第48話ドラゴニア上層部の話

その日、ドラゴニア聖国の貴族達にとって、衝撃の日となった。


普段は国王であるアグニールしか入れないはずの竜の山に貴族達が全員呼び出されたのだ。


公爵から、騎士爵に至る迄全員である。


自領を統治する貴族も、有無を言わさずに集められ、呼び出しから2ヶ月後に、全貴族が入山する様に伝えられた。


それまでに、ドラゴニア王アグニールはしなければいけない事があり、息子である王太子。それから宰相、公爵、社交会の為に王都に来ていた侯爵を呼び出した。


「私達に、人の下に降れとおっしゃるのですか!」


会議室に、アグニールの説明を聞いた王太子アムドの声が響いた。


アグニールの説明は、だいぶ噛み砕いたつもりだったが、長年ドラゴニア聖国の王位を継ぐものとして過ごして来たアムドには、耐え難い物だったのだろう。


「アムドよ、これは仕方のない事なのだ」


アグニールは、アムド。王太子である息子を説得する様に話しかけた。


「ルヒムも、カーニル公爵、レーガン侯爵も心して聞いて欲しい。

我々の立ち位置を表さなければならないのだ。

ペトレ様は、既にムツキ様の傘下に入った。

我々はペトレ様の庇護下にあってこそのドラゴニアだ。

ムツキ様と敵対する事はペトレ様とも敵対するという事。

それは国を滅ぼす事と同意だ。


戦わずして、白旗を上げる私を身限り、国を離れるのも止めはしない。

私は、民を守る為に腹を見せる覚悟を決めたのだ」


アグニールの言葉に、しばしの沈黙が訪れた後、初めに口を開いたのは、レーガン侯爵だった。


「そのムツキとやらは、それ程までなのですか?」


「分からぬ。ただ、ペトレ様が無条件で傘下に降った事は確かだ」


「何かの術でペトレ様が操られている可能性は?」


「そうだとしても、ペトレ様を操る事ができる相手と敵対できる理由にもならん」


「たしかに…」


アグニールの正論に、沈黙が訪れた。


「それで、そのムツキとやらは我々にどんな要求を?」


行き詰まった会話に、次の話題をカーニル公爵が質問した。



「何もしておらん。ただエクリアの姫との婚約に茶々を入れる貴族を黙らせる為にペトレ様と我が国を配下に加えるとか…」


「なんと…」



アグニールの回答は予想外だったのかカーニル公爵は絶句してしまった。


「ただ、先程も言った様にエクリアの姫を妃とする為にここまでしているのだ。

ペトレ様の助言で、我々もムツキ様に誰か嫁がせなければ我々の立場はエクリアよりも下になるだろうと。

なので、皆に集まってもらったのは、ムツキ様に嫁に出すには誰がいいのか話し合う為なのだ。

エレノア嬢と、喧嘩をしないいい娘を探さねばならん」


ここで、普通ならば位が高いアグニールの娘か公爵の娘を出せばいい話なのだが、相手がムツキであれば少し事情が変わってくる。

貴族に嫁がせる訳ではないと言うだけで、条件が少し複雑になるのだ。


ドラゴニア聖国のトップ達は、どの娘がいいか話し合うのだった。








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