第78話 引取先
「それで、彼女達の今後ですが、どうしたいですか?」
ミサキとアキホは今後について聞かれた事に驚いた。
自分達の意見など関係ないと思っていたからだ。
「不思議そうな顔をしていますね? あなた達はムツキ様が気まぐれに助けただけです。つまり、その後ムツキ様が何か望まれなければ自由ですよ。ムツキ様は何か望まれますか?」
エレノアはムツキの方を向いて尋ねた。
この場合の望みとは助けた対価であろうが、ムツキは、何も要求する気は無かったので首を横に振った。
「と言う事ですので後はあなた達の自由です。助けた手前、リスクの話は先ほどした様にミサキさんは戦争の道具として欲しがる国もいるでしょう。ただ、今回の事がありますから、その攻撃対象からエクリアとドラゴニアは外れるでしょう。ムツキ様に牙を向いた国はどうなるかは理解したでしょう。私達は別に世界平和の為に戦争を無くそうとしているわけではありません。尻尾を振る国は優遇し、牙を向く国は叩き潰す、それだけです。他の国同士が戦争しようと、こちらに影響がなければ興味がありません。だから、あなた達を私達の手元に置いて置く意味はないのですよ」
エレノアの言葉は冷たい様だが、国をまとめる王族としての意見であった。
日本の様に助けたのなら最後まで面倒を見ないと。とはならない。
助かって良かったね、次はこうならない様に頑張ってね。である。
ただ、エレノアの優しい所は放り出すのではなく選択を与えてあげている所だ。
2人の現状、ダスティブ王国はなくなり、自由の身となった。
能力値は高いから普通の生活もできるかもしれない。仕事も探せば何か見つかるだろう。
ただ、日本とは治安が違う、特に、身分差は大きい。そして、言葉は通じるが土地勘はなく、法律も何もわからない状態である。
そして、ミサキの能力はまた利用される危険も持っていると教えた上で、『どうしたいか?』と聞いてあげたのだ。
ミサキとアキホは確認の為に少し話すと、直ぐに答えは出た。
2人はそろって頭を下げた。
「この国で面倒を見てもらえないでしょうか」
結局エクリアで面倒を見るならこんな回りくどい事をしなくても一緒だと言われるかもしれないが、立場が違ってくる。
エクリアで面倒を見ると匿った2人と、エクリアに助けてくれと亡命してきた2人では意味が違ってくるのだ。
「でしたらミール男爵、この2人をあなたに任せます。客人ではなく、領民として受け入れなさい」
「は!」
ミールさんはエレノアの言葉に家臣の礼をとった。
この戦争に関しては、エレノアはシュナイゼル王からエクリアとしての決定権を渡されている。
ミール男爵も、それを理解した上での礼である。
「ムツキ様は不思議そうですわね」
「ええ。なぜ2人をミール男爵にまかせるのかとおもいまして」
エレノアは笑顔でムツキに説明する。
「城で匿うと私達の目を離れます。そうすれば利用しようとする貴族も出て来ますわ、城では派閥がありますから。それに、2人が平和に暮らすには事情を知る人間は少ない方がいい。ミール男爵は地位よりも農業が好きな方です。爵位が上がってよけいな執務が増えるのを嫌って農業に打ち込んでられる方ですから利用される心配は……治療院位に利用されるかも知れませんね」
エレノアは思い至った事にふふふと笑って続きを話す。
「それにアキホさんの弓術は農地を荒らす害獣を相手にすれば農業の役に立ちますし、賃金を稼ぐ事もできるでしょう。それに、ここにはトリエさんが居ますから、彼女を見れば任せる事ができるとわかります。余所者だからと悪い様にされてないでしょう?」
ムツキはトリエを見て頷いた。
パーティーの時に会った時よりも表情が優しくなり、ここに馴染んでいる様にみえる。
こうして、ミサキとアキホはフィールダー領の領民になる事が決まった。
「貴方達、農業は大変ですのよ!」
「大丈夫さ、トリエでも最近様になって来たんだ、あんたらも頑張りなね!」
「お義母様ぁ」
トリエが2人にマウントを取ろうとしたが、似た様なもんだと笑われて出鼻をくじかれてしまった。
それを、ミール男爵や第二夫人のレミーも笑っているが、トリエは怒る様子はない。
やはりいい関係を築けている様だ。
この人達なら、2人を悪い様にはしないだろうと、ムツキはそう思った。
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