第57話 入場

パーティー会場では、トリエとその取り巻きが楽しそうに話していた。


「本当に、失礼な平民ですわ!」


「トリエ様、所詮平民です。貴族と面と向かうのが怖くて逃げかえったのですよ」


「そうですわ。私達を見て自分の贈り物を着ているシャーリーの姿を恥ずかしく思ったのですわ」


トリエ達の会話はヒートアップするばかりだが、その時、パーティー会場の音楽が止まった。


これは、パーティーの主役やドラゴニア王が入場する時に、そちらに注目する為の演出だ。


音楽が変わって入場の際の音楽が流れる。

結婚式場の様に高い場所から階段を使ってドラゴニア王アグニールが入場して来た。


アグニールが会場よりも高い所、しかし、いつもならば宰相が立っている一番高い場所よりも一つ下まで降りて来た。


そして、続いてムツキがエレノアと、シャーリーを連れて階段をゆっくりと降りてくる。


本来なら、アグニールが立つ場所であろう一番高い所で、止まり、ムツキの右の半歩後ろにエレノアとシャーリーは並んで立ち止まった。


「皆よ、パーティーは楽しんで居るだろうか?」


アグニールはムツキ達が立ち止まったのを合図に話始めた。


「この度のパーティーは我が国がムツキ殿の傘下に入った事を記念するパーティーである」


男性の貴族達はその発表に大きな拍手をして盛り上げ、その子供や奥方も旦那にならって拍手をする。


不満を持つ者も子供や奥方の中には居るだろうが、アグニールの言葉に異を唱える者は現れなかった。


「しかし、本日は悲しい話をしなくてはならん。せっかく無駄な被害を出さずに平和的友好を結べたにも関わらず、ムツキ殿に不敬を働いた者がおるそうだ。残念ではあるが、その者達に罰を与えねばならん」


アグニールの言葉に、会場はざわついた。

まさかこのパーティーでその様な事が行われると予想していなかったからだ。


「今から呼ぶ者は、前に出よ」


アグニールが名前を呼び、呼び出された者が顔をこわばらせて前に出ていく。


皆、自分が何故呼び出されたのか理解していた。


しかし、先程の些細な事でこの様な事態になるとは思っていなかった。


何故なら、父親に言われたとはいえ、やはりドラゴニア聖国はトップの国で、そこに逆らう事などできないと思っていたからだ。


自分の取り巻き達が呼び出されていく中、トリエは不満そうにムツキを睨んでいた。


それは、自分はアグニールの娘で、この国の王女なのだから、取り巻き達がトカゲの尻尾切りされるだけで、自分は大丈夫だとタカを括っていたからだ。


しかし、そんな傲慢な思いは簡単に崩れ去る。


「最後にトリエ、前にでなさい」


アグニールの呼び出しの最後の1人の名前に、会場はざわつき、トリエは驚きで動く事ができなかった。

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