暗転.She know...

「どういうつもりだよ、篠」

〈特殊怪奇捜査班〉が陣取る倉庫オフィスにて。霞の抗議に、霧雨篠は小首を傾げた。

「どういうこと、とは?」

「何であんな役立たずを引き抜くようなマネをするんだよ。猫の手よりも使えないね」

「ああ、御子柴クンのことかい? 何度も言ってる通り、ウチは万年人手不足でね。猫の手でも借りたいところなのさ。それに彼、素直でかわいいじゃないか。みたいで」

「アンタが雫のことを語るな」

 霞の敵意の込められた視線をサラリと受け流し、霧雨篠は指さした。

「ほらほら、言ってる側から本人のお出ましだ。仲間なんだから、丁重に迎えてあげなさい」

 霞は聞こえる大きさで舌打ちし、フードを目深に被り直した。丁度その時、倉庫の戸が勢いよく開いた。

「おはようございます! 本日付けで特殊怪奇捜査班に配属になりました、御子柴悟です。改めて、よろしくお願いします」

 新品のスーツに身を包んだ正直青年がハキハキと敬礼する。表情には固さと投げやりさが見て取れる。

「やぁ、御子柴クン。待ってたよ」

「俺は待ってないけど」

「え!」

 騒がしい、どこか浮世離れした日々が始まろうとしていた。


 × × ×


『事件解決ご苦労であった、霧雨』

「手柄は全て安倍家当主、霖雨リンウ様のものにございます」

『重畳、重畳』

 霧雨篠は薄暗い倉庫の中、密談を行っていた。

 安倍あべ霖雨。現代を生きる陰陽師達の総本山、安倍家の現当主。警察に根を張る霧雨篠の、真の雇い主。

「私は全ての安倍を愛する者――」霧雨篠は詠うように呟く。「貴方も、貴方の御子息方も例外ではございませぬ。故に我が身命を賭してでも、必ずや貴方方に福を授けましょう。それが私の役目ですから」

『期待しておるぞ、狐』

「はっ」

 電話の前で恭しく頭を垂れる。電話が切れたのを確認すると、霧雨篠はディスプレイを眺めながら呟いた。

「――貴方は雫しかお認めになられないでしょうが、霞もまた、愛しい安倍の嫡子。私は等しく愛しましょう。ですが――ふふ」

 霧雨篠は紅唇をつり上げ、独り妖しく笑った。

「愛しさと憎しみは紙一重だと、くれぐれもお忘れなきように。飼い犬ならぬ狐に手を噛まれないように、ね……?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る