Case.9 笛吹き男

 幼い頃、近所にいつも遊んでくれるお兄ちゃんがいた。お兄ちゃんはとても優しくて、どんな時でも自分を気遣ってくれた。自分には兄弟がいないから、本当のお兄ちゃんがいたらきっとこんなに素敵な人なんだろうな、と考えていた。

 けれどある日、お兄ちゃんは自分の前から忽然と姿を消してしまった。どうして。どこへ行ってしまったの。周りの大人達に尋ねても、そんな奴はいない、知らないとしらを切るばかり。

 お兄ちゃんと一緒に過ごした日々は夢だったのだろうか。幼かった自分は混乱した。大人達の言う通り、本当はいもしない誰か――イマジナリーフレンドを作り上げていたのではないか。そんな錯覚に陥った。

 月日が経ち、大きくなった今。今なお、自分はあの日のお兄ちゃんの面影を夢に見る。

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