第27話戦場

一一戦場
















「なんだ、まだやるのか?」








 土煙の中から二人の影が見えた。




 城壁を向き、鎧の男は二人を吹き飛ばした際に舞い上がった土煙の中へと入る。




土煙で視界が悪い。この中へ自分から入るのは、正直得策ではなかった。おまけに、この男は鎧を着込んでいる。一歩歩くだけで音が鳴るこの鎧を纏っていたのでは、自分を狙ってくださいと言っているようなものだった。




 そこに




 「ほりゃあ!」と声を上げながら、不意打ちに背後からレイピアを持ったエルフが姿を現す。




 




しかし、この男も先手を取られることを理解した上でここにいる。




気配を察知し、大剣で防ごうと方向を変える。




 防御体勢を取ろうとする鎧の男だったが、目の前でなんと詠唱を唱え始めた。




 先手を取れるチャンスをみすみす潰して目の前で詠唱を唱える行為には理解に苦しんだが、ここで攻撃しない理由もない。




 鎧の男は、岩すら粉砕する一太刀を浴びせにかかった。




 しかし攻撃をするという行為においては、どんな技であろうが必ず隙が生じるもの。




 鎧の男が攻撃態勢に入ったその瞬間、待っていましたと言わんばかりに無愛想な男が懐に入り込む。




 そこから繰り出された凄烈な連撃をくらわせ、城壁へと吹き飛ばされた。  




 その直後、エルフも詠唱を完了させ鎧の男に炸裂させた。




 戦闘が始まってようやく決定的なダメージを負わせた二人には、確かに仕留めたという感覚があった。 




 ひたすら剣だけ追い求め、そのために生きてきた男が放った渾身の連撃に、まだ小娘とはいえ、上位種族がわざわざ詠唱を唱えた魔法をくらわせたのだ。




 例え相手が上位種族だろうがなんだろうが、あんなものをくらって生きているものなどいるはずがなかったからだ。




もし仮に、仮になのだが、それでも生きているものが存在したのであれば、それはただの化け物である。  




 だが一一それがここにいたのだ。




 化物と呼ぶべきそれが。




 えぐられたような城壁の壁から、平然と姿を現した化物が。




 常人が身に着ければ一ミリも動けないであろう鎧が完全に破壊されてなお、彼はその歩みを止めない。




 確かな足取りで、一歩一歩確実にこちらへと迫ってきていた。




 それでも悲観してはいけない。




 人間が恐れたモンスター達ですら、彼には傷一つつけることが敵わなかった化物に確かに傷を負わせたからだ。








「いいぞ、悪くない。




協調性に欠けると思ったが、




よく見てるじゃないか。




女、お前のようなやつがいると戦況は変わるぞ」








 鎧は歩くたびにボロボロ崩れ、エルフ達が視界にとらえる時には完全に崩れ落ちていた。








「え!?全然きいてない!?




もうちょっと怪我しててもよくない!?」








 人間からしたら誇るべきことだったが、エルフである彼女からしたら許すまじ光景だ。




 もし彼女以外の上位種族がこの場にいたのであれば、発狂と激昂していたに違いない。 












「頼むから少し黙っててくれ」








「ハッハッハッ!いいぞ!お前たちはいいぞ!あぁ、




こんなに笑ったのは久しぶりだ!




俺も、もう少し世界を回るべきだったな」




 




鎧の男はそう言うと、丘の上へと視線を送った。








「おじさんが笑った。でも、手加減はしないからね」








「ああ、来るといい」








 そう言って、鎧の男は口元が少し緩んだ。








一一丘の上。








「戦場は最も想いが飛び交う場所だ。友情も生まれれば、憎しみも生まれる。




男女の中に限らず、恋愛感情に似たものだって湧く。ここほどそれが一望できる場所はそうない。そうは思わないか?」








 戦場全体を見渡せる場所にいて戦場を見守るようにも見えたが、アルベールはただ観客のごとく、その場その場で行われるすべてを客観的かつ娯楽めいた何かを見るように俯瞰していた。
















