第104話 寮

ムツキ達は、やっと新しい家へと帰ってきた。


エクリアへの行きは新しい馬車のおかげで想定よりもだいぶと早かったのだが、帰りはシュナイゼルやエリザベート、シャーリーの両親他、世話になる使用人達もいる訳なので、自分達だけ先に帰る事もできずにゆっくりとしたペースで帰ってきたのだ。


馬車での長旅に、王族用のしっかりした馬車に乗ってきたシュナイゼルでも疲れが溜まっている様子である。


まずは先に、働いてくれる使用人達を住居に案内する。


ムツキ達の住む和風の本邸とは違い、ガルバリウムの外壁でできた広い一軒家が一つと二階建ての長屋である。


使用人達の寝泊まりする場所として、4棟の長屋が用意されており、広めの1ルームの間取りである。


キッチンなどは尽きておらず、寝泊まりの為の自室であり、トイレは各長屋に一つの共同トイレ。


広い一軒家は共同スペースで、2階が食堂、1階はお風呂となっている。


案内された使用人達はその説明に口を開けて固まった。


城の使用人でも個室を与えられる事はまずない。2人一部屋、下手したら4人一部屋で自分のスペースはベッドだけだ。


結婚さしたり、メイド長などの役職になれば城の外に住んだり一部屋を与えられたりするが、それは特別な例外である。


このように1人一部屋で広い部屋を与えられる事など普通は無い。


それどころか、共有とは言え風呂が付いているのも驚きの一言だ。普通は布で拭うだけである。


説明を終えると、名前の順番で男女に分かれて長屋に振り分けていく。


長屋は4棟あるので、男女で2棟ずつに分けても余裕がある様に作ってある。


振り分けが終わると、本日は疲れを取る為にこの後は休みと伝えて、仕事内容などは明日伝える事にして解散となった。


ムツキが使用人達に説明を終えて帰ってくると、アインが1人お茶を淹れて待っていた。


歩いてきてムツキにカップを渡す。


「ご苦労様。エレノアとシャーリーは張り切って両親に家の素晴らしさを伝えてるよ」


エルフには両親と言う概念が薄いのだが、両親を案内する2人を見るアインの目は微笑ましそうに見ているが、どこか寂しそうにも見える。


アインも森を出てムツキやエレノア達と過ごすうちに、家族の大切さを学んだと言う事なのだろう。


ムツキは、そっとアインの肩を抱き寄せた。


「大丈夫ですよ。アインには私やエレノア達がいます。ちゃんと家族が居ますよ」


ムツキも妻を3人も嫁を迎えると少しはウブな所が取れて成長するのである。


「家族、そうだな」


アインもムツキの言葉に返す様に頭をムツキの肩にコテンと乗せた。


エレノアとシャーリーが家族に風呂やトイレなど、自分が驚いた所を連れて周り、その全てでエレノア達の反応を巻き戻したかの様に家族が反応する。



その様子を、ムツキとアインは微笑ましく見ていたのだが、そんな2人の醸し出す甘い雰囲気に、エレノアとシャーリーが気づいたようだ。


「「アインさんだけずるいですわ(ずるい)!」」


両親への説明をほっぽり出して、ムツキの元へと向かう2人に、2人の両親達は、今度は逆に微笑ましそうに夫婦仲が良いのを見守っていた。


その後、ムツキに対してシュナイゼルとシャーリーの父親が自分達の家(部屋)だけでもトイレをなんとかできないか相談したのは、異世界の常識テンプレであった。


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