第8駅 穀物入手! ~セントラル駅・グレインハイランド間~

「――というわけで、僕はこの世界に来て、トムと出会ってスキルを貰ったんだ」


「う~ん……一回死んでこの世界に来たとかよくわからなかったけど……トシノリの親がひどいヤツだって事はわかったのだ!」


 列車で移動している最中、僕はエディと色々話をして過ごした。今は僕がこの世界に転移してきたことを話している。

 ただ、エディが話を理解しているか不明なんだけど……。可能性としては低いかも知れない。


「ところでエディ。覚えている事だけでいいんだけど、スキルを手に入れる前の事で覚えていることない? 街とか、国とか、お金についてとか……」


 実は、これが今一番知りたい情報だった。

 おそらくだけど、いつか人間社会と交わる必要が出てくると思う。そういう時にこの世界の人間社会がどうなのか知っているのと知らないのとでは大きな差が出ると思う。

 トムは多少であれば人間社会について知っているようだけど、圧倒的に情報量が少なすぎる。トムは南部大陸から出たことが無いし、人間社会についても極まれに北部大陸からやって来る精霊から聞いた話で知っているだけらしい。


 だから、人間社会で生活したことがあるエディならもっと知っているだろうと思ったんだけど……。


「……すまないのだ。国どころか、街の事もよくわからないのだ。お金は、周りの大人がやりとりしていたのを覚えているけど……やっぱりよく知らないのだ」


「……そうだったんだね。無理言ってごめん」


 やっぱり、五歳で南部大陸にやって来たから、あんまり人間社会の知識が無いみたい。

 もっと違う方法で情報を集めるしかないかなぁ……。




 何時間か走っていると、急に勾配が付いてきた気がした。


「なんか、坂を登っているような……」


「この辺、高地になっているのだ。割と涼しい所なのだー!」


「へぇ。エディも来たことがあるの?」


「ひどい暑さになったときとか、食料を求めてなー。ここの植物目当てに獲物が集まっているし、エディだけなら植物その物を食べられるのだー」


 ああ、そっか。穀物が群生している場所だから、それを狙う動物も集まるし、さらにその動物を狙う捕食者も集まってくるんだ。

 ……そういえば、僕を襲ったミグラトリ・アナコンダ。あれが現れたのはフルーツタウン近郊だから、もしかしたらフルーツを食べる動物を狙って移動してきたのかもしれないね。


 それから数十分で聖樹の領域に入り、さらに数十分移動することで聖樹の麓に到着した。

 僕はすぐに駅を建て、名前を付ける。


「よし。この駅の名前は『グレインハイランド』に決定!」


 『グレイン』は穀物、『ハイランド』は高地の意味。そのまんまだね。

 僕とエディはホームに降りると、そのまま駅を出る。


「じゃあ、聖樹の領域を探索しよう。主に穀物の調査ね」


「エディも手伝うのだー!」


 歩ける範囲で探してみたところ、トウモロコシとジャガイモ、それとサツマイモが見つかった。

 で、ジャガイモを見たエディが一言。


「えー。トシノリ、その芋を食べるのかー? やめといた方がいいのだ。食べると気分が悪くなって、吐き気がしたのだ」


「あ、もしかして芽とか緑に変色したやつを食べた? それは『ソラニン』っていう毒が出来ているから当たり前だよ」


「毒だったのだ!? なおさら食べちゃダメなのだー!!」


「大丈夫だよ。芽が出たとしても芋全体に毒が回るわけじゃないから。芽とか変色した部分を切り取れば問題ないよ」


 しかし、この二種類が見つかって良かった。トウモロコシは加熱して食べるのはもとより、石灰が見つかればトルティーヤを作れて、パンの代わりにできる。石灰は石灰石の他に貝殻からも作れるから、海に出ることが出来れば必ず見つかる。