「貴方みたいな変態の考えを、誰もが理解できる思わないでくれる。それと、あなたはいかないの?」








「なんだ。私に死んでこいと言っているのか?やめてくれよ、私は臆病なんだ。ここに立つことだって怖くて怖くて仕方がないんだから。戦場に立とうものなら失禁してしまう。そんな情けない私をみたいのかな?」








「……」












一一王国門前戦場








「てりゃあああああああぁぁああああああ!」








「うおおおおおおおぉおおおおおおおおお!」








「はあああああああああああああああああああ!」








三人の戦いは未だに続いていた。




 鎧の男の鎧が壊れてから時間にして二十分が経過していたが、その間ずっと戦闘が続けられていた。




エルフが相手を翻弄し、ヒットアンドアウェイ戦法をとり無愛想な男が隙をつき攻撃。




エルフが動きやすいように遠すぎず近すぎない位置をキープし、エルフに攻撃を集中しないように上手く立ち回っていた。








「さすがはエルフと言ったところだな。




戦い方はエルフとは思えんが」








「ハアハアハアハア。もう、倒れてよ」








「硬いってレベルじゃねえぞ」








戦法のお陰で致命傷になる攻撃はくらってないものの、一撃が即死レベルの攻撃をしてくる相手との戦闘は、肉体にとどまらず精神的に負担が大きい。








それにエルフと無愛想な男は息をあげていたが、鎧の男には余裕が見ゆけられる。








「どうした、もう終わりか?




女、貴様の長所は無鉄砲さだが、行きすぎた行為は破滅を呼ぶぞ。




貴様の体に流れる血を少しは活かしたらどうだ。




お前もだ、女のけつを守るのも結構だが、それでは女も、この国も、何一つとして落・と・す・ことはできんぞ!」












「化物が……」
















「ああもう!!あったまきた!!」








 エルフ突然怒り出し、レイピアを腰にしまった。












「あ?何言ってんだ、お前」












「私が攻撃するから守って!」












「だからお前一一」












「頼んだよ」








 エルフは無愛想な男をまっすぐ目を見ながら託すように言うと、目を閉じて詠唱を唱え始める。








【心に残る故郷を想い、冷たい過去を今一度想いかえそう、奮え、奮え、奮え、震える今をここで終わらせよう】








彼女が唱えているのは、先程お披露目した詠唱とは異なる。




 彼女が誇る唯一無二の魔法にして、固有魔法である。












「おい男、




名前を聞いてなかったな。名は?」








「……フェリックス」








「断るなよ、フェリックス。




お前次第でこの戦争は動くぞ。




良くも、悪くも……」












「お前、性格悪いだろ」








「いいとは言ってないだろ」








「どいつもこいつも、俺に恨みでもあるのか。面倒事ばっかり押し付けやがって」








「仕方なかろ、お前自身の目的のためなのだから」








(あぁ、そのとおりだ。まったく持ってそのとおりだ。ほんと、なんでこんなくだらない夢を持っちまったんだ?)








 無愛想な男は呼吸を整え、姿勢を低くし、空気をすべて吐き出した。




 そして吐き出し終えたとほぼ同時に、急激に接近し剣が交える。一旦距離をとるため、鎧の男が力押しで剣を振るう瞬間にバックステップをとり、胸元が開いた瞬間に距離を詰め連撃を叩き込む。








