第56話謝罪

ムツキがいる部屋に、先程シャーリーが名前を上げた貴族達の親が集められた。


何故親なのかは、話をややこしくしない為のアグニールの提案であった。


本来、謝罪の為なら、本人達も呼ぶべきであるが、そうすると本人達が更に不敬を重ねると予想ができる為、今回は親の謝罪と本人達に重い罰を与える事で許して欲しいと願い出たのであった。


そうして今、貴族達がムツキ達の前で揃って土下座をしている。


ドラゴニア聖国は、勇者が起こした国だからか、最上級の謝罪は土下座である様だ。


「そんなにうずくまられても嬉しくはありません。謝罪なら、きちんと片膝をついて首を下げなさい!」


この世界で土下座はドラゴニア聖国だけの習慣の為か、エレノアはきちんと貴族の礼をとりなさいと叱咤した。


貴族達は、最上級の謝罪をしたつもりだった為に、恥ずかしさで顔を赤くして片膝をついて頭をさげ、謝罪の言葉を口にした。


「では、貴方達はこの落とし前をどうつけるおつもりで?」


エレノアの言葉にムツキの顔は少し引き攣った。落とし前など何処の任侠映画かと思ってしまうが、貴族の世界の事を分からないムツキはエレノアに任せて黙っているのだ。


この辺りの事は、エレノアやシャーリーに後でちゃんと教えてもらおう。などとムツキが考えているとはつゆ知らず、謝罪する貴族達はエレノアに話す事を任せて顔を引き攣らせるムツキが相当怒っているのだと思い、その威圧感に恐れを抱いていた。


「わ、私の家は即刻後継を変えて息子を死刑とします!」


「私の家もです」「私も娘を___」「私も」


初めに刑罰を口にしたポムンダ伯爵を皮切りに皆が、子息達を死刑にすると言い出した。


「それで、終わりですか?」


エレノアの言葉に貴族達は自分の体温が下がっているのに、汗が噴き出るのを感じた。


「エ、エレノア嬢、これ以上とは私達のクビも差し出せとおっしゃるのか?」


アグニールは顔を青くしてエレノアに質問した。


「誰が首を差し出されて喜ぶのですか? ムツキ様を奇人だとでも思ってらっしゃるのかしら。 人は死んだらそれで終わりなのですよ。苦しみもそこで終わり。平民に落として、田舎に放り出しなさいな。貴族として生きて来たご子息達には生きるのも辛いでしょう。勿論、貴方方が手を貸す様なことがあれば、分かっていますね?」


犯罪に手を染めた訳でもないのに命を差し出されても何も嬉しくないのだ。

それよりも、残りの人生を自分達が見下して来た平民として過ごす方が苦しみは大きいだろう。


「はい。廃嫡して関わらない様にさせていただきます」


貴族達は、自分に火の粉が掛からなかった事にホッとして深々と頭を下げた。


「さて、アグニール王」


「はい。私も娘を___」


アグニールも承知の返事をしようとした時にエレノアが待ったをかけた。


「アグニール王、トリエ様ですが、エクリアに嫁に出しませんか? 1人嫁を探している男爵が居るのですよ。農業男爵で、民達と一緒に農業をしているのですけどね。そのおかげで嫁が来ないと嘆いておられるのですよ。 一応農民の奥様はいらっしゃるのですけど、跡取りとしては貴族の血が必要でしょう?」


エレノアはしれっと自国の外交を持ち出して来た。

男爵とは名ばかりの農民生活だが、命の補償はされるだろう。

王女が他国の王族や貴族に嫁ぐ事はあるが、男爵と言うのは異例だ。


周りから見れば、エクリアがドラゴニアよりも上の様に見えてしまう。


「分かりました、トリエを嫁に出しましょう。それであの子の命が救えるのなら」


アグニールはエレノアの提案を受け入れた。


馬鹿をしたとは言え、自分の娘は可愛い。

平民に落ちれば、ドラゴニアの共王女と言う肩書は自国、他国共に貴族達にとって意味を成すのだ。

自分の家に勇者の血が混ざるのだから。


その為に、平民になったトリエがどう扱われるかは想像がつく。


エレノアの提案に、一国の王としては怒らねばならないが、父親としては、ありがたく思った。


事が決まれば、来客を待たせているパーティーに向かわねばならない。


ムツキの世界で言う、悪役令嬢の断罪が始まろうとしていた。

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