第61話 解呪
呪い。それは確かにこの世界に存在する。
魔法などと同じで物理法則を無視する神秘の御技に近い。
まず、スキルとは努力の結晶である。
子供が算術を習い、習得すればスキル:算術を覚える。剣術も同じであるし、例えば、かくれんぼが上手い子供はスキルにかくれんぼがあったりする。
しかし、大体の人間はそこで終わってしまうのだ。
たとえば、この世界の一般人に因数分解ができる人は少ない。
そこまでできれば算術のレベルは4くらいはありそうである。
商人として働いても、レベル2程あればお金の計算はできるし、在庫の管理もできる。
商売するのになにもこまらないのである。
ムツキのスキル:マルチが
頑張って覚えたからスキルを習得した。ではなく、スキルを覚えたからできる様になった。なのである。
元々勇者がこの世界で強者たる所以も同じである。ステータスの成長が大きく、この世界の人間よりも優秀になりやすいのは勿論の事、初めから高いスキルをおぼえている。
スキルを覚えていれば、それはできる事になるのである。
例えば、剣術SS《聖剣》と言うスキルがある。
これは、剣術を習った少年がある程度剣を使える様になると剣術(レベル1)である。
それから流派の技を覚え、そこそこ強くなる頃には剣術(レベル5)位だろうか?
騎士ともなれば更にレベルはあがり、剣を扱う熟練も上がる。そうすると剣術(レベル10)位になり、剣術が剣術F(レベル1)に進化する。
その到達点が剣術SS《聖剣》である。
その聖剣を初めから扱う事ができれば、レベルやステータスは低くとも、周りの人間より優れていて当然なのである。
ムツキの場合、それさえもマルチで無限にスキルを重ねる事で進化していき、時には他のスキルとの相乗効果で、派生系スキルに変化する。
覚えれば使える。この理論無視の暴力がムツキなのである。 勿論、本人の知るところではないが。
さておき、呪い、呪術と言うスキルは並大抵の事で覚えられるスキルではない。
分かりやすく火魔法で例えるなら、火魔法は火起こしの派生進化スキルである。
派生進化。それだけで覚えるのがどれだけ困難か分かってもらえるだろう。
呪術もその種となるスキルがあり、呪術になる迄には果てしない研鑽が必要になる。
だからこそ、人を呪うと言う行為は一般的ではないし、呪術を覚えてもレベルが低ければ殺す様な呪いはかけられない。
エリザベートの様に、病弱で、辛い日々を送るくらいである。
だからこそ、人のステータスの鑑定が未発達、アイテムを使ってもスキルまでしか見る事ができない人の社会においては、呪いがかかっているのは分かりにくい。
エリザベートは、元々は普通程度に元気な体であった。
体調を崩したのはエレノアを出産した後からだ。
だからこそ、出産の影響で、体が弱くなったと思っており、その体調を回復させようと、シュナイゼルはリフドンに頼んで色々と探してもらっていたのだ。
それが、ペトレの一言で、呪いのせいであったと発覚したのだ。
「そんな、呪いだなんて…」
シュナイゼルは真実を知って膝から崩れそうになった所をアグニールに支えられた。
エレノアもショックで口元を手で覆ってしまった。
勿論、呪いを受けた身であるエリザベートは胸に手を置いて悲しそうに眉間を歪ませた。
呪術を覚えている人間が限りなく少ないのと同じ様に、呪いを払う解呪を覚えている人も少ない。
そもそも、手当てから回復魔法まで覚える人はまだいるものの、痛いの痛いの飛んでいけが上限まで上がって解呪になる人はほとんどいないし、そうやって覚えられると言う事も知られていない。
エクリアの3人が落ち込む姿に、アグニール達ドラゴニアの人間も声をかけられなかった。
かける言葉が見つからないのだ。
ドラゴニアにも、解呪できる人間を紹介できないから。
「
沈黙の中、言葉を発したのはムツキであった。
ムツキがエリザベートの肩に触れた。
すると、エリザベートの体がぼんやりと光り、体から紫色のモヤが蒸気の様に吹き出して空気の中に消えていった。
「ほう。ムツキ様は解呪も使えるのか。流石であるな」
ペトレのが喋る隣でボロネがうんうんと頷いている。
「ム、ムツキ殿、本当にエリザは呪いが解けたのか?」
初めに口を開いたのはシュナイゼルであった。
「
ムツキはエリザベートにニコリと笑いかけた。
「ええ、ええ。体が楽だわ。昔みたいに、苦しくないの」
エリザベートの声は震えていた。手を握ったり開いたりして、体の調子を確かめている。
「お母しゃま」
涙声のエレノアが、エリザベートに抱きついた。
エリザベートが、エレノアの頭を優しく撫でた。
アグニールが、ゆっくり、シュナイゼルを2人の元に向かわせると、シュナイゼルは、エリザベートとエレノアの2人を一緒に抱きしめた。
シュナイゼルの瞳にも、キラリと光るものが見えた。
そんな3人の姿をニコニコとムツキが見ている。
シャーリーも、もらい泣きをして、袖で涙を拭っている。
その光景を見て、アグニールはムツキの傘下に入ったのは、間違っていなかったと改めて思ったのだった。
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