第27話 デート

傭兵ギルドを出た所で、ムツキは声をかけられた。


「そこの傭兵、ちょっとお前に用があると言ってる方が居る。ついて来い」


「え、私ですか?」


ムツキはついつい反射的に返事をしてしまった。

実際の所は藪から棒になんの様だと思っている。無視していけばいいものの、返事をした以上、立ち止まって返事を聞いてしまうのが日本人らしいと言えばそれまでだが。


「そうだ。お前だ。ついて来い」


「いや、そう言われましても、どうしてついて行かなくてはいけないのですか?

あるお方とは誰ですか?」


「お前が知る必要は無い。とりあえずついて来い」


とりあえず誰が読んでいるのかだけでも聞こうと思ったが、この回答。

流石に、ついて行く気にはなれない。


「お断りします。呼びつけた上に誰だか分からないなんて。

会いたいならせめて自分から来るべきでしょう」


ムツキは男の誘いを断り、突き放した。


「な、お前、お前を呼んでいるのはお前が断っていい様なお方では無い。

断るなら、傭兵免許を剥奪してこの国にいられなくしてやるぞ」


ムツキは呆れるしかなかった。

そもそも、そんなに身分の高い人間ならきちんと名乗って貰えばこちらとしても考えるのだ。


一応、こちらはエレノア。この国王女の婚約者である。

身分の高い方なら会わなければならない事もあるだろう。


勿論、呼び出したのがシュナイゼル王と言う事もあるが、それならリフドンを通した方が確実だし、名前を教えてくれれば済む話だ。


「やれる物ならなってみなさい。私はもう行きますね」


ムツキは付き合ってられないと話を切り上げてこの場から去ろうとする。


「なら、待ちやがれ!」


男は去ろうとするムツキを引き止める為にムツキの肩を掴もうと手を伸ばしてきた。


しかし、肩を掴む事はかなわず、何かのスキルが反応したムツキは男の手を掴み、その手を軸に男の移動の力を利用して綺麗に投げ飛ばした。


「あ…」


男を投げてから、しまったと思った。


「正当防衛ですからね」


ムツキはそう言い残して慌ててこの場を去った。


後方で男が何か叫んでいる様だが、早足で去るムツキは、聞き取る事ができなかった。




数日後、今日はエレノアとの初めてのデートの日である。

一応大学時代にデートの経験はあるものの、こんなに歳の離れたしかも高貴なお方とのデートは初めてな為、朝からムツキは緊張していた。


昨日は、この日の為に服を新調した。

少しお高そうな服屋で、キッチリ揃えてきている。


待ち合わせに行くと、すでにエレノアはやって来ていた。

しまったと思いながらもムツキは慌てて声を掛ける。


「すみません。待たせてしまったみたいで」


「いえ、私が楽しみで早めに来ただけですから」


そう言って日傘をさしながら微笑むエレノアを見て、ムツキは立ち止まった。


日本人とは違う西洋人風の顔立ちは幼さを感じさせず、透き通った薄水色の髪は、この間の様にドリルじみた巻き方ではなく、ふんわりと巻いてポニーテールで一つにまとめている。

城で見た時と違う、ムツキとのデートに合わせたであろう町娘風の服装も城のドレスとは違ってムツキは親近感を抱き、白いレンガの道の照り返しを受けて少し眩しそうに微笑むエレノアの姿に目を奪われてしまった。


無言になってしまったムツキを不思議そうに見上げ、首を傾げる姿も愛らしかった。


「どうかなさいましたか?」


エレノアの声で、ムツキはエレノアに見惚れていた事に気づいた。


「あ、いや、なんでもないよ。えっと、今日はどうしましょうか?私はこの街に来てまだ日が浅いので、どこに行っていいのか…」


「私もあまり街を散策した事はなくて」


「そうですか。じゃあ、とりあえず歩きながら気になった所に入って見ましょうか」


「はい」


ムツキとエレノアは並んで歩き始める。

歩いている途中はエレノアがカインに戦闘の手解きを受けている話で盛り上がった。

言っても、ほとんどムツキはエレノアの愚痴を聞いていただけだったが。


カインの指導は王族だからと言って忖度はなく、とてもスパルタの様だ。

しかし、ムツキと旅に出る為にスパルタで頼むと言ったのはエレノアの様で、頑張っている様子が伝わってくる。

店に入らずとも、話しながら歩いているだけで十分楽しい時間であった。



しかし、その楽しい時間も、馬車が目の前に止まり、数日前に投げ飛ばした男が現れた事で終わりを迎えるのだった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る