ひっそりとゲーム配信をしている俺に大人気アイドルからコラボ依頼が届いたんだが

白玉ぜんざい

第一章

第1話


 隙間時間にユーチューブを開いて、気づけば数時間経っていたなんてことはざらにあることだけれど、それは俺だって例外ではなかった。


 中でもよく見ていたのはゲーム配信動画だ。子供の頃からゲームが好きだったので、いろんな人の巧みなプレイを観るのは楽しく、様々な動画を漁った。


 そんな俺がゲーム配信に興味を持つのにそう時間はかからなかった。


 小学生のときにゲームを知り、中学生のときにその腕を磨いた俺は、高校生になり父親に頼み、ついにゲーム配信を開始したのだ。


 人気配信者と比べると微々たる数でしかないが、チャンネル登録者数も増えてくれて、それなりに楽しいゲームライフを送っている。


『みなさーん、こんばんわ! 笹原詩乃です。今日はわたしの応援している配信者がプレイしてて面白そうだったゲームをしてみたいと思います!』


 配信をする上で、ゲームのトレンドを把握することはもちろん、配信のテクニックを研究するという意味でも他の人の配信を観るのは大事なことだ。

 なので俺も時間があれば他の人の配信動画をチェックするのだが、シノチャンネルは俺が観ているゲーム配信者のうちの一人だ。


 彼女は『CutieKiss』というグループに所属しているアイドルで、趣味はゲームと豪語するほどらしい。

 それもファンに媚びているだけだという意見もあるが、彼女のゲーム配信を観ればどうなのかは明らかだ。


 アイドルというネームバリューを利用した小遣い稼ぎでも、ファンを増やすための媚び売りでもない。

 喋りが上手いのが芸能人故であるかもしれないが、仮にアイドルでなかったとしても彼女のゲーム配信は人気になっていただろう。


 それだけの魅力がそこにあった。


『じゃん! これです。最近発売された、「ドラゴンハンター」っていうゲームなんですけど』


 お、ドラゴンハンター。

 先月くらいに発売されたもので、ファンタジー世界を舞台にドラゴンを討伐するゲームだ。


 発売前から注目されていたゲームで、俺も発売日に買って、配信もしている。


『こういうゲームは久しぶりなので楽しみです! さっそくやってみまーす』



 *



「昨日の詩乃ちゃんの配信観た?」

「あ、観た観た。ドラハンのやつだよな?」

「うっわ、忘れてた。え、ささしのドラハン始めたの? 俺も買おうかなー」


 翌日、教室の一角では昨日のシノチャンネルの配信の話で盛り上がっていた。


 自分の席にいるとそんな雑談が耳に入ってきた。俺は朝の日課としてスマホゲームを起動する。


 ログインボーナスだけを受け取りガチャを引くだけのゲームもあれば、デイリーミッションを済ますゲームもある。


 最初は楽しんでいたゲームも、いつしかログインしなければという義務感に襲われ始める。そうなると、そのゲームも潮時だなと自分の中で決めている。

 なので、そろそろ次のゲームを探さなければ。


「そういや津崎もゲーム配信してたよな?」

「ドラハンしてんの?」

「ああ。やってるぜ」


 簡単な配信ならばスマホ一つでできてしまうのが今の時代だ。もちろん据え置きハードとなるとそれだけ大掛かりな機器が必要となるが。


 津崎とやらがどれだけの規模の配信をしているのかは分からないが、ドラハンの配信をしているのならそれなりだろう。


「今どれくらいチャンネル登録されてんの?」

「あー? 確か、百ちょっとかな」

「すげえじゃん。このままいけば人気配信者になれんじゃね?」


 夢のある話だ。

 確かにチャンネル登録者数と動画の総時間が一定のラインを超えていれば収益化もされる。

 人気ユーチューバーになれば、という話をすると盛り上がるのも確かだろう。


「ドラハン配信続けてたら詩乃とコラボとかできんじゃね?」

「え、最高じゃん」

「知り合ったら紹介してくれい」


 そんなことあるはずないだろ。

 どれだけ人気の配信者になっても、芸能人やアイドルなんかとコラボなんて到底無理だ。


 ああいうのはお互いにメリットがあるからしているだけで、芸能人が一般人とコラボするメリットはほとんどない。

 それこそ、よほど知名度がなければ厳しいだろう。


 とはいえ。

 そんな夢のある話を語り合うのは自由なので、思う存分すればいいと思う。


 俺もゲームの話とかしたいなあ。


 でも友達いないんだよなあ。


 小学生のときには結構いた。ゲームの場にはとりあえず呼ばれていた。中学生になるとゲームの腕に差が出始めたので、俺がいるとゲームバランスが偏るという理由で呼ばれる回数が減っていった。


