第18話:アヴァロン大迷宮第2層【屍涼荒野】

 ■


 ここは全天型の階層だ。


 全天型とは屋外型とも呼ばれ、文字通り天井がなく空が見えるタイプのダンジョンを指す。


 見上げれば雲が上空を覆っているが、それもまた何かしらの魔術的投影だ。


 全体的に薄暗く、もの寂しい。


 大地は乾いてひび割れており、土は黒味を帯びて如何にも有害そうだった。


 出没する魔物はアンデッド。


 人骨兵と呼ばれる骨の戦士や、屍体が害意を抱いてこちらを襲ってくる。


「得意分野だろう?」とでも言うように君がルクレツィアを見ると、彼女はお澄まし顔で頷いていた。


 神聖魔法を操る彼女はアンデッドの大敵と言える。


 君も僧侶系魔法は使えるが、これは神への信仰に基づくものではないためアンデッドに有効とは言えない。


 ■


 案の定というべきだろうか。


 地面から人骨兵はが這い出てくる。


 数は8体。


 小突けば木っ端微塵になるような相手に君のモチベーションはぴくりとも動かないが、ルクレツィアやモーブ、キャリエルはやる気満々の様だった。


 どうやら少し退屈していたようだ。


 ここは彼らに任せるか、と君は後ろで控える。


 ・

 ・

 ・


 緩慢な動きで君たちに向かってきている人骨兵の一団へ向かって、三人が駆け出していく。


 まずはルクレツィアが、杖を振りかざして詠唱を開始した。


 神聖呪文かと君は少し興味がわいた。


 詠唱は速やかに完了する。


 見れば、ルクレツィアの携える杖が淡く光っていた。


 そして彼女は勢いよく駆け出し、一体の人骨兵の眼前で杖を振り切った。


 杖からは光の刃が伸びており、人骨兵は袈裟に切り裂かれる。


 野盗に使っていた魔法を見るに、特殊な魔法で初見殺しを得意とするのかと思っていたが、まさかの近接戦だった。


 モーブも面白い。


 彼は先の野盗戦で見せたような爆発的な推進力で前方へ駆けると、その勢いのまま跳ね飛び、空中回し蹴りを放った。


 補強されたブーツの踵が人骨兵の側頭部へ当たると、当然の如くその頭部は砕け散る。


 そして着地と同時に、残されていた回転の余韻を利用して、いつの間にか抜かれていたショートソードで回転斬りを放っていた。


 風渡りという異名が付けられているだけあって、機動戦を得意とするようだ。


 キャリエルは彼らの様な派手な動きは見せてはいないが、安定した回避、攻撃で確実に人骨兵を仕留めている。


 予知染みた力も働いているのだろうか? 


 少なくとも探索者ギルドにおいて彼女と同程度の階梯の者は人骨兵に苦戦はしないまでも、防具にその攻撃をかすらせる程度はしていてたが。


 人骨兵の一団は3人にあっという間に殲滅されてしまった。


 君の出番はなかったが、君は警戒の感度を高めて奇襲に備えていた。


 どうにも気に食わない。


 首の裏がチリチリする。


 何かに視られているような気がしたのだ。


 仕掛けてくるならもう少し待って欲しいものだと君は思う。


 まだ探索していない階層は沢山あるのだから。

 ・

 ・

 ・


 見事な戦いぶりを見せた仲間達を褒め讃え、探索を続ける。


 とはいえ、この階層は本当に見るべき所は何もない。


 時折生えている花に粘剤としての需要が少しある位だろうか。


 骨枯花という辛気臭い名前の花である。


 折角なので君は一本採取し、ポーチへと仕舞い込んだ。


 時折現れる骨やらゾンビやらを蹴散らし、やがて次の階層へ降りる階段が見えてきた。


 パーティは意気軒高。


 誰も傷1つ負っていない。


 とはいえ、そこからすぐ全滅するのもまた迷宮。


 君とてまだまだ余裕だと油断して、1時間後には死体になっていた事だってあるのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る