催眠術にかかったふりをするのも楽じゃない

ねこやま いぬお

第一章 幽霊

第1話 姫様

キーンコンカーンコン


終業のチャイムと共にクラスメイト達がいそいそと動き出す。


 「夏樹! 今日こそ遊びに行こうよ」


 「悪い! 今日も部活なんだ」 


 「また姫様のところ? ちぇっ今度埋め合わせしてよねー」


 「おう! じゃぁな!」


 友達グループには悪いが俺には行かねばならないところがある。


 二年生唯一のオカルト同好会員で会長である俺には生きがいができた。


 何を隠そう、入学してから告白されたのは2桁へ達しているだろうあの姫様こと、麗華ちゃんがなぜか入部してくれたのだ。


 ちなみに麗華ちゃんは、誰に対しても塩対応でいたせいか姫様と裏では呼ばれている。


 「早く麗華ちゃんに会いたいなぁ」


 部室棟へと向かう足取りは軽くなる。


 6月だというのにもうセミたちは鳴き出している。しかし、ここで急に不安になってくる。


 急いで部室棟に来たから、俺今汗臭くないかな。


 少し確認してみるがどうにも自分ではわからないので、念のため制汗剤を使用する。

 

 部室の前に着いたので、ゆっくりとドアノブをひねると隙間から声が聞こえてきた。


 麗華ちゃんは何をブツブツ言っているのだろう。


 ドアの隙間から見えてきたのは、椅子に行儀よく座って、何やら本を見たりしながら、5円玉を紐にぶら下げている麗華ちゃんだった。

 

 ふ、古いタイプの催眠術の練習してる!? 尊すぎるよ、麗華ちゃん!!

 

 整った顔立ちに透き通るような白い肌に黒髪ロングと百点満点美少女である麗華ちゃんがステレオタイプの催眠術を練習しているギャップに悶える。

 

 俺は我慢できずに扉を開けてしまう。


 「ひゃ!!」


 「麗華ちゃん!! 可愛いすぎるよ!! 大好きだ!!!」


 急いで本を隠そうとするがもう遅い。


 「もう、なになに? 催眠術とかギャップ死しちゃうんですけど」


 自分でも頭の隅ではわかってるんだけど、男ってのは馬鹿だから、つい調子に乗ってからかってしまう。


 「くっ、そのまま死んでください」

 

 でも、この表情を独り占め……たまらないっ!!


 「ニヤニヤしないでください、気持ち悪い」


 本当に嫌がってないか心配だったが、平常運転で安心した。みんなはこういうツンケンする言動が絡みにくいようだ。こんなに可愛いのに。


 「そういえば急に催眠術の練習なんてどうしたの?」


 「ふぅ……私、テレビの催眠術が信じられないんです。」


 「わかる! わかる!!」

 

 「そこで、オカルト同好会の活動として良いテーマになるのではないかと考えたのです。」


 「なるほど! 面白そうだ!!」


 確かにコレは良いテーマだし、俺も凄く気になる!


 「よしっやってみよう!」


 「万が一、夏樹先輩にかけられたら何されるかわからないので私がかけますね」


 「否定はできん! 猫耳つけて猫の真似とかさせそうな自分がいる!」


 「ほ、ほらやっぱり! そんなこと考えるなんて本当に気持ち悪いです」


 なんかやけに慌てて反応してるけど、どうしたんだろ?まぁ冗談はさておき、さっそく準備に取り掛かるか。


 麗華ちゃんが持ってきた本を参考に、集中できる環境づくりのために部屋を暗くする。

 

 蝋燭は準備できなかったから、携帯のライトをペットボトルに当ててランタンがわりにしてみた。


 「よしっこれで良いだろう。なんか少し雰囲気出てきたな」


 「じゃぁ早速始めましょう」


 「おう!」


 机を挟んで対面に座って向かい合う。あぁやっぱり可愛いなぁ。


 「くっ、そんなジロジロ見ないで下さい! 気持ち悪いですよ!」


 「しょうがないじゃんか、さ、早く早く!」


 「全くもう……じゃあいきますよ」


 5円玉をカバンから取り出して、目の前でプラプラと揺らされる。


 「あ、あなたはだんだん眠なーる」


 じゅ、呪文もベタベタだ!!こ、これはもうわかる!絶対にかからないよ!!


 さっきからずっとプラプラさせているが、頑張りすぎて寄り目になってきている。


 恥ずかしいのか心なしか涙ぐんでプルプルしてきている。


 仕方ない、オカルト同好会としては真実を暴くべきなのだろうけど、麗華ちゃん可愛そうだからかかったフリでもしてあげるか。


 「ウッナンダカフラフラシテキタゾー」


 少し半目でウトウトしてきた演技をする。これで騙せるか不安だがどうだ?


 半目で様子を確認するとめちゃくちゃ嬉しそうにガッツポーズを決めているのが見えた。


 な、なんか予想以上に喜んでもらえたから逆に罪悪感が。


 「な、夏樹先輩、あなたはカエルです。カエルの真似をしてください」


 ゲコゲコ言いながら床をピョンピョン飛び回る。


 け、結構きついぞコレ。身体がもつかな。


 「す、すごい! で、でももうちょっと」


 再び麗華ちゃんが命令をしてくる。


 「あなたは、にわとりです。卵を産まなくてはなりません」


 な!?難しすぎるぞ!?これは演技をするために漏らすのか!?漏らすべきか!?


 コケコケしながら苦悩の表情を浮かべているとどうやら合格だったようだ。満面の笑みを浮かべながら麗華ちゃんがぴょんぴょんと跳ねている。


 「や、やったー!! 成功だ!」


 とっても楽しい時間だけど体力使うからそろそろ……


 すると、麗華ちゃんはカバンの中から何かを取り出す。


 ん?ボイスレコーダー?


 「つ、次の命令は私の言った通りに話してください!」


 な、なんだろう!?借金とかさせられるのかな!?そんなに俺嫌われてた!?


 「わ、私のこと呼び捨てにしてあ、あ、あ、あ、あ、愛してるって言ってください!!」






✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

次回の更新は9月20日です。


ありがとうございました。

皆様のコメントや反応がモチベーションにつながります。是非ともよろしくお願いします。


いぬお

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