第33話新たな希望
一一酒場
カゲミツとネーゼがいるこの場所も住民達に宿る感情は同じであった。
抱えきれないほどの憎悪を、理不尽な怒りを以てぶち撒ける。
しかし、アルベールが演説をする以前からこの場にいたカゲミツとネーゼからしてみれば、唐突に出現したモンスター共に押し込まれる形で、酒場へと来た彼らが向けるその感情のでどころすら見当たらなかった。
それ故か、ネーゼとカゲミツは住民達が持つ激情よりはるかに冷静であった。
しかし、数多の種族侵攻を退け、人類最後の砦として名高いこの国の惨劇を前に住民達は絶望していた。
もうこの国には、かつて誇った栄華も、人類が誇る王も、守護神たる男もいない。
「あー終わっちゃったよ。俺の人生。せっかく苦労してこの国に来たっていうのに、結局この国も滅ぶのかよ。あー本当、人類なんかに生まれてこなければなぁ」
やはりというべきか、こちらでもセレン達が向けられた視線がカゲミツへと向けられていた。
しかしカゲミツはセレン達と比べて運がいいことに、この場にはネーゼがいた。
「さぁできたよー。私が作った手作り料理。ほらほら、みんなも食べるでしょ?並んで並んで。」
ネーゼが元気よく料理をテーブルに振る舞い、俯いた住民達に向けて言い放つ。
そして、彼女は相変わらずの背中をピンと伸ばし、自信アリ気に笑みを浮かべる。
「嬢ちゃん。気休めなら好してくれ。俺たちは死ぬんだ、こいつらのせいで。あぁ、つまらねぇ人生だったよ」
それを言い放った男はカゲミツを睨み付けながらそう言ったが、相変わらずカゲミツは知らぬ存ぜぬと言った感じで酒を食らう。
周りから見れば、それは余裕綽々といった強者の風格を多少感じさせる。
しかし――
(ちょっとアルベール何してんのッ!ヤバイよ!これはヤバイよ!僕一人じゃここどうしようもないよ!知らない間になんか嫌われてるし!少し前まで英雄扱いだったじゃん!確かに、アルベールの仲間ってことで多少は女遊びしたよ!でも、でもだよ!これは割合悪くない?頼むから、襲って来ないでね。お願い!)
内心はこの有様で、この場にいる誰もが彼の心情を読み取れない。
「気休め?おじさんは面白いことを言うのね。私達はまだ負けたわけじゃないんだよ。絶望するには、まだまだ早いんだから」
「はぁ?嬢ちゃん、外のモンスター共を見ただろ?あれを見て絶望しないほうがおかしいだろ」
「そんなことないよ!だって私、モンスターより強いもの」
彼女は相変わらず自身有りげに答える。
が、
「嬢ちゃん……。この国は終わったんだ。こいつらのせいで!」
彼らの沈みきった心を回復させるには至らなかった。
ただの小娘の戯言としてすまされたからだ。
だが、彼女もここで終らせるつもりは毛頭ない。
「うーん。それで、なぜそれが彼らのせいなのかな?」
「だから、それはあいつの仲間だったから……」
「ふーん、なるほどね。でもその理屈だと、あの人を王へと担ごうとしてたあなた達も、アルベールの仲間になるんじゃないのかなぁ?」
「それは……」
「ほら、何も言えないでしょ?この人達は何も悪くないもの。あなた達も、この人達も、もちろん私だって被害者。誰も悪くない。だから仲間同士で傷つけ合うのはもうやめよ?」
「じゃあ!俺達はどうすればいいんだよ!誰も守ってくれない!誰も頼れない!こんな世界をどうやって生きていけばいいんだよ!」
「なら、私を信じてくれないかな?みんながどうしようもなく沈んじゃった時も、進むべき道がわからなくなっちゃったときも、私が誰よりも前を歩いて、いつかみんなを笑顔にしてみせるから」
「……勝手にしろ!」
「そお?ありがとう。」
ネーゼはここでくるりとカゲミツがいる方向へ向き、「ねぇあなた、少し話しいいかしら?」
と笑顔で微笑む。
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