第23話 新入生歓迎会
「皆知っての通り、『新入生歓迎会』が既に始まっている。」
クラス担任玄武剛健が、朝のホームルームでそう告げる。
「「「いや、なんのことだよ!?」」」
当たり前の様に言われたが、そんなことは知らない、一年ず組の落ちこぼれたちが一斉に叫ぶ。
そんなクラスメイトの叫びで、漸く虎千代の意識が現実へと戻って来る。
なんのことだろう?
最早、何について揉めているのかさえ分からない虎千代は、今、クラスで何について揉めているのか気になり、我が家に関する悩みが少し和らいだ。
「ああ、正規の入学をしていないお前らは知らんのか…我らが経津主学園には、毎年開催される行事がある。昨今聞くことの減った入学式や卒業式を筆頭に、体育祭に文化祭、嘗て行われていた行事が行われているが、入学式の後といえば、『新入生歓迎会』と決まっている。」
心臓に響く様な低音ボイスで言う剛健。
「だから、その『新入生歓迎会』が何なのか聞いてんだよ!!」
一際大きなモヒカンの少年が怒鳴る。
「物分かりの悪い、生意気な新入生共に上下関係を叩き込む、お前らの様な阿呆共にも分かりやすい、上下関係を叩き込む行事だ。」
そうにこやかに言いながら、剛健は怒鳴ったモヒカンの方ヘ歩く。
「こんな風にな。」
最大の警戒心でいたにも関わらず、反抗する隙さえ与えず絞め落とされたモヒカン。
「己の弱さを知り、貴様らに足りぬ謙虚さを学ぶ機会だ!!貴重な時間を削って貴様らを指導する上級生に感謝しながら、一週間過ごす。それが『新入生歓迎会』だ!!」
そう告げる剛健だが…要するに、上級生から理不尽にボコられるだけの一週間を過ごせということだ。
「酷い行事だ…」
こんな悪魔の様な行事が現代社会、普通あれば許可されることはない。
しかし、現在悩みの種である母、寅華が理事長を務め、その母の父、虎千代にとっては祖父に当たる経津主
既に、その洗礼をこれでもかと受けた後だと、虎千代は知らない。
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「…あれ?新入生全員が対象ってことは、他のクラスもだよね…」
虎千代は朝の
母の手加減したデコピン、その数万分の一程度のダメージを常時受けながら、虎千代は一年生の教室を駆け回る。
「逃げたぞ、追え!!」
「いや、そいつにかまける暇があったら、他を狙え!!そいつは人間じゃねぇっ!!」
追いかける上級生の数は徐々に減っていた。
如何なる攻撃を受けようと、無傷な虎千代に、百戦錬磨の上級生たちも、違和感を感じて、対象を変え始めていた。
そんな状況の中、虎千代は一つの思いに駆られていた。
「フランセットさん…大丈夫かな?」
(虎千代が勝手に思い込んでいるだけだが、)初めて出来た友達を守るべく、彼は走り回っていた。
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「生意気な天才留学生も、形無しね。」
上級生に囲まれ、為す術もなく膝を折るフランセット。
「一対一で戦えない貴女方に言われても、説得力がありませんね…」
荒く息を吐きながらも、その目は折れていない。
フランセットの言葉に、上級生たちの血の気が上るのが分かった。
「ご存知かしら、生意気な留学生ちゃん?この経津主学園では、試合や指導の最中に死んでも、自己責任なのよ!!」
フランセットの首元を狙った突きが繰り出された。
「ッ!!」
辛うじてその突きを自身の細剣で弾くフランセット。
「そう、これは指導なのよ…」
ジリジリと囲む上級生たちから距離を詰められる。
「指導ですか?私には、醜い嫉妬にしか思えませんが?」
冷や汗を流しながらも、皮肉な笑みを浮かべるフランセット。
命の危機を感じながらも、『負けたくない』、その一心で挑発していた。
「もうやめませんか?」
ハァーッ!ハァーッ!と息を切らしながら言う声。
「大切な人なんです。僕が相手になりますから、もうやめてくれませんか?」
懇願する少年の声。彼の襟で輝くのは、一年生の襟章。
「色ボケした生意気一年に指導してやんよ!!」
突剣が少年の喉元に繰り出された。
「…虎千代?」
宙を舞う折れた剣先を見つめながら、フランセットは自分を救いに来た少年の名を呟いた。
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現代社会において、強い、ということは一種のステータスである。
金か権力か腕っ節か、これが強さの基準となっているからだ。
しかし、強過ぎるというのは脅威となり、排除したくなるのが人の
歴史が証明している様に、圧倒的強者が時代を動かすのと同じく、圧倒的強者を排除しようと動くのが人の本質。
仮に、それが時代を動かす気も、その素振りも無い、アホの子(大人)であっても、自浄作用の様に、排除に動く者たちがいるのが世の常である。
経津主
国と個人が同盟するという非常識なことが発生する程度に規格外な彼女は、常に命を狙われていた。
そんな彼女が、未だ嘗てない程弱った様子で家を出て、格好の狩り場ともいえるスラムに一人やって来た。暗殺側としてはまたとない機会が訪れていた。
「お久しぶりです、ご当主。」
にこやかな笑みで彼女に近づく男。
定期的に、武装勢力を処理する仕事を寅華が出す依頼主の男だ。
「仕事か?仕事なら巳香を通せ。」
対する寅華は素っ気なくそう返し、警戒した様子もなく男の横を通り抜け様とした。
「ご当主…」
そう呟く男の声は、勝機を確信していた。
しかし、通り抜け様と歩みを進め、男の真横に来た寅華は、血に飢えた獣を思わせる声で言った。
「それとも、漸く尻尾を出したか?」
その言葉を聞いた瞬間、一瞬で血の気が引いていくのが分かった。
それと同時に、寅華に襲い掛かる弾丸や剣閃。
その全てを閃光の如き蹴りの一発で薙ぎ払う。
「今宵は少々暴れたいと思っていたので好都合だ。」
寅華の笑みに、男は、寅に首元を噛みつかれた野兎の様に、ただ己の終わりを受け入れるしか出来なかった。
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