スポンジ・カップラーメン・芝生
子ども達が公園の芝生広場で走り回っているのを横目で見たりなんてしながら、寒空の下。今日は何をしよかなぁなんて物思いにふけたりしていた。
子どもたちは知らない子。視界に入ってきて気になってしまいついつい目で追ってしまうが、それが悪意的に取られたりなんてしたら通報されかねない。比較的大きな公園だから、警備員を呼ばれる可能性だってある。
それに問い詰められたら怪しいと判定されるのだ。きっと。
なにが悲しくて日曜日の朝からくたびれたスーツを身に纏い。芝生広場の横のベンチで凍えながら時間が経つのを待たなければならないのか。
寒さに耐えるためにコンビニでカップラーメンを買い。その場でお湯を入れた。なのに、ここにくるまでに随分と冷えてしまった。三分以上は経過してしまってるし、ある程度仕方がないことだが、それも悲しく思えてくる。
伸びてしまった面を啜りながら、子どもたちの騒がしさに耳を傾ける。静かだと余計なことを考えてしまうので、これくらい騒がしい方がいい。
なんだって妻が旅行に行った日に限ってカギを家に忘れてしまったのか。なぜそんな日に限って飲み会があったのか。
金曜の夜。久しぶりの忘年会ということで気合の入った人たちが多かった。それに巻き込まれたし、望んで巻き込まれていた気もする。しかし、土曜の朝に家に帰ってみると家に入れないことに気が付いた。
そういえば『あなたが飲み会なら私は旅行へ行かせてもらいます』そう強めに言われたのは金曜日の朝の事だったのをその時、思い出した。
家に帰れず、誰に頼ることも出来ず。土曜日はどうにかネットカフェで過ごしたが、それも持ち金が尽きた。便利だ便利だと言われていたキャッシュレス決済を拒み続けていた結果なのか。
もう考えたくもない。
思わず俯いてしまったところへスポンジボールが転がってきた。どうやら子どもたちが遊んでいた道具らしい。
「あっ。えっと」
別に危ない人じゃないし、いたずらもしない。普通に取りに来てくれればいいのに。もしかすると今、そんなに恐ろしい顔をしているのか。
箸をカップの中に突っ込むと、スポンジボールを手にして軽く返してあげる。
声には出さずにペコリとだけ、頭を下げて。子どもたちは戻っていってしまった。ありがとうございますも言えないのか。
いや違うな。お礼も言えないほど怖がられたのだ。それくらい異質な人に見えるのだろう。髭も伸びているだろうし、髪もぼさぼさだ。日曜日の公園にスーツなんて見たこともないだろう。
移動しよう。そう決めた時。手からカップが滑り落ちた。当然中身は飛び出す。公園の芝に染み込んでいくそれをただただ見ていることしかできなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます