第19話 真実の追求

玉座の間から別室へと案内されたムツキは、リフドンと共に席へと通された。

リフドンはこの話とは関係ないのだが、ムツキをシュナイゼル王に紹介した関係上この場にいる事となった。


王族達が一堂に集まり席につき、カイン達騎士、そして案内役だったキャニーやメイドであろう風貌の人が立っているのに、自分が座るのはいかがなものかとムツキは考えたが、シュナイゼル王に座るよう言われているのに座らないのも失礼かと思ってリフドンと共に席に座った。


その後は、もう一度王女様、エレノアが玉座で話したのと同じ話を説明した。

それに対して、あってはならない事が起こってしまう。


「そんなはずありませんわ!」


そう声を上げたのはキャニーの隣に立っていたメイドであった。


「あの時、私達のピンチを救ったのはそこの騎士様ですわ。私、見ましたもの!ロザリィ様にも何度もお話ししましたでしょう?

シュナイゼル陛下も聞いておられたはずです」


確かに、キャニーはあの時の話を騎士物語の様に話すのをシュナイゼル王も聞いていた。

しかし、それは公的な場ではなく、家族団欒の私的な場において、娘のロザリィが楽しそうに、場合によってはうっとりと話を聞いているのを見守っていただけだ。

当時は、主人であるエレノアの話を途中で奪ってしまうユーリネの事をまだであるし、元々伯爵家の娘。

そしてロザリィと仲が良く、エレノアが、仕方ないわね。と話を任せている様に見えた事から遊びに来た娘の友達といった様子で微笑ましく見ていた。

勿論、その後には王宮筆頭メイドであるキャニーにキチンとした指導を支持していたのだが、今回の様な場で、こうして王族の話に口を挟むのは見過ごせなかった。


「ユーリネ、立場をわきまえなさい!」


キャニーからのお叱りに、ユーリネは口を塞ぐも、恨めしそうにキャニーを睨んだ。

この辺りはまだ伯爵家の娘としてのプライドがじゃまをするのだろう。一層厳しい指導を指示しなければならない。


「しかし、お父様、私にはユーリネが言ってることの方が筋が通っている様に見えますわ。

近衛騎士として王族の警護にあたり、その実力もある騎士様と比べると、その、失礼ですが漆黒の君は貧弱に見えてしまって、とてもオークを倒せるとは思えませんわ」


そうロザリィがユーリネに助け舟を出した。

叙爵予定だった騎士、ウーバーンを騎士様と呼ぶ所を見ると、ユーリネの話す騎士物語を信じたい様にも思える。

それに、ムツキはステータスがねずみ算のおかげでモリモリなだけで、リモートワークのブラック企業で運動もせずに家で仕事をして来たモヤシである。

太ってこそいないが訓練で鍛えられた騎士と比べてしまうと貧相極まりないのでそう感じるのも当たり前である。

実際、だからこそリフドンは旅でムツキに戦闘をさせなかったのだ。


「それでは、ユーリネの話をもう一度聞いてみようか。

それから、エレノアの話を聞いこう。

食い違いがあれば、解決の糸口になるだろう?」


シュナイゼル王はそうロザリィを嗜めた。

エレノアもその言葉に静かに頷いた。


話す事を許されたユーリネはまるで劇の脚本を読むかの様に話し始めた。


始まりが街道でオークに出会う所から始まるので、要点の所まで少し時間がかかりそうだ。


身振り手振りを交えて、話は進んでいく。


街道をそれて逃げ出すあたりの戦闘描写はかなり細かく、臨場感のある話し方で、さすが伯爵家の娘、話が上手い。とムツキは感じた。


しかし、街道をされてしばらくすると、ふんわりとした表現が多くなり始める。


馬車が倒れた辺りからは先程の馬車を守る為に騎士が盾となって守った描写と比べると余りにもチープで、馬車を守る為に1人の騎士が、バッタバッタとオークを倒していくなど、何も考えずに話の流れで聞けばスピード感のある表現と言って良いのかもしれないが、怪しんで聞けば内容がスカスカである。


ユーリネの話が終わり、ユーリネがどうですか?と胸を張る中、シュナイゼル王はウーバーンに質問をした。


「ウーバーンよ、先程の話でオークを倒した所を詳しく話してくれるか?この話では要領を得ない」






「どうした?ウーバーン、陛下のご要望だ。話して差し上げろ」


「そ、それはですね…」


話始めないウーバーンに壮年の騎士が命令をしたが、肝心のウーバーンはしどろもどろである。


「わ、私もユーリネ殿の話を聞くうちに自分がやったものだと思い込んでおりましたが、今一度思い返してみれば当時の記憶は無く……申し訳ありません!」


頭を下げるウーバーンを見てシュナイゼル王はため息を吐いた。


「カイン、グリッド、何故今まで発覚しなかった?ウーバーンの実力を見てお前らが異論を唱えなかったのは何故だ?」


「は。私が回答を」


シュナイゼル王の質問に壮年の騎士、グリッドが答え始めた。


「私達が知るウーバーンでは確かにオークを単独で倒す事はできませんでした。エレノア様の護衛を任される騎士隊の一員ではありますが、あの街道で人型の魔物の報告例はこれまでありませんでしたのでその想定で部隊を組んでおりませんでした。

しかし、過酷な戦闘の中でスキルの覚醒を果たし、能力が大幅に上がる騎士もあります。

カインもその1人です。

ですので、実際オークの亡骸を後日回収しておりますし、ウーバーンが覚醒した物と考えておりました」


「なるほど…」


当事者達が否と唱えず、オークの亡骸という物的証拠があった為にトントン拍子に叙爵まで話が進んでしまったのだという。

叙爵式の準備の為にウーバーンは訓練に参加しておらず、能力が上がっていないという矛盾に気づけなかったと言うのもあった。


「それで、エレノアはオークを倒したのはムツキだと言うのだね?」


「ムツキ様…はい。漆黒の君が倒されました。

皆が生存を喜ぶ中、去っていく黒髪を見ました。

私は、黒髪の方を見たのは漆黒の君が初めてです。

それに、グリッドが言った事が本当ならあの街道でオークが確認されたのは今回が初めてだとか?なら、オークを倒した事は認められた漆黒の君が助けてくれたという事で間違いないでしょう」


「ふむ。と、いう事であっているかな?ムツキ」


シュナイゼル王がムツキに質問した事でこの場の視線をムツキは集めた。

王族の何名かとユーリネは今だにムツキを疑っている様な視線である。


「そうは言ってもたかだかオークです。俺じゃなくとも倒す人は居るでしょう?」


オーク。ファンタジーゲームなどでは序盤で出てくる事が多い雑魚といったイメージのあるムツキが言った言葉に隣のリフドンはギョッと目を見開いた。


「この場で悩まずとも、ムツキ殿の実力を確かめればこの話は大体解決するだろう?」


名案だと言いたげに発言したカインは模擬戦だとでも言いたげに手のひらをワキワキと動かしていた。


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