 ジャガイモは加工次第で様々な料理に使えるし、何より生産性が抜群なのがいい。

 連作障害に気をつけないといけないけど、種芋で増えるから割と増やしやすい利点がある。

 将来本格的に開拓を行おうとした場合、非常に重要な食料になる事は簡単に想像できた。


「今日はこれくらいにして、駅に帰ってご飯にしようか」


「やったー! 楽しみなのだー!!」


 今晩の献立は、ゆでたジャガイモとトウモロコシにフルーツ盛り合わせ。それとふかしたサツマイモ。

 まぁ、駅には調理用具だけで調味料なんてないから、こういうシンプルすぎる料理しか出来ないんだけど。


 味は、味気ない……と言うわけではない。意外なことにある程度素材の味がしっかりしていた。サツマイモはそれなりに甘いけどね。

 そういえば、フルーツもそうなんだけど、この世界で採れた作物はそれなりに味があるし、そこそこ大きい。まるである程度品種改良されたみたいに。


「気付かれましたか。実は北部大陸からやって来た精霊に聞いたことがあるのですが、やはり南部大陸の作物は北部大陸に比べて品質がいいそうです」


「またいきなり現れたね、トム。それより、作物の品質がいいってどういうこと?」


「そもそも、この世界の作物はレイライン上で育ちやすい傾向があります。なので北部大陸の人間の街はレイライン上にある場合が多いです。まずはそのことを頭に入れて下さい」


「うん。それで?」


「実は南部大陸のレイラインは、北部大陸のレイラインよりも浅い位置にあります。それでも人間の技術力がどんなに上がっても到達できない位置にありますけど。その関係で南部大陸のみに聖樹が存在するのです」


 あ、なんとなくわかっちゃったかも。


「つまり、レイラインが浅いことと聖樹の存在が影響して作物の育ちに影響しているって事?」


「その通りです」


 レイラインが浅いから北部大陸よりも作物が影響を受けやすい。加えて、聖樹はレイラインから魔力を吸い上げて領域を形成している。と言うことは、聖樹から放出されているエネルギーの影響も作物は受けている。

 この二点が影響して、よりおいしい、より大きい作物が出来るって事なんだね。


「トシノリ-。エディが今まで食べていたトウモロコシよりもおいしいのだ。それに、ジャガイモも食べやすいのだ」


「そう? ただ茹でただけだけど……。もしかして、火を通して食べたことが無い?」


「そういえばそうなのだ。火なんて魔法を使える魔物の攻撃手段って感覚だったし、火を道具にするなんて初めて見たのはトシノリなのだ」


 エディは五歳までしか人間社会で暮らしてこなかったし、南部大陸に来てからはトラの聖獣に育てられた。

 だから、料理する所を見たことがなかったんだろう。火を通して食べることを知らなかったのかな?


「もっと他に色々手に入れば、もっとおいしい料理が出来ると思うんだけど……」


「本当か!? 楽しみなのだー!!」


 それからさらに数日かけてグレインハイランドの領域内を調査したんだけど、トウモロコシとジャガイモ、サツマイモの他にある物が見つかった。


「これは、米!? でも……」


 僕が見慣れた米よりも細長い米だった。

 いわゆる、長米とかタイ米とか呼ばれているヤツだった。


 米のデンプンはアミロースとアミロペクチンという二種類があって、それぞれのデンプンの比率で加熱したときの食感が変わる。

 アミロースが高いとサラサラしていて、アミロペクチンが高いとモチモチする。アミロペクチン百%の品種が、餅米と呼ばれている。


 で、この長米はアミロースが多い品種で、日本のお米のように炊くだけで食べるようには出来ていない。ピラフ、チャーハン、カレーライスみたいに他の具材と混ぜ合わせて食べる品種なんだ。

 きちんと長米似合う方法で料理すればおいしく食べられるし、日本米より劣っていると言いたいわけでは無いんだけど……。


「日本食を作れるのは、まだまだ先だなぁ……」


 それと、長米の発見でわかったことがある。

 まず日本でよく食べられているジャポニカ米なんだけど、これは米の中では寒さに強い反面、暑さに弱い。特に熱帯に属する気候で育てるのは難しい。

 逆に長米は熱帯でも育てられる。

 つまり、場所による違いはあるけれども、南部大陸は基本的に熱帯である、という証明だった。


「これ、食べるのか?」


「食べられるけど、今は無理。食べられるようにするまでの手順が大変で」


 米は収穫した後、様々な手順を踏むため結構手間がかかる。それに手作業でやろうとすると今の人数では不可能。

 もしかしたら北部大陸の中には米食文化の国があって、効率よく加工できる技術を持った国や地域があるかも知れないけど、協力を求めるにしてももっと後の話だなぁ……。


 それともう一つ。トウモロコシなんだけど、色々品種が見つかった。

 生食用のトウモロコシの他にポップコーンの原料になる爆裂種、ミックスナッツに入っているジャイアントコーン、飼料用のデントコーンなど。

 特にデントコーンが見つかった意義は大きく、家畜を飼うことになったときにエサとして重要になると思う。


「まぁ、主食はジャガイモとトウモロコシを食べようか」


 こうして、僕達の穀物確保は一定の成果を上げ、完了した。

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