或る女・4
鏡よ鏡、鏡さん。世界で一番美しいのは誰ぁれ?
それは――
『女子高生が狙われた連続失血死事件に関する速報です。一連の事件に関して、動画投稿サイトで美容家として活動する加賀美瑛里さん、54歳を容疑者として立件した、と警察から発表がありました。駆けつけた警察官によると加賀美容疑者は既に死亡しており、事件は被疑者死亡のまま検察に書類送検される模様です』
「……あは」
偶然耳に入ったニュースに、女は赤い唇を三日月形に吊り上げ、笑った。
女はチャンネル登録者数100万人超えの美容動画配信者。彼女にとって、同じカテゴリで覇を競う加賀美瑛里の存在は邪魔で仕方なかった。そのためファンを買収し、匿名であることないことを吹聴させ、徹底的に彼女を貶めていたのだが。
ラッキーだ。まさか、あの女が殺人事件を起こしていただなんて! これで加賀美瑛里のチャンネルは永久凍結され、女のチャンネルが美容カテゴリ一位に輝くのは必然。
何という運の巡り合わせだろう! 女は天に感謝した。きっと、私の日頃の行いが良いから神様が手を差し伸べてくれたんだ、そうに違いない。
「だいたいさー、いい齢したオバさんがチヤホヤされて勘違いして恥ずかしくなかったのかな? 若造りアピールが必死すぎてイタいっていうか。本物の若さに勝てるワケないのにねー」
古いものは淘汰され、新しいものと世代交代するのが自然の摂理。何者も、そのルールから外れてはならない。加賀美瑛里はそこから逸脱しようとしたから、罰を受けたのだ。
ああ、なんだかとても良い気分。女は張り切って新しい動画の収録を始めた。
「こんにちは! しらゆきチャンネル、始っじまるよ〜!」
女の名は
けれど、今の雪代はまだ知らない。若さは永遠ではない。自分もいつか衰え枯れてしまうことを。加賀美瑛里と同じ末路を辿るかもしれない危険性を。
美を巡る女の妄執は、終わらない。
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