第2話

第1話-第2話は動画公開中 

https://www.youtube.com/watch?v=U89jOGzZyW0 


   一九九九年八月―




      1.


 堤防にのぼると、そこにはいつも視界いっぱいに広がる水色の夏空と海があった。

 僕はゆっくりと堤防に腰をおろすと、水色の火花が煌めく水平線に焦点をあわせ、大きく深呼吸した。懐かしい感じの潮の香りと、からっとした八月の風と、コンクリートが焼ける匂いがないまぜになって僕の肺を満たす。

 その年の夏休み、僕は十四歳だった。


『―こんにちは。』


出し抜けに、頭の上から明るい女の子の声がした。ひどく眩しかったので、僕は片手で庇(ひさし)を作り、顔をあげた。

『―あんた、ヨシダさんところの子やねえ。』

そこには、ショートカットの女の子の人懐っこそうな笑顔があった。彼女は紺色のワンピースの水着の上に、黄色いラッシュパーカーを羽織っていた。ラッシュパーカーの下からは、コッペパンみたいにこんがりと焼けたふたつの太腿が、無防備にすらりと伸びていた。

『―そうだよ。』

僕は彼女の細い足首と白いスニーカーに視線を落として答えた。よく見ると、彼女の脚は細かい擦り傷だらけだった。

『―何歳なん?』

彼女は僕の顔を覗き込むように、しなやかに身体を折り曲げた。

『十四。』

『わたしより1個上やねえ。』

彼女は呑気にそう言いながら、僕の隣にぺたんと座った。しかし、薄いナイロンの水着だけで守られた柔らかいお尻が堤防の上にくっついた途端、彼女は、あつい!と悲鳴をあげて立ち上がった。

『うわあ、あついねえ。ここ。』

彼女は決まり悪そうに頬を赤く染めながら、僕の目の前で自分の小さなお尻を両手でぺたぺたと叩いた。

『―何やってんだ。』

その様子が妙に可愛らしくて、僕は思わず微笑んだ。

 遠くの波の音が八月の世界をゆっくりと満たし、水平線に浮かんだ一艘の漁船が音を立てずに漂っていた。

 僕はその瞬間に、目の前の女の子に恋をしたのだった。

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