第27話 彪鐡
「今年のず組は一味違うかもしれんな…」
右頬に僅かな切り傷を負ったケンゴロウは、一年ず組の教室を後にしながら呟いた。
「元より目を点けていた経津主虎千代。悪鬼の評判通りの
瀕死の重傷を負った進雄と、そんな彼を必死に処置する無傷の虎千代。
末恐ろしさを感じながらも、ケンゴロウは期待を抱いて自分の教室へと戻って行った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
「だ、誰か!!病院に!!」
深く斬りつけられ、朦朧とした意識の進雄を介抱しながら、虎千代はパニック状態で叫んだ。
「今年は死者が出なかったか…随分と生温いじゃないか。」
そんな虎千代の背後から聞こえた声。
「爺ちゃん!!早く病院…救急車を!!」
声の主に向かって虎千代は振り向いてそう叫んだが、そんな叫びに対して返ってきたのは顔面への強烈な蹴りだった。
「貴様は孫でもなければ経津主でもない。寅華の子でなければ、とっくに殺しているというのに…」
心底残念そうにそう言って、虎千代の頭を踏みつける。
「安心しろ。この経津主学園で血の流れぬ日は存在しない。それ故、腕の良い医者を何人も雇っている。あの小僧は死なんだろう。」
虎千代の頭の上に置かれた足をぐりぐりと動かしながら、
「まあ、仮に死のうと、私は一向に構わないが。毎年、『新入生歓迎会』では数人死人が出るからな。雑魚が何人死のうと、我ら経津主にとって取るに足らぬことだ。」
そう言って虎千代を再び蹴り飛ばす。
「っ!!ぐぅ…」
母程の威力はないが、妹よりも遥かに強い蹴りが腹部に突き刺さり、血を吐く虎千代。
「そういうところが嫌いなんだ!!経津主がw僕を嫌いなのと同じで、僕だって経津主が大っ嫌いだ!!」
力の絶対主義。あまりにも残酷で残虐な一族の在り方を虎千代は理解出来なかったし、したくなかった。
「頑丈さだけは一丁前だな。」
ズタボロになり気絶した虎千代を見下ろして彪鐵はそう呟く。
「寅華が貴様を…貴様とあの男を愛していなければ、直ぐにでも殺してやりたい。」
虎千代と、ここにはいない潤三に殺意を込めて言う彪鐵。
最愛の娘を奪った
殺してしまいたい衝動と、寅華に嫌われたくないという理性の葛藤で動きが止まった彪鐵の耳に、コール音が入ってきた。
自分の物ではない…
虎千代のポケットから端末を取り出し、コール主の名を見た。
「ああ、今日は実にツイている。」
可愛い孫娘の名を見て、彪鐵はニヤリと笑った。
−−−−−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−−−−−
−−−−−−−−−
「この雑魚兄ぃ!!」
端末から発信したコール、受信が確認されたと同時にそう怒鳴った虎春。
しかし、兄である虎千代へとコールしたと思っていた虎春は、返ってきた音声は違う人物のものであった。
「虎春ちゃん、おじいちゃまでちゅよー。」
祖父、彪鐵のだらしなくニヤけた声。
直ぐ様通信を切る虎春。
「発信先を間違えたみたいね…」
大きく深呼吸して再度兄の端末へと発信する虎春。
「虎春ちゃん?」
聞こえてくるのは祖父の声。
聞こえない様に溜息を漏らし、虎春は祖父と向き合う。
「爺様…お兄ちゃんをどうしたの?」
そう可愛らしく問いながらも、怒りを滲ませながら。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます