秘密組織のフォリンマター

@eno702

第1話 じいちゃんなんだから無理すんなって。

暖かい風に頬をくすぐられ、小鳥のさえずりで目を・・・。

覚ませなくなっちまったなこの時代。まったく楽しげがねぇ。

自然がなくすべてにおいて事前処理が当たり前になってしまっているこの時代の科学は俺にとってはつまらないもの同然だ。

まあ、今になって面白さを追求するのも間違えってもんだろう。

俺も歳だしな。

肉体じゃなく精神が老人になってしまえば終わりなんだ。

俺は、精神から若さが消えた。

ウキウキわくわくが消えたんだ。

息子が消えたあの日から。

だが、息子が守ろうとしたものを守らなきゃならない。

それが、父親の義務ってもんだろう。

息子から最高の道具ももらったことだしな。

若さはないが役目を果たすだけの気力はある。

その役目を果たせそうな場所に最も近いところに今俺は属している。

「平穏安全管理組織」

世界中の天才が集まるこの組織。

ここならUMRでもなんでも対処しやすいと考えた俺はここの組員になっていた。

だがちょこっとだけ問題はあった。

周りと歳が離れすぎている。

わけぇー・・・。

ここには捕獲の天才、殺しの天才、捜索の天才、創作の天才が集まっているが、全員10代だ。

俺はとっくの昔に還暦を終えた。

だが、見た目若作りのおかげでばれてなーい。

バカじゃーん。

組織内に若干協力者がいるとしても年齢ばれるわけにはいかない。

そしたら俺が実行部から外されてしまう。上司の立場は事由が効かないから絶対嫌じゃ。

事由に動くには実行部の捜索課に所属しているのが一番だ。

あー・・・息子が探偵だったの思い出すなー。優秀だったがいつも余裕があるようなないようなドタバタだったっけなぁ。会いてえなー。

実行部捜索課チーム0総合係の匿名希望。

それが今の俺のデータだ。

俺はこの組織に入るときに名前のところに「匿名希望」と書いた。それがこれだ。マジバカじゃん。それ以降俺は組織のことを裏でマジバカって呼んでいる。

まあ、チーム0となずけられたこのチーム。

俺が組織に入った時に入れられたチームで勝手なことをしたら甘やかしすぎたのか俺無しじゃ組織が動けないといわれてしまうほどふにゃけたチームになっちまって、それで俺だけのチーム0が誕生。

俺って人を甘やかす才能でもあるのか?

才能ってのは他人が見るからこそわかるものだから俺にはわからんが、まあ気にしないでおこう。

ここに新人が来ることはまずないだろうし依頼が来るまでチーム0の部屋でゴロゴロとだらだら・・・

「失礼します。」

・・・依頼ー!くそがぁぁぁぁ!俺は今からDVDを閲覧・・・今もうないんだった。えーっと、ネットサービス。サブスク。組織の金で勝手にネットンフリックスンでアニメを見まくりたかった。

依頼さっさと終わらせてすぐに戻ってくるからな。俺のネトンフリン。

営業スマイル(俺は営業をやったことがない)でお迎えし、「いらっしゃい。どうしたのかな?」と言いながら顔を見上げてみると、嫁にそっくりな顔がそこにはあった。

うそだろぉー!?

背景息子よ。お前の知らないところで事が大きく動いています。お父さんもうついていけないよ。あんまり興奮しちゃいけないのにお父さんもうドキドキバクバクだよ。

とりあえずまずは事情聴取・・・じゃなかった。話を聞かねば。

「あーえー、どうしたのかな。依頼かな?」

「今日からここに配属になりました。哀昏と申します。よろしくお願いいたしま」

「帰れ。」

「・・・え?」

やっべ、反射的に帰ってほしい欲が表に出まくってしまった。

だるぅ。

「あー、いや違うんだ。ここのチーム0は俺一人の予定だったから誰かが入ってくることを想定されていなくてなー。」

そう。本当に想定していなかった。ましてや孫より若そうな年齢の子が入ってくるのなんて本当にしらん。

「そうですか・・・。私はもう、ここ以外居場所がなくなってしまいました。」

なーにやらかしたんだ一体。いや、やらかしてないからここに来たって線もある。

「そうか。まあ、なにしたか気になるところではあるが深くはけど気になるから言えるときに話してくれー、部屋は・・・まあ好きに使ってくれればいいさー。無駄にでかいチーム0の部屋。この真ん中の部屋は客も来る。奥のドアは俺の寝床。基本ここに24時間いるから困ったことがあったら何でも言いなさいな。じゃあ俺は寝る。おやすみー。」

「あ・・・え?お仕事は。」

「え?んなもんないよ。平和なうちは寝るのが仕事。おやすみー。」

「え・・・あ・・・。」

「・・・君家ある?」

「一応ありますが。」

「じゃあ帰っていいよー。おやすみー。電話番号だけそこにある紙に書いておいてー。といっても、社用携帯からつながるから必要ないかもだけど。」

「・・・ここのチームはいつもこんな感じなんですか?」

「だって俺一人だし。」

「あなた、名前は。」

「あー・・・そうだな。」

ここで名前を言うのはいろいろまずい。なぜならば、この娘が哀昏(あいぐれ)だからだ。この名前を、俺はよく知っている。

「・・・リーダーと呼んでくれ。じゃあ、仕事が来れば呼ぶ。おやすみ。」

そういって自分の部屋に入ってドアを閉めようとしたときに足をガっと挟んできてこじ開けられた。」

「やっぱり許されません!ほかのチームは働いているのにここだけ働かないなんて。」

まあごもっともといえばごもっともなんだが。

「ほかのチームの労働時間知ってるか?」

「もちろん!朝から夜までみっちりです。私たちは世界の平和のため一日気を張り」

「じゃあ夜から朝は、誰が守るんだ?」

「あ、」

あ、じゃねぇよ。まあ、労働時間が決まっているわけでもないしこのチームは「依頼が来れば働く」スタイル。依頼がなければいるだけで報酬もらえるおいしい仕事。

「し、失礼しました。そうなると、私もここに引っ越してきた方がいいですよね。」

それはやめてほしい。

俺のずぼら生活はあんまり見られたくないし大音量でテレビ再生できなくなるじゃねぇか。

「あー、いや、そうだなー。仕事ーが来ればー俺からーあー連絡するしーそっちのー家からー近いー依頼があるかもーだからーねー?」

「わかりました。自宅待機をしています。」

「おぉねぇがぁいぃしぃまぁーすぅ。」

おっしゃー守られたー。俺のテリトリー。

「では。」

そういって哀昏は・・・あ、下の名前聞くの忘れた。というかまず俺の名前どうしよう。

思い出せー。昔呼ばれたあだ名の中で一番マシだったやつ。

悪魔、魔王、神、厄、邪神、化身、化物、胡坐、天使、冒涜。

だめだ、全部だめだ。

どんなことがあってもあの娘の前では大人の威厳を出さねば。

胡坐・・・あぐら。なんだっけな。だが、この中で一番マシじゃないか?あぐら。俺の名はあぐらにしよう。苗字は・・・なかったことにしよう。

にしても・・・そうか。あの娘が。

光のない長い道だったが、やっと楽しみが生まれたってもんだ。

今日は、弟子でも誘って飲みに行こう。

祝い酒だ。

そんなことを思ってると、突然の依頼。

メールで「水中施設の謎の解決」という題名のメールが来た。

すぐに哀昏をメールで呼び、作戦会議へ移った。

夜決行のため、それまではグダグダしながら作戦会議・・・とはいかなかった。

現場までの移動、ダルいんだよなぁ。

今回の依頼は、「国の機関に何者かがハッキングをしデータ盗んだからそいつ始末してきてー」まあざっくり言えばこんな感じだな。

潜入グッズを車に積み込みまくって・・・まくって・・・あ・・・。

「哀昏の分の荷物・・・。」

車、変える?経費、予算、余裕、会社へ迷惑、追放・・・。

よし、哀昏に黙っていこう。

地下施設への入り口は各国にあるが、日本の入り口は北海道、東京、鹿児島の三つ。

非正規に入るんだから、一番近い東京ではなく一番セキュリティ的に甘い北海道・・・に行きたいところだが、車でこっそりログ残らないようにいきたいので鹿児島。

メールで哀昏に「夜俺有給だから留守番よろしく。」と送り、軽バンにすべて荷物を積み込んで鹿児島に向かった。

下道で鹿児島。しかもナンバーなどを記録する場所全部避けての移動。

こりゃ骨が折れる。

荷物の総重量は1t以上。

バリバリ違法重量だな。

解析用のスーパーコンピュータと無線機と水中系の荷物が原因なんだろうなこりゃ。

サスペンション入れ替えておいて本当に良かった。スーパーチャージャー積んでて本当に良かった。違法だけどちょこっとボブアップしておいて本当に良かった。

キツキツ荷物で走り出す軽バン。うなるスーパーチャージャー。やらなきゃよかった3.5速。

多少1気筒壊れたりのトラブルはあったがのらりくらりと鹿児島到着。

メールを確認すれば「ふざけてるんですか?」と哀昏からのガチギレのお言葉。

