第47話「茜とコーヒー」
「これでようやく落ち着いて話せるね、
「そうだねお姉ちゃん」
数か月ぶりに会うお姉ちゃんの様子はだいぶ違っていた。
前会ったときはもっと話が通じたのに。
どうしてお姉ちゃんの目にはなにも映っていないのだろう。
さっき会った時からずっと空想の中に作った理想の私と話されているような気分だった。
「じゃあ私お茶
「ねえ
どうにかして気を紛らわせないと怒りでどうにかなってしまいそうだった。
コーヒーが落ちる様子でも眺めれば少しはましになるだろう。
「あ、うん私はいいけど」
陽菜さんはちらりとお姉ちゃんの方を見たのでつられて私も見るが、小さくうなずいていた。
「私もかまわないよ。久しぶりに茜が淹れたの飲みたいし」
「ありがとう、二人はお茶とコーヒーならどっちがいい?」
「私コーヒー、ブラックで」
「あ、私も同じの」
「わかった」
電気ケトルに水を注ぎ、スイッチを押す。
なんで
さっき抱きしめてくれた時はあんなに安心できたのに。
邪魔しないでよ。
せっかくまた一緒に居られるようになったのに。
あの人といい、お姉ちゃんといい私になんの恨みがあるの。
達也と過ごしたいって願うのはそんなに
ふつふつと怒りの炎を燃やしていると、それを消すかのようにカチリとケトルが止まる音がした。
注ぎ口からはうっすらと湯気が漏れている。
「コーヒーどこだっけ?」
カップなどにお湯を入れた後、普段ティーバッグなどを置いている場所を探すが見つからない。
色々どかしても余計なものが出てくるだけで目当ての物は一向に出てこなかった。
見つけようと
「あれ、私何探してたんだっけ?」
目的も失い無秩序になった棚を
振り返ると、張り付けたような笑顔の陽菜さんがいた。
「コーヒー見つからない?」
「どこでしたっけ?」
「こっちだよ」
陽菜さんはカオスになっていた棚の中の法則性を把握でもしているかのように、一瞬で整理すると立ち尽くしかない私を手招きした。
「ほらこれでしょ」
冷蔵庫の中からひんやりとしたタッパーを渡してきた。
体温と一緒に余計な考えも少しだけ吸い取られる気がする。
「ありがとうございます。すぐ淹れちゃいますね」
カップの中に入っていたお湯をシンクにこぼすと、コーヒーの粉でフィルターを満たした。
そーっと粉にお湯を流すと、どす黒い液体が湧き上がってくる。
私はどうしたらいいんだろうか。
達也と一緒に居られるなら、お姉ちゃんなんかいらない。
コーヒードリッパーの液面が高くなるにつれ、あの姉だった人が私を壊し人形のように扱う、わがままな王女のように思えてきた。
がそんな思いも長くは続かず、全て落ちきりサーバーを満たすころには自分で否定していた。
お姉ちゃんが大学生だった頃ずっと付き合ってた彼氏に捨てるように振られたのは知ってる。
翌日に元カレと友達が一緒に夜の街に消えて行ったのを見たということも。
そして、そのせいで私を男から遠ざけ
決して私の邪魔をして人生を壊したいと思っているわけではないこともわかっていた。
それでもお姉ちゃんの行動は受け入れられない。
達也はお姉ちゃんの元カレではないし、私もお姉ちゃんじゃない。
「淹れられた?」
「あ、はい」
「じゃあ持って行っちゃうね」
いつからそこにいたのか、陽菜さんはひょっこりと
「じゃあ話そうか、茜ちゃんを連れて帰るのかここに居させるのか」
私が座るなりそう切り出した。
相変わらずお姉ちゃんは不気味な笑みを浮かべている。
ごめんねお姉ちゃん、私お姉ちゃんと一緒に帰る気はないから。
まだ熱を持ったコーヒーを口に含むと、少しだけ怒りを
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