魔法使いのリフレイン
浅倉 茉白
第1話 あたしってやるじゃん!
「あたし、もう、安らかに、眠るように……」
小屋のような小さな家の中。ヨタつく杖と震える指で、描いた魔法陣の中。少女は横になり膝を抱え。まるで安らかに眠るように……眠った。
「うわぁ、全回復してる!」
朝になり、少女は魔法陣から飛び起きる。地面へ直に置いてあった手鏡で長くも短くもない髪の毛を整える。少し土ぼこりがする。
「もう、なんで!」
起きてしまったことがそんなに不本意だったのだろうか。そのわりには急ぎ足で外へ出る。
◯
「こらっ! また遅刻かい! と言いたいところだけど」
白い服を土で汚したふくよかなおばさんが、少女をいきなり怒鳴りつけるかと思いきや、急に冷静な口調に。その理由はというと。
「今日行くはずの洞窟に竜が棲みついてるみたいでね。あんた、魔法使いだろ。どうにかしておくれよ」
「えぇ、あたしがぁ!? いや、はい。やります」
少女は心底嫌そうな大声を出した直後、急に脅されたわけでもなく、やる気を見せた。そして
「これで負けたら安らかに……くふふ」
少女は相当まいっている。狭い入口を抜け、竜が眠る間に着き、叫ぶ。
「おい、竜! ここはあたしたちの採掘場だ。出て行け!」
威勢よく少女が叫ぶと、竜はうつ伏せで寝た姿勢のまま目を開き、少女を見つめる。洞窟の中に入るくらいだ、そんなに大きくない。と思いきや、体を起こすとやはり洞窟内が窮屈に見えるほど、それなりにデカい。
「こわくない、こわくない……やっぱり怖い! でも!」
杖を高く構え、そして地面に突き刺す。少女は何も唱えない。ただ竜の吐いた炎が茶色い洞窟内を赤く照らす。
そして少女は死んだ。はずだった。
◯
「うーん。あれっ、全回復してる!」
少女は再び自宅の魔法陣の中、目を覚ました。
「これもしかして、
しかし少女は気づく。魔法陣は正確に描いたからと言って誰しも使えるわけではない。その者の想いや願い、心が影響するのだと。そう、確か本に書いてあった!
「あたしって、もしかして凄いんじゃ!」
また外に飛び出し、さっきのおばさんに会いに行く。
◯
「こらっ! また遅刻かい! と言いたいところだけど」
「わかってる、竜退治ね!」
「えぇ、あんた知ってんの。なら早いとこ倒してごらんよ!」
本当はきっと、あのまま竜に倒されるだけの人生だった。それが何度も倒されては復活する度に、相手の攻撃パターンがわかるようになった。竜は攻撃を少女に避けられるたび、ハッと不思議そうな目をする。そして少女の何度もチビチビと当て続けた雷魔法が効いて、竜はその場に倒れ込み、まぶたを重く閉じた。
「やったぁ! あたしってやるじゃん!」
少女は早速、おばさんに竜を倒したことを報告すると、おばさんは「デタラメ言うんじゃない」と怒り、帰ってしまった。
少女も仕方なく帰ることにし、夜はまた同じ魔法陣の中で眠った。この日のことは新しく記録され、次の日が訪れる。
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