「今からそっち行きますどこにい」まで見れば携帯を即閉じる。

見ても俺の心がやられるだけだ。

人気のない海に行き、潜って地下施設に潜入。1tの荷物、ここにきて初めて役立つ。そして俺気づく。

「郵送・・・すりゃよかった。」

まあ、そんなことも言ってられないし1tの荷物郵送すりゃ時間もお金もかかると考えれば、今回の行動はまあ・・・理にかなってたってことで。犠牲はデカかったが。

持ってきたスーパーコンピュータをケーブルで小型端末に接続し、水底探索防具を着て水中都市に行き、作業用の蓋から潜入し、端末で解析し特別な人しか立ち入りを許されない施設へGO!

俺はもうこの作業何回目だ本当に。

この施設確か50年前にはあった気がするから・・・かれこれ100回以上この作業やってることになる。

うちの組織マジでこの施設敵に回しすぎだろ。

どんどん非常用階段で地下へ行く。

もう地球の真ん中なんじゃないか?

ハッキングの時に微かに見えたIPを参照してみると、ここらへんのはずなんだよなぁ。

まあもちろん違和感はある。

IPが見えたところ。

これは罠かもしれないが、行けばわかるだし、俺死なねぇし。

そんな感じでイキり散らかしていると、まるで牢獄のような場所に出た。

鉄の扉。扉の窓部分には鉄格子。

まるで強制労働施設だなこりゃ。

中には・・・人はいないか。

いや、・・・まあ人はいないんだが・・・。

人だったものはいるな。

見てしまったからには手と手を合わせておく。

いたーだきま・・・違う違う。

そんなことをしながら散策していると、ちゃんと生きてる人を・・・生きてるのかあれ?パソコンに釘付けになってる青い髪の少年がちらっと見えた。

しれっとそいつの部屋に入って上から「おじゃまっぷ」って言ってみた。

そいつはノーリアクションでいる。

ペンを落とし、拾う動作とともに床に「Tm」と書いた。

さーて、仕事だ。仕事だ!だるぅ!

監視カメラは四方向。

右前、右後ろ、左前、左後ろ。

俺は今監視カメラに映らない天井に張り付いている。

ゴキちゃんじゃんもうこれ。

監視カメラの画質は不明。

いつもの「チェキをカメラの前に置く作戦」はこのカメラが4K以上だった場合ほぼごまかせないだろう。

しかし、時間稼ぎにはなる・・・。

何とかできないものか。

どう頑張ってもできた時間の中で地上に戻るのは至難の業だ。

そんなことをめちゃめちゃ考えていると、青髪少年が足で「Tm」の文字をガンガン踏み出した。

あー、まさかそういうこと?

小声で「おk」と言ってみると、少年は席を立った。

「1時間だけごまかせる。」

「やるじゃん少年!」

少年をリュックの中に苦しくない程度に詰めてできるだけ証拠を隠滅して部屋から出た。

追手もなく地上に戻り、愛しの軽バンまでたどり着くことができた。

安心感!

「軽バン・・・貧乏なのか?」

しばきたいこいつ。跡形もなく。

「ちげぇよ。こいつは俺の息子の形見さ。だいぶ改造してもう原型残ってないがな。」

「今時ガソリン車。笑える。」

こいつマジしばく。いつか絶対。

「うっせぇ。で、なんでTake meなんだ?まあ、移動しながら話しな。」

「その前に・・・風呂とご飯を。」

注文が多い。

海の近くはさすがに今の状況考えてやばいから山まで軽バン走らせて、クッキングタイム。

冷蔵庫の中には肉から野菜、パン系まで全部そろってまーす。

・・・だから重量オーバーするのか。あー、俺の大切なエンジンちゃんが。

サンドイッチでも作って少年に渡し、少年が黙々と食べるのを見届けながら簡易ベッドで寝る。

寝ながら「なんであそこにいたんだー?それ食べてからでいいから教えてくれないか?」と聞いてみた。

「お前には関係ないだろう。」

「おっけぇ今すぐお前をクーリングオフしよう。」

「まってまってください!全部話します。」

「・・・食べてからでいい。」

サンドイッチを食べ終わった少年は「・・・じゃあ。話すけど見捨てるのはなしだからな。」といった。

「あー、ここまで来て見捨てるのは俺にとってのデメリット多そうだからそりゃないから安心しな。」

「・・・捕まってたんだ。あそこは奴隷のように働かされるような残酷な場所だ。仕事の出来次第で飯が決まる。あそこの階のやつらは全員同時期に収容されたんだ。だけど・・・生き残ったのは・・・。」

「なるほど。それで国際組織に居場所を伝えるためにわざとIPを。おかしいと思ったさ。これほどの腕を持った奴がVPNとプロキシなしで突っ込んでくるなんて。・・・で、他には何隠してる?まあ不安になるな。俺が全部何とかしてやる。」

「・・・体内にGPSがある。」

あ、無理・・・。のんきに飯食ってる暇なかった。

急いで片づけて車に乗って少年と一緒に事務所帰宅を目指す。

エンジン終わってるから踏んでも伸びないこの状況で、後ろから追手。

わかってた。GPSって単語出てきた瞬間にわかってた。

後ろから聞こえる銃声。後ろから聞こえる甲高いエンジン音。下から聞こえるエンジンの悲鳴。

こりゃ抜かされて前からゴツンで終わりだな。

この軽バンに乗っている荷物がこいつらに流出すれば国家秘密組織のこともばれる。

あー、終わった。ちゃんとメンテナンスにお金かけておくべきだった。

・・・軽バンに限界。よし!

メールで哀昏に「今すぐ車で来い!位置情報は共有してる!車種はできるだけ早いやつ」と送った。さて、気付いてくれよ。

あとはこのカーチェイスを何とかしなければ。

赤いランプを光らすクラウンに囲まれる軽バン。完全に俺が悪だな。

「大丈夫なの?」

不安がる少年。

ここは不安を吹き飛ばすような一言を言いたいところ。

えーっとそうだな・・・。お、あそこにでっかい雲。雲の上には何があるんだろうなぁ。

「少年!」

「なに?」

「天国ってあると思うか?」

少年は失神した。

ちょっとタイミングと内容が悪かったなー。

後ろからぶつけられ横からぶつけられ前からぶつけられ。そんな状態が30分ぐらい続いたとき、電話がかかってきた。

「もしもし、あぐらさん?つきますよ。」

「ナイスタイミング!」

ということで、形見の軽バンと最後の別れをしましょう。

ガソリンを軽バン内に撒いて、窓から脱出すると同時に着火。

少年抱えて高速道路の下の海に着水。

何とか近くの岸に上がって哀昏と合流すると、なんだか見覚えある車に哀昏が乗っている。

アルト・・・。

ナンバー黄色・・・。

「愛昏、馬力って知ってるか?」

「あぐらさん、でもボスがこれ乗って行けって。」

「ボスって・・・あいつが?」

嫌な予感するなー。

「ボンネット開けてみ?」

「は、はい!」

・・・2jz。

車内はめちゃめちゃ銀色。

安全装置とは?

「よしここからは俺が運転する変われ今すぐ後ろに乗るんだ早く。」

「は、はい。わかりました。あぐらさんその子は?」

「走りながら話す。」

運転席に乗ってすぐに急発進をし、高速道路で超急いで事務所に向かった。GPSをどうするか。その前に、東京で待ち伏せされるかどうか。それよりも前に高速道路で追いつかれるか。

・・・追いつかれる心配はなさそうだった。

この車、やばい。時速400km出る。

「あ、あぐらさん!ちょっとやばくないですか!?このスピード!」

「GPSで狙われてるからこれ以上遅くできん!」

「なにしたんですか!?」

「おれじゃねぇよ!」

ハンドルをちょっとひねるだけで傾く。この車4WDだな。面白い。

軽量ボディーにこのバカみたいな馬力のエンジン。

とんでもないもの乗ってきてくれたな。哀昏・・・その名前をしている奴にろくな奴はいないが、こいつもそうなのか。

ちらっと哀昏の方を見てみる。

口から湯気吐いて白目向いてるのが見える・・・あぁ、こいつはまともな部類だな。きっとまともな方の血を濃く受け継いだんだろうな。まあ確かに見た目そっくりだしなぁ。おっと、いかんいかん。じろじろ見ればセクハラで訴えられてしまう。

まあ、訴える元気もないだろうがな。

地面をなめるように曲がるこの車はまるでUFOのようだ。

「あまり調子に乗らないほうがいい。この車はどうにもおかしい。」

青髪少年の忠告。マジの目をして訴えてくる。やめてくれ。そんな母親のような目・・・母親のような目・・・?

若干違和感。

・・・てか、俺のこのスピードの要因はお前!

解せぬと心で思い浮かべながらぎりぎりをせめて直帰。

ボスにメールで「緊急手術の準備だ。」と送っておいたので、あとは任せて帰ったら寝よう。

こうして2時間で事務所に戻り、少年をボスに引き渡してチーム0の事務所に戻り爆睡した。

少年を引き渡すときに少年が若干こっちにヘルプサインしていた気がしたが・・・もちろん見て見ぬふりをした。

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