忍者・吸血鬼・テロ

 道を歩いているのは魔法少女に異世界から来た冒険者たちにドラゴンや魔物みたいな人たちもいる。


 ここは日本なのだろうか。そう考えてしまうのは見える光景があまりに異質だ。


 普段の生活では見かけない格好の人たちが街にあふれている。高層ビルが立ち並ぶ繁華街は間違いなく日本に見える。ビルの窓から見える広告も間違いなく日本語。なんなら、見慣れない人たちが話している言葉も日本語だ。


 髪の毛もバラバラなら、格好の世界観の共有すらもない。客観的に見ればそれは混沌とした空間。


 そんなことを考えていたら忍者がすれ違いながら軽く手を挙げてあいさつしてくる。慌てて手を挙げてあいさつを返すけれど、一瞬のやり取り過ぎて伝わったのかも分かりやしない。


 自分だってこの空間で混沌の一端を担っているのは分かっている。ちなみに自分の恰好は吸血鬼。家を出る前はこれでも目立ってしまうと自惚れたのだけれど、いざここに来てみれば比較的おとなしい方だ。


 街全体がコスプレ会場となったこのイベントは大いに盛り上がっている。


 アニメ、漫画のキャラクターのコスプレが多いようなのだけれど、全く知らないコスプレも多い。


 気合の入れ方も人それぞれ。手作り感が出ているものから、まったくコスプレ感がないのに画面の向こうでしか見たことがない格好をしている人もいる。寒空の下だと言うのに露出している人もいれば、全身を覆ってしまって本体が全く見えないなんて人もいる。


 でも、みんな共通しているのは楽しそうと言う事。


 このイベントを身体全体を使って楽しんでいるのだ。


 なのに、急にサイレンが鳴り始める。どこからかと探すことは誰もしなかった。なぜってもうそんなのを確認する必要もないくらい街全体に響き渡っているからだ。


 テロか、災害か、事件か、誰も把握できなかったはずだ。


 誰かが悲鳴を上げながら走り出したのがスイッチだった。それをキッカケに街全体がパニックに陥る。コスプレをした集団が混乱しながら走り回るのだ。それは本当にカオスだった。


 写真によって切り抜かれたその瞬間はあちこちに出回り、あちこちで使われた。カオスな空間をよく表しているとフリー素材としてミーム化したのだ。


 まさか、その中心に怖い顔をして逃げ惑う自分が映っているだなんて。毎日のように吸血鬼の自分の顔を見ることになるなんて想像もしてこなかった。


 たまに吸血鬼の恰好をして街をぶらぶらする。たとえコスプレしているのがひとりだったとしても、大半の人が自分の事を知っている。そのことが単純にうれしかった。


 

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