「はぁぁああああああああああああああああああああああ!!!!!」












 鎧の男に反撃ができないように全力で連撃を振いながら、今一度、自分が最も憧れてきた記憶の中の住民の言葉を想い出す。








「一一君は、英雄にはなれない一一」








無愛想な男は今にきて疑問に思う。




なぜ彼は、聞いてもいないことをわざわざ言ったのか。




急速に体を動かしいる中で、一瞬ゾーンに入った感覚が男の中であった。そしてその中では信じられないぐらい急速に思考が巡る。




その中で導き出された解答。




それは、当時の自分があまりに憧憬に満ちていたから。




無愛想な男がふと鎧の男を見ると、当時の彼が浮かべていた憐憫めいた顔を浮かべていた。




高速で剣を振るうのにたいして、鎧の男がとった手段は……ただ突っ立っていた。大剣で弾くこともせず、男はただ立っていた。








「やはりそうか……。あの男が言ったあの言葉は……間違ってなかったか」








 自分で自分が笑けてきた。




 彼自信が否定してきたものを受け入れたように。








「悪いな」








そう口にすると、せめてもの弔いと全力で大剣を振り下ろす。








【レア アルカディオン】








 無愛想な男に刀身が届く寸前、その言葉が響いた。




 快晴だった空からは迅雷が轟き、




 突如発生した荒々しい突風は視界を奪う。




 そこにはもはや何もない。鎧の男を残しすべてを吹き飛ばす。




 これが魔法。




 上位種族達が誇る絶対的な力にして、人類が憎んだすべてを凌駕する力。




 鎧の男がこれから迎え撃つそれは、種族値の差そのものと言ってもいい。




 








「そうか……。結局こうなるのか……。」 








 鎧の男へと迫る竜巻を前に、男は微かに嬉しそうに漏らす。




 辺り一帯は砂利が舞、鳴り響いているであろう迅雷は男には届いていない。












「ぷっ!フハハハハハハハハハハハハ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!うん!仕方ないなぁ!あぁ、ならば仕方がない!本当に……なるほど、そうか!儂・もなかなか捨てたものではなかったらしい!




いいだろう!俺の前に最後に立ちはだかるのは、やはり人間ではなかったか!ならば!俺が人類最強として、他種族おまえらがどれほどの者が確かめるとしよう!見とけよ!貴様が選んだ英雄とやらの力を!」








 鎧の男は大剣を地面に突き立て、自分へと向かってくる竜巻を正面にとらえゆっくりと詠唱を唱え始める。








【今も微かに残る夢、血で穢し、血で築いた栄光は遠く及ばない。それでも、血に染まった手で今一度手をかける。一一】




詠唱を唱える最中、竜巻が起きた影響により天候が薄暗くなる中、不自然に光が射し男の回りを照らす。




その光をすべて吸収するかのように体が光、少しずつ剣へと光が移動する。




美しい光が大剣を覆い、渾身の一刀を振るう。




【一一ヘル・レーヴ】








二つの竜巻がぶつかり合ったかのように風圧が一層威力が増し、土煙が爆風のように吹き荒れ視界は完全に塞がれた。








「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」








聞いたことがないほどの爆音と爆風が入り乱れる中でも、男の咆哮だけはハッキリと聞こえた。








「おおおおおおおおおおおおおおおおおぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお一一!!!!」








「ガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガガ一一!!!」








その音を最後にすべての音が消えた。








「――――――――――――うっ……」








「―――――――――――――――――――。」








 この攻撃に一体どれだけのものが巻き込まれたのだろうか?




 爆音が鳴り止んで数分後には、しばらく死体や生者が振り続けていた。  それによって巻き込まれる人々を入れれば、数千を超えたのではないだろうか?




 そんな状況を生き延びた彼ら視界は、未だにハッキリしていない。




 土煙が邪魔でロクに前が見えていなかったからだ。




 しかし彼らにはどうしても見届けなればならないことがあった。




 それは、この戦争の勝敗である。




 既に何人かがそれを見届けようと動いていたが、先程の戦いにより地形が変わり城壁は完全に崩壊していた。








「城壁が……」








「これでは……どのみち」












「泣き言を言うな!国がどんなになろうと、あの方が生きていれば何の問題もない!探せ!




あの方が負けるはずがない!




必ずいるはずだ!」








狂信的な何かに取り憑かれているのか、




士気を落とさないようにしているのかはわからないが、




王国側は急ぎ捜索部隊を編成した。




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