第90話 妻の名前

ムツキは、エクリア城にもどってきた。


そして、エレノアとシャーリーに出迎えられたのだが、2人は、戻って来たムツキとニコラスの他に、もう1人増えている事に驚いていた。


ペトレに乗って行ったのに、帰って来た時にはナーラという違うドラゴンになって帰って来た事には、城はざわついていたのだが、2人は新しいドラゴンの事は、ムツキが森に向かった理由から想像していたのでそこにはさほど驚きは無かった。


肩に乗っているピリカに関しては、人族の2人には見えていないので割愛である。


「ムツキ様、そちらの方は?」


エレノアの質問にムツキは背中に冷や汗が流れるのを感じた。


シャーリーの時も緊張したが、先にエレノアも理解しての事であった。


しかし、今回は急に女を連れて来たといった状況だ。


日本の常識なら、浮気を問い詰められている状況である。


「新しくムツキ殿の番になりましたイニーナ、いえ、これから名前が変わりますがまだ決まっておりません。よろしくお願いします」


冷や汗を流してどう説明しようかと考えるムツキの後ろで、イニーナがそう言って挨拶をした。


「あらあら、そうなのですね。番と言うと嫁という事でよろしいのですよね?」


エレノアの質問に答えたのはニコラスだった。


「はい、エレノア様。そうなります。イニーナはムツキ様の第三夫人としてやって来ました」


「なるほど、それで名前が変わるというのは?」


エレノアは嬉しそうに頷くと、次に疑問に思った事を質問する。


「私共エルフは役職によって名前が変わりますから。ニコラス、私は架け橋になるのですか?」


「いいえ、イニーナは架け橋ではなく、初めて人に嫁いだエルフになりますので始まりの文字を名乗る事になるでしょう。しかし、ハジ様と被るのはややこしくなりますから……ムツキ様、何かいい呼び名はありますか?」


ニコラスはムツキに質問した。妻の名前を自分で決めてみてはどうか?と言った意味が含まれているだろう。


ムツキに視線が集まる中、ムツキは必死に考える。


無限にある名前の中から決めるのではなく、始まり、01を意味する言葉と言う決まりがあるだけ浮かびやすい。


ファースト、スタート、イチ、ワン。


色々とあるが、日本人が名前として馴染みがあり、パッと思いつくのはだいたい決まっている。


《アイン》


ドイツ語と言うなぜか日本語とカタカナ英語が通じるこの世界で聞いていない言葉であるし、騎士として引き締まった美しいエルフであるイニーナにピッタリの名前だと思った。


「アインはどうだろうか?」


「アイン!それはムツキ様の世界の言葉ですか?」


イニーナよりもニコラスが興味を持ち、ムツキにグイッと近づいて質問した。


当の本人であるイニーナは、胸の辺りで優しく両手を重ね小さな声で「アイン」と呟いた。


その姿を見て、エレノアとシャーリーはアインと仲良くなれると、確信を持った。


「それでは、ムツキ様に新しい妻もできた事ですし、お父様に直談判に行きましょう!」


「そうですね、いつまでもここにいる訳にはいきませんから」


エレノアとシャーリーの提案は、突拍子のない物ではなく、以前より色々と話し合っていた事である。


しかしその前に、ムツキとしてはきちんと聞いておかなければいけない事があった。


「イニーナ、どうかな?」


「ありがとうございます、ムツキ様。私はアインと言う名前を一生大切にいたします」


喜んでくれている様だが、エルフに一生と言われるとかなり重たい気がすると思ったがムツキは口には出さなかった。



こうしてイニーナ1217は、ムツキの妻としてアイン1に名前が変わったのであった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る