Grandia Days ~悪党の街グランディア~ Season2

ヤマタケ

第6章 看護師マコモ

第1話 藪医者とその助手

 藪医者ハザマの診療所は、グランディアの街の入り口すぐ近くにある。クエストから帰ってきた冒険者たちを、すぐに担ぎ込めるようにだ。

 

 藪医者、藪医者という割に、診療所にはなんだかんだで多くの人が訪れる。この街唯一なのだから、仕方がないのだ。


 すっかり言われ慣れてしまった藪医者ハザマの心は、そんなことではもはや揺るがない。目の前の冒険者の足に、せっせと包帯を巻いていた。


「……ほい、後は安静にしときゃ治るわい」

「ええ、こんなに痛いのに!?」

「アホか、ただの捻挫じゃ。こんなもん、薬も治癒魔法もいらんわ」


 ほんじゃお大事に、と言って、目の前の患者を追い返す。患者の方も患者の方で、「ったく、藪医者がよ……」とぼやいていた。


 どいつもこいつも、医者のいうことを全く聞かない。だから治らないのだ。さっきの男も冒険者だが、きっと安静になどせず、またどっかクエストやらに行くだろう。そうなれば治るものも治らない。それを医者のせいにするのだから、このグランディアという街の人間はは本当にろくでもない。


 だが、だからと言ってケガや病で死んでいいかと言われると、そんなことはない。悪態をつこうが何をしようが、それらはすべて健康あってこそ、というのがハザマの考えだ。


「先生、そろそろお昼休憩入りましょうか」

「ん、そうだな」


 一息つくハザマに、声をかける女性がいた。

彼女はハザマと同じく白衣をまとい、髪をお団子状にひとまとめにしている。そして、何より服の下からも強調してくる、大きなおっぱいが特徴的な女性だ。


 彼女の名前はマコモ=リン。診療所で看護師として藪医者の助手として勤めている。ハザマは彼女が子供のころから知っているので、血はつながっていないが娘のような関係だ。

 まあ、グランディアという街に住んでいる時点で、やんちゃ娘だったのは想像に難くない。


「えー、マコモちゃんの診察受けれねえの!?」

「マジかよ、あれがあるから俺たちゃ来てんだぜ!!?」

「ジジイなんざ知らねえ、マコモちゃんを出せ!」


「休憩中」の立て札に、診療所に来ていた野郎どもは一斉に文句を言い出した。こいつらの目線は、いつもマコモの顔のちょっと下に行く。まあ、そういうことだ。


「心配しなくても、ご飯食べたら診てあげるから。待っててちょうだいな」

「ええ~~~~……」


 この診療所、スタッフがハザマとマコモの2人しかいない。2人で回すのは正直きついので、よっぽど緊急でない場合は、診療所自体が昼には一旦閉まるのだ。


 そしてそれは患者たちがごねたところで変わらないので、スケベどもも「ちぇ~」と言って去っていく。下手に逆らったら、今のケガより酷い目に遭う事を、彼らも知っているのだ。


 患者を追い出し、お昼の食事を2人して取る。さすが医者というか、魚と野菜のバランスの取れた、薄味の食事だった。


「ったく、どいつもこいつも……」

「ホントにですよね」


 マコモとて、仕事とは言え、下卑たる視線にさらされることに思わないこともない。


「どうせなら、真面目に付き合おうという奴はおらんのかの? 付き合えば、この乳を好き放題できるというのになぁ」

「ちょっと、先生!」


 マコモが声を荒げると、ハザマはふん、と鼻を鳴らした。彼女の胸は、椅子に座っているとテーブルに触れるか触れないかのサイズである。


「冗談じゃ。にしても、ホントでっかいのう、お前さんの乳は」

「……別に、好きでおっきくなったわけじゃないですし。邪魔だし」

「ま、乳牛娘ミルタウロスには負けるがの~。気にすることもなかろ」

「一緒にしないでくださいよ。私、ナチュラルボーン・人間なんですから」


 軽口をたたき合いながら、2人はパクパクと食事を済ませていく。医者という、時間に追われる仕事であるからか、食事の手は早い。


 あっという間に食べ終わると、てきぱきと後半の診察の準備を始める。それと同時、事務作業なども並行だ。


「……あ」


 患者ごとのカルテを整理していたマコモが、ふと声を洩らした。


「ん? どした?」

「先生、そういえば、アレ。そろそろですね」

「ん。……ああ、アレか」


 マコモの持っていたカルテを手に取る。其れを見て、何の事を言っているのか、彼はすぐに察した。


「――――――そうだなあ、アイツ、ごねるからなあ」

「ともかく、あるって連絡しないと。私言ってきましょうか?」

「……いや、その必要ないわ」


 後半の診察予定表を見て、ハザマはそう言い切った。


 何せ、性病の診察に来る患者は、そいつと仲良しなのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る