が戦い易いだろ」


 初心者ノービススキルである投石を発動させる。これは手ごろな石を近くから取り寄せるスキルらしい。一番原始的な遠距離攻撃手段だが、弾が無限に手に入るという点では結構凶悪なスキルだと師匠は言っていた。

 手元に呼び寄せた石をネズミの居るあたりに放る。全力で投げると倒しちゃうからな。こっちに喧嘩を売ってくるくらいに力加減だ。


「二匹いる。すぐにこっちに来るぜ」


「了解だ。コノハ、一匹づつ慎重にな」


「うん!」


 飛び出してきたのは体長50センチほどの大鼠。宣言した通り二匹。

 タケルは先頭の一匹にケリを入れると、すぐにバックステップで下がる。突っ込んでくるもう一匹にも蹴りを入れて動きを止めると、そこにコノハが杖を叩きつける。


 治癒師ヒーラーは四レベルだと攻撃魔術が無いんだっけ。

 タケルが打撃で牽制しながら、コノハが杖で殴ってネズミのHPを減らしていく。難解か殴った所で一匹目がドロップ品に変わる。後はコノハ一人でも押し切れる状態になった。


 それなりに息が合ってるな。こうやってレベル上げをしてたのだろう。


「へぇ、うまいもんだな」


「これ位は余裕だろ」


「じゃあ、あたしが先頭で森の中を進もう。魔物はともかく、採取は任せる。あと、会話は念話を使おうか」


 念話チャット初心者ノービススキルの一つ。名前を知ってる相手なら、ある程度の範囲に居る選んだメンバーと声を出さずに会話できる。

 距離で聞こえづらいなんてことが無いし、話し声が魔物に聞かれることも無い。


『目的の山菜はどの辺にあるんだ?』


『前はココから200メートルくらい先にあったけど、もう数が減ってると思うから他の所を探さないと行けねぇんだ。もう少し奥まで行きたい』


『了解。魔物は避けるか、それとも倒す?』


『森の中で戦うのは危険じゃないかな?』


『アーニャが強さが分かるっていうなら、弱いのだけ倒そうぜ』


 弱いのって言われても、あたしにとっては全部弱い。


『この辺の魔物にそこまで詳しくないんだ。どれくらい弱いのか教えてくれよ』


『ん~……鼠とかハエとかは行ける。餓鬼も一匹だけなら何とかなるかな』


 餓鬼……ゴブリンっぽい魔物の小さいのか。範囲内にもいるな。

 多分、価値的には10Gに届かないくらいだと思う。あたしのスキルだと魔物の強さは正確には分からない。勘と経験、あと直接目視すれば魔力量で分かる。


『山菜の採取だけじゃ生活も厳しいし、少し魔物も倒そう』


 銛の中を進みながら、寄ってくる魔物を倒す。

 鼠が3匹にハエが1匹。それに毒ムカデと大銅蚊カッパー・ガガンボと呼ばれる魔物も襲ってきた。基本的にどれも1G以下で、二人でも不意打ちされなければ無傷で倒せる。

 飛び回るハエだけ、タケルの剣がなかなか当たらなかったのであたしが倒した。


『やるな。そいつ素早くて結構めんどうなんだ』


『盗賊はDEXやAGIが上がりやすいから、これ位は楽勝さ』


 ほんとに楽勝なので、ちょっと申し訳なくなる。

 索敵の感覚から、戦いづらそうな地形を避けながら森の奥へ。冬の森は下草が少なくて楽だな。

 暫く進むと、最初に話していた野草の生息地にたどり着く。


『やっぱり、取れるところはもう残ってないな』


 木々の合間にはえた低木、その芽が目的の山菜らしい。

 煮込んで食べることも出来るし、滋養強壮の薬の材料にもなる、それなりにありがたい物らしい。

 半径5メートルほどの範囲に密集していて、奥の方にはまだ芽が残っているが、木を傷つけるのはNGなので採取できるのは手が届く範囲だとか。

 暫く待てばまた芽が出てくるが、今は冬場だから成長が遅いらしい。こういうのはあたしもよく集めてたな。


『もうちょっと進んでみようぜ』


『どっちに行く?』


『奥の方かな。斜面がきつい方なら、あんまり人が行かないから何かあるかも』


『危なくない?』


『危なくない様に気を付けるよ』


 丁度いい方向に1匹だけ孤立した餓鬼が居る。それとも戦ってみよう。

 銛の中を進み、少し進んだところで魔物をおびき寄せることにする。ここは多少斜面に成っているけど、少しだけ開けていて戦い易いだろう。


『それじゃあ、餓鬼をおびき寄せる』


 少しだけ進んで、投石でこちらに注意を向ける。


「ギャギャッ!」


 思った通りに釣れたけど、大きな叫び声に周りの魔物が反応したな。

 数Gくらいの奴が数匹動き出したのが気配で分かる。


『タケルは餓鬼に集中。他にも来てるけど、そっちはあたしが何とかする』


 餓鬼は身70センチほどで、腹の膨れた醜い姿をした魔物。

 特に武器は無く、ひっかきや噛みつきで攻撃してくる。強くは無いが、それなりに素早い。


「へへっ!俺の刀の錆になれっ!」


 刀を抜いたタケルが、あたしとすれ違って餓鬼を迎え撃つ。

 身体が魔力で出来た魔物は切っても血が飛び散ったりしないから、錆には成らないと思うけど。


 タケルは飛び掛かって来る餓鬼に向かって横凪に刀を振るう。

 しかし餓鬼は急に減速してそれやり過ごすと、再度飛び掛かって……。


「甘いぜ!」


 振りぬいたはずの斬撃が、再び餓鬼を襲う。

 幻の斬撃を見せて相手を惑わし、そこを切りつける霞二刀と言うスキルだ。

 上手く入って餓鬼の身体を切り割いたが、すぐには死なない。ちぎれた身体を無視して爪を振るう。


「タケル!」


 少し頬をかすめたくらいかな。まあ、心配するほどでもない。

 振りぬいた刀は戻さず、うまく裏拳を当てて餓鬼を弾き飛ばした。地面に転がった魔物は、それでドロップ品に戻る。

 今のは……距離が悪かったのか、力が無かったのか……いや、単に魔物のHPを削り切れなかっただけかな。身体を真っ二つにしてもしばらく動くってのはこういう事か。


『結構余裕だな』


『スキルを使えばあの程度はちょろいぜ。他の魔物は?』


『ん、ああ、大丈夫』


 あたしの方は適当に投石をぶつけておいた。

 それなりの力で投げたら当るそばから吹き飛んでしまったが、幸い二人は気づいていない。


『侍のMPが分からないけど、スキルはどれくらい使えるんだ』


『使えるのは強打と霞二刀の2つだけど、どっちも連続して使えるのは2回だな。後一つか二つレベルが上がれば、3回目が使えるようになるはずだぜ』


『おっけー。それなら移動中にMPも回復するだろうから、わかる魔物は狩って行こう』


『休まなくていいの?』


『あたしはMP平気だから、不安が出てから休もう。じゃないと時間がもったいない』


 流石にこの程度でスタミナが尽きるほどでもないと思う。

 あたしたちはドロップ品を回収した後、次の魔物に向けて足を進め始めた。


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□あとがき

師匠の活躍はこちらに成ります。


俺は地球に帰りたい~努力はチートに入りますか?~

https://kakuyomu.jp/works/16816927861365800225


2作併せてよろしくお願いいたします。

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