第32話 山頂

ムツキは、道に迷っていた。

只々頂上を目指していたのだが、一向に強い魔物は出てこない。

もしかしたら縄張や分布があり、そこから外れているのではないかと思い立ち、道をそれて道なき道を進んだ。

途中にマグマ溜まりがあったり、洞窟があったので入ってみたりしながら色々な所を歩き回った。


やはり、道からそれれば他の傭兵達も歩き回っていないのか、魔物は山ほど襲ってくる。

しかし、多種多様な種類の魔物が居るものの、どれもであり、あまり高値で引き取って貰えそうにない魔物だけが収納魔法に収められていく。

先程も、ついにワイバーンか!と胸を高鳴らせたが、その更に劣等種か何かだった様で、非常に弱かった。


強い魔物が出れば、それを倒して戻ろうと思っていたのだが、強い魔物が出て来てくれないのでどんどん先に進んでしまい、迷ってしまったと言うわけだ。


もしかして、受付嬢に揶揄われた?

傭兵では無い為、強い魔物を聞いたのが冗談か何かだと思われたのだろうか?

それともそれを話題にしたナンパと思われた?


いや、人を疑うのは良くない。


まだ頂上に着いたわけではないのだし、とりあえず上へ進んでみよう。

弱い魔物をどれだけ倒しても帰りの馬車代などでほとんど消えてしまうのだから、エレノアへのプレゼントを買うに強い魔物でお金を稼がないと。


ムツキはそうして、ずんずんと火山を登っていく。


結局、山頂付近まで登って来ても、見かけ倒しの魔物ばかりであった。


「数だけは沢山居たし、数で勝負するしか無いのかなぁ。

生活するだけなら余裕はありそうだけど、エレノアへのプレゼントにはぜんぜんたりないだろうしなぁ」


山頂に噂の強い魔物が居なければ、エレノアへのプレゼントに不安がある為、ため息を吐きながら山頂へと登った。


山頂に着いたムツキは、直感的に思った。

この魔物は今までの魔物とは違うと。

この魔物は厄介だろうが、この魔物さえ倒すことができれば、エレノアへのプレゼントに見栄を張ることくらいはできるだろう。

そう思った。



しかし…



今現在の状況は、山頂の魔物がムツキに頭を下げて許しを請うていた。


「降参しますのでどうか見逃してはくれませんか」


ムツキは魔物が喋ったことに驚いていた。

以前倒した魔者のオークは話す事はしていなかった。

いや、意思疎通して襲って来ている様だったから、あの「ブー」「ピギィ」などが自分には分からないオークの言語だったのかもしれないが。


だが、今目の前で器用に頭を下げる見た目の魔物はきちんと人語を話しているのだ。


「なんでもしますのでどうかお命だけは。なにとぞ」


「…君ってドラゴンなの?」


頭を下げる魔物にムツキは半信半疑ながらそう質問した。見た目だけならファンタジーに出てくる災害を起こす魔物にそっくりだったからだ。


「はい。私めわたくしめはレットドラゴンの青体せいたい(人で言う青年)にございます」


「なんだ。ドラゴンモドキなのか」


「え?」


「ん?」


「私はレットドラゴンで…」


「劣等ドラゴンだろ?」


「あ、いや、赤のドラゴンでございます」


「ああ、レッドドラゴンか。人語を使えても完璧じゃ無いんだな」


「あ、はい。すいません。

レッドドラゴンです。人で言う所の20歳位です。はい」


ドラゴンはムツキの間違いも肯定してどこまでも低姿勢だ。


「でも、ドラゴンなら強いんじゃないの?

プレゼントを買う為に強い魔物を狩らないといけないんだけど」


「あ、貴方様は自分の強さを理解しておられますか?」


「え?」


疑問の声を上げたムツキにレットドラゴンは丁寧に説明した。


人のステータスは一騎当千と言われる者で平均ステータスが5000程度、伝説と言われる勇者でも10000くらいの物で、勇者と同盟を結んでいたドラゴンのステータスは当時で25000程。


そのドラゴンでさえ災害と言われるのだ。


因みに、一般的な傭兵は300から1000程度であり、ムツキがここまで倒して来た魔物は1500から3000程である。


そして、このレットドラゴンは15000程度のステータス。

勿論、このレットドラゴンも災害指定である。


対して、ムツキのステータスは65536。


その強さを感じ取ったレットドラゴンは戦う前に降参して頭を下げた。と言う事だった。


「じゃあ、ここに来るまでの魔物でも十分強くて売れば結構なお金になるのか」


「はい。この火山は普通の人間のステータスでは入れません。

私の命令で火山の外に出ない様に言ってますので人に迷惑はかけていないでしょうが、群れで街を襲うだけでも被害は大きいでしょうから」


なんでも、この世界の各所ではこの火山の様な場所が多数存在するらしい。

伝説の勇者の友であるドラゴンと勇者の盟約により、各所のドラゴン達の縄張りにいる魔物たちは人が手を出してこない限りは人に手を出さないんだとか。


「なら、お前を倒したら他の魔物の統率が取れなくなるかもしれないのか」


「は、はい」


この火山の約半分の魔物は既にムツキの収納魔法の中だが、半分でも甚大な被害が出るだろうと予測できるし、レットドラゴンは自分の命もかかっていそうなので、すぐに肯定した。


「それに、プレゼントでしたら私も力になれると思います」


そう言ってドスドスと火山の洞穴の中に入っていくと、色々と持って出て来た。


「これは私めが集めていた財宝です。お受け取りください」


ムツキは、その財宝の量に少し引いた。

レットドラゴンが抱えて来た量がとんでもない量だったからだ。


「まだ足りませんか?」


「違う。いきなりこんな物を持ち込んだら俺が怪しまれるだろう。見た所、使える金貨ではないようだし」


レットドラゴンが溜め込んでいた財宝は色々な年代の金貨が混ざり、宝石も町で見たよりも大ぶりで、その大きさでは、エレノアには似合わなそうだとムツキは思った。

換金する為に何処かに持ち込めば、何を疑われるか判った物ではない。

ただでさえ、先ほどのレットドラゴンの話を聞いて収納魔法の中の魔物を売るのを辞めておこうかと考えていたのに。


「では、あれを」


そう言ってまた財宝を取りに行くレットドラゴン。邪魔になるので。一度持って来た財宝をしまいに行くのも忘れない。


「こちらでどうでしょう」


そうして出て来たのは見たことのある銀貨と同じ様な柄の金貨だった。


「それと、もしプレゼントに迷ってられるならこれを」


そう言ってレットドラゴンが差し出したのは薄いピンク色の宝石だった。


「私が幼い頃の竜石りゅうせきです」


話しながらレットドラゴンは額にある宝石を差した。

その額の宝石がドラゴン種である証なんだとか。

差し出したのは、乳歯の様な物で、青体や老体になる時に強い宝石に生え変わるそうな。


サイズ的にも、髪飾りにしたらエレノアに合いそうなサイズ感だったので、銀貨と金貨数枚、それにこの宝石を受け取る事にしたムツキだった。



ピコン、スキル:マルチの効果により、ボロネのスキル:竜炎魔法スキルを取得しました。


こうして、レットドラゴンのボロネは命を買うことに成功したのだった。



「…え?」









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