 中学三年生になると受験もあって、その頃には誰かとゲームをするという機会は全くなくなった。


 そして高校生になった俺は相変わらずぼっちだったのだけれど、ゲーム配信を始めたことでゲーム仲間ができたような錯覚を覚えた。


 まあ、錯覚なんだけど。


 俺の配信に対してコメントはしてくれるが、それは会話ではない。そもそも配信者と視聴者という関係性は友達とは言えない。


 結論。


 俺には友達はもちろん、ゲーム仲間がいない。


 ゲームに対しての姿勢というのは人それぞれだ。ガチ勢やエンジョイ勢という言葉があるくらいだからな。


 これまで周りにいたほとんどがエンジョイ勢。けれど俺はガチ勢寄りの思考なので、どうしても一緒にゲームをしたときにズレが生じるのだ。


 わいわいゲームを楽しむのが嫌なわけではない。何ならばそうしたいくらいだ。


 エンジョイ勢を否定するつもりはない。それはそれできっと大事なんだと思う。

 でも俺は本気でぶつかり合いたいのだ。負けてもへらへら笑い合ったりはできないだろう。本気を出して圧勝すれば「空気を読め」と悪者扱いされる。


 そんな中、空気を読んで手加減したりするのが嫌だった。

 

 だから。

 

 いつか気の合う仲間ができることを信じて、俺は高校二年生になった今でもぼっちを続けている。


 

 *



 四月も終わりを迎える頃。

 いつものように学校を終えて家に帰る。

 

 俺が小さいときに両親が離婚した。今は父親と二人で暮らしているのだが、親父は朝早くに仕事に向かい夜に帰宅する。

 

 なので家のことは基本的に俺がすることになっているのだ。

 洗濯に始まり風呂や夕食の準備、それらを終わらせようとすると一時間ほどかかる。

 ゲームを始めてしまうとそれが酷く億劫になるので先に済ます。


 全てを終わらせ、ゲームを起動する。その間にツイッターの徘徊をしてしまう。


 友達はいないので本アカというものはなく、ユーチューブの情報を入れたり発信したりするアカウントがある。


 そのアカウントにダイレクトメールが届いていることに気づいた。

 これまでそんなことがなかったので、何事かと思い確認する。


『はじめまして。私はユーチューブでゲーム配信をしているささと申します』


 そんな始まり。

 送ってきたのは『ささ』というみかんをプロフィール画像に設定しているアカウントだ。


 どうやら俺のフォロワーらしいが、いちいちフォロワー管理もしていないのでこんな人もいるのかって感じ。


『ハルさんの配信、いつも楽しく視聴させていただいております。この度、ユーチューブのコラボをさせていただきたいと思い、失礼であると承知の上でダイレクトメールをさせていただきました』


 本題はこんな感じ。

 つまりは一緒にゲームをしようってことだよな。俺の配信を観ているということはこちらのゲームに対する姿勢も理解しているはずだ。


 この人がどんな人なのかは分からない。男なのか女なのか、大人なのか子供なのか、一切分からない。

 唯一分かっていることは俺とゲームをしたがっているということだ。


 俺にもついにゲーム仲間ができるかもしれないんだ。こんなの受け入れないはずがない。


 俺は何も考えずに承諾の返事をする。それから彼女のチャンネルを検索してみる。確実に順番は逆だったけど、舞い上がっていたので頭が回っていなかった。


「……あれ」


 しかし、ユーチューブには『ささ』という人のチャンネルはなかった。名前が違うのか。メールにはチャンネル名は書かれていないのでこれでは検索できないな。


「……」


 まあいいか。


 相手がどんな人でも一緒にゲームをしてくれるのなら万々歳だし。


 その後すぐに返事はなかったのでゲームを始める。結局、返事に気づいたのは夕食と風呂を済ませて部屋に戻ったときだった。


『ありがとうございます。では、内容について詳しく決めていきたいのですが、もしよろしければ一度お会いしませんか? 素性も知れない相手、というのも警戒してしまうでしょうし』


 ほう。


 警戒とか全然してなかった。

 そういうのとは違うけど、一緒に配信するのなら一度会ってお互いのことを知るのは大切なことなのかもしれないな。


 ということで俺はそれに返事をした。あちらが中々に多忙らしく、スケジュールを合わせるのに苦労した。


 そんなわけで、俺は後日姿も素性も知らない『ささ』さんと会うことになった。

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