第102話 馬車

新しい家で一晩過ごしたムツキ達は、家が完成した報告に、エクリア城へと向かった。


ムツキの方が格上なのだから使いを使ったり手紙でもいいのだが、新しい家に来てくれるメイド等の使用人を選んでくれていると言う事で、その紹介もあってこちらから向かうのだ。


ちなみに、ドラゴニアからも使用人達はくる事になっている。


それに、エレノアとシャーリーが家族に家を見せたいと言うので、シュナイゼル王やシャーリーの父も呼ぶ事になっている。


勿論、その話は先に手紙で伝えてあるので、大丈夫であろう。


エクリア最速の伝書バードがトラブルに巻き込まれていなければ大丈夫なはずである。


そして、話題は目下移動中の馬車へと移る。


「ムツキ様、これは、どういう事ですの!」


「エレノアさん、もうムツキ様の作る物はあの家で驚くのは無駄だと分かったじゃ無いですか」


エレノアがムツキに詰め寄るのを、シャーリーがやれやれと言った感じで止めていた。


エレノアのこの様子は、異世界と言えばこれですよねパート2の馬車改造である。


馬車の上積みは基本同じなのだが、椅子や背もたれがしっかりとしたクッションに変わっており、それぞれがバケットシートとまではいかないまでも、体を軽く包み、支える良いな形になっている。


内装だけなので上積みの外見としてはそこまで変わった様には見えない。


しかし、これが載っている足回りは魔改造されていた。


貴族の使う馬車にも板バネの様な物は付いているのだが、この馬車に使われているのは油圧式のサスペンションである。


しかもフレームから構造が変わっており、金属製である。


錬金術のおかげで軽さと剛性を持ち合わせているので馬の負担にもならないという優れもの。


タイヤは空気の入ったゴム製である


流石に車につける様なリム幅のある19インチとかでは無いものの、軽トラに使われそうな14インチ程のタイヤである為、横から見た時の威圧感はあった。


ここまでするなら自動車を作ればいいじゃないと思うかもしれないが、この世界で自動車を走らせた時のリスクも考えなければいけない。


移動は楽になるだろうが、まず御者が職を失う。


そして馬もである。


無理やり働かせてるのだから放してやればいいと言う人もいるかもしれないが、馬車を引く為に育てられた馬達である。


野生を知らない動物が野生に返るまでには時間がかかる。


魔物や魔者がいるこの世界では、野生に戻る前に死んでしまうだろう。


そして人といても、行き場をなくした馬の行く末は、大体きまっている……


それに、車を作ったとして、道路の整備どころか法整備もできていない。


貴族が平民を轢いても咎められ無い国さえあるこの世界で、馬車の何倍も速い鉄の塊が動けば、移動以外の目的でも使われる事だろう。


だとすれば、今ある馬車を自分達の乗る馬車だけ魔改造してしまった方がいい。


通常の馬車よりも快適に進む事ができ、馬への負担も少ない馬車は、自ずと休憩も少なくなり、予定していたよりもだいぶ早くエクリア城についてしまうと言う誤算があったのは別の話。


そして、早く着いた事で準備が間に合わず、ドラゴニアからの使用人達やシャーリーの家族もまだ到着していないので、結局エクリアで待つ事になってしまう。


一日だけ、ムツキの建てた家を経験してしまったエレノア達が、エクリア城の生活にため息が出る様になってしまったのは、城に住む人達には秘密である。

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