第3話王都


★★★




 王都一一プレリアス王国。




 


 アルベール達が王都へと着くと。


 アルベールと共に乗っていた貴族は成功報酬を荷台置き、真っ先に降り大急ぎで門を潜り抜け王都へと入っていった。


 アルベールはその様子を眺め、全員分の成功報酬を支払い終えるとゆっくりと王都へ入る。


 すると、今の人類国家ではありえない光景が広がっていた。


 家々が立ち並び、笑顔を浮かべ人々が自由に闊歩する様子だった。


 先に入った貴族は口をポカーンと開け、アホ面を晒している。


 驚くのも無理もない。


 他国は滅亡の危機に瀕しているのに、この国は繁栄そのものだった。


 現にアルベールがここに来る道中、他種族に滅ぼされた国を何度も見ていた。




 「すっげーなこりゃ。さぞかし上手い酒が揃ってんだろうな」




 国に訪れたすべての来訪者が景観に驚愕するのが常である恒例の儀式をよそに、セレンは久しく味わう酒に飢えていた。




「あらあら、これだけの美しい国を前に出た言葉がそれですか?」




 それに反応した女、フィナが横から口を出す。


 彼女は貴族出身といささか異色の経歴がある傭兵である。


 故に、この国の異常な豊かさには誰よりも理解がある。




 


「いいだろう?久しぶりにまともな国に来たんだ。少しくらい羽目を外しても」




「そうですか。あなたがそれでいいというのなら構いませんが……。」




「何だよ、言いたいことがあんならハッキリ言えよ」




「んーそうですねー。せっかくこれだけ大きい街なんですから、武器の手入れとか、ショッピングとか、いくらでも誘う口実があると思いますよ?」 


 


「フィナ、お前顔に似合わず意外に積極的だわな。わーったよ。アルベールを誘えばいいんだろ?」




 セレンは前で呆然と、未だに景色に視線を奪われるアルベールへと迫り、少し照れくさそうに告げた。




「おい、アルベール。何かさっき戦闘で武器が少しイカれちまってな。よかったら……?」




 しかし、セレンの問いはアルベールをこちら側に引き戻すほどの威力はなく、未だにアルベールは前方を眺めていた。


 そして一言。 




 「はぁ、この国もか。まったく、人類ってやつはどいつもこいつも」


 


 アルベールは重いため息をつきそう告げると、黒い瞳で死者を見据えるように遠望していた。


 豊かな国、豊富な食料。


 充実した生活をしているであろう彼らに、最底辺の生活をする男からの憐れみの目線が送られていた。




 しかし、アルベールはあるものを視界に捉えると何やら一変した。




 笑みを浮かべ、どこか欣喜した様子だった。




「アルベール!おい、アルベールって呼んでんだろ!」




 アルベールは耳元でそう叫ぶセレンにビクッと驚き、ここでようやくセレンを視界に捉える。




「何だ、セレンか?どうかしたのかい?」 




「どうかしたのかじゃねぇよ。私とデートする気があるのかって……」




 セレンはアルベールと視線を合わせ、言葉を交わすと唐突に言葉を呑み込んだ。


 それは目の前の男、アルベールが真に対話を望む相手が自分ではないと理解したからである。


 そしてそれを理解した彼女はあっけなく彼を解放した。




「はぁ、いいよ。行ってこいよ。気になるんだろ?」




「いいのかい?」




「いいよ別に、その代わりぜってぇ戻ってこいよ」




 セレンは手を後ろに回し、自分の元から離れようとしている男の前でほんの僅か嬉しそうに伝えた。




「ああ」




「いいんですか?アルベールさんを一人で行かせてしまって?」




「いいんだよ。それより今日は飲むぞ!イェーイ!」




「あらあら、行き遅れなければいいんですが……。」




 アルベールは仲間の傭兵達を残し、一人前へ前へとひたすら真っ直ぐ進み続けた。


 すると一一唐突にピタリと止まり一言。




 「そこの綺麗なお姉さん!


良ければ、これからデートに行きませんか?」


  


 アルベールが話しかけた綺麗なお姉さん?は、ローブを纏い体型どころか、男か女かもろくにわからない相手だった。


 だがアルベールはハッキリと言ってのけた。


 不気味にもローブで全身を覆った人物は、背後から話しかけるアルベールのその言葉に僅か逡巡してから、ゆっくりと振り返った。




 「もしかして、私に言っているのかしら?」




 ローブの人物は女性だった。


 フードを取らずほとんど顔が見えない。


 しかし、そこから覗かせる顔だけで美女であることは確定していた。


 微かに見える目元、美しいとしか言えない輪郭。


 限られた情報だけで、誰しもが認める一級品の素材が転がっていた。


 歳は16、7くらいだろうか?


 歳のせいか、可愛さと美しさが同居している感じだった。


 あと数年も経てば、誰もが見惚れる美女になるに違いない。




 「ええ。あなた以外に美しい女性がいますか?」


 


 「なぜ私が女だと気づいたのかしら?」




 当然の質問をしてきた。


 しかし、アルベールの質問には答えなかった。


 それは、自分を美女だと自覚しているからか?それともシンプルに自分の問いを優先したからだろうか?






 「勘と歩き方で!


ちなみに、私はアルベール・ラファーガと言います。


あなたがスリーサイズを教えてくれるなら、私はハニーと呼ばせていただく。


名前を聞いても?」




 軽薄かつうるさいほどに手が使うアルベールに、呆れと疲労からくるため息を落とす。




 「レナ。レナ・コスモス」




 レナは冷めたように名前を伝え、氷のような眼差しを向けた。


 彼女は明らかにアルベールを拒絶していた。目線や声のトーンはもとより、フードも取らず半分しか体を向けていなかった。




 「流石は美女!私のプロポーズを難なく無視するとは!?」




 「もう、行ってもいいかしら?」




 「まだ一一」




 「それでは」




 レナはアルベールを無視し、雑踏へと消えていった。


 


 「フゥ。クールビューティーシャイお姉さんだったな!」




 この男には、自尊心やプライドの類いはないのだろうか?


 常人なら傷ついてもよさそうなところだが、彼からは何も感じなかった。


 ただ前を見て、何かを見据える。




 「さて。美しいお姉さんとの楽しい会話も終わったことだし、街並みでも見に行くとしようか」




 そう言うと、アルベールは商業通りに足を踏み入れた。

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