第94話 隠れ

ムツキは、完成したを見せるためにエレノアとシャーリーとアインを呼びに町の宿へと帰ってきた。


受付に挨拶をして部屋へと向かう。


部屋の前に来た時、バタンッと勢いよく扉の閉まる音が聞こえた。


「大変ですわ!ムツキ様がもう帰ってきてしまいましたわ!」


「え、まだお昼ですわよ?」


「受付に行こうとしたら見えましたの!」


「どうしたらいいだろう」


「アインさん、慌てず早くこ、これに」


「しかし、そんな時間は……もういい、受けてたつ!」


「そんな、夜のサプライズが!」


部屋の中がずいぶん騒がしい様子である。


ムツキは、部屋に入る時は必ずノックをする。

いらないトラブルは避けたいと思ってしまうからだ。


「大丈夫だ、旦那様」


「あ、ムツキ様、少し____」


ムツキはエレノアの返事を待たずに、アインの返事で扉を開けてしまっていた。


部屋の中に入ると、慌てるエレノアとシャーリーと対照的に、仁王立ちで腰に手を当てるアインの姿があった。


「どうだ、旦那様!」


「とても綺麗です……」


アインの姿は、いつものカッコいいパンツスタイルではなく、この世界の、ボリュームのあるドレスでもなく、ムツキがエレノアにプレゼントした現代風の可愛らしいドレスであった。


それに、いつもと違い、シャーリーと同じ様に主張の少ない慎ましい胸が、今日は誰よりも大きく主張している。


しかも胸を張っているのでその胸を自慢している様にも見えた。


「コホン。ムツキ様、どうですか?アインさん素敵でしょう?」


エレノアは隠すのはやめたとばかりに咳払いをしてムツキに感想を求めた。


「ああ、とても綺麗だ」


「アインさんたらこんな凶器を隠していたんですよ」


話を聞けば、アインはエルフの騎士としていつも胸が邪魔にならない様にサラシの様な物で潰して平らにしていた様だ。


エルフなのに?と思うかもしれないが、この世界ではエルフでも人族と同じ様に個人差がある。


そしてアインはかなり大きい方であった。


アインは、堂々とした仁王立ちのまま、褒められた事で顔を赤くしてフンと鼻息を吐いた。


隣でシャーリーが自分の慎ましい胸を押さえて悲しそうな顔をする。


「シャーリー、私はシャーリーも大好きですよ」


ムツキの言葉にパッと顔を明るくするシャーリー、そして、1人だけ褒められていない事に少し不満気なエレノア。


「ムツキ様、私は?」


「勿論エレノアもです!」


ムツキは、家ができた事を報告する前に、ムツキの少ないレパートリーをフル活用して3人の妻を褒めちぎるのであった。

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