第17話:アヴァロン大迷宮第1層【薄暗回廊】
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そうと決まれば話は早い。
即断即決──…それがライカードの冒険者であるからして。
君はルクレツィア、モーブ、キャリエルに明日から迷宮探索を開始すると告げる。
重要な点は3つ。
1つ、未踏査地帯は一切残さない事。
2つ、対面時、戦意がない相手を殺さない事。ただし戦闘中に命乞いをしてきたならば殺しても良い。
3つ、相互監視。誰かが、あるいは自身が精神的におかしい事になってるなと感じたならばすぐに相談をすること。
3についてはルクレツィア、モーブの身に降りかかった災難から判断して決めた事だ。
1、2は君のライカード魂に従ったまでである。
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君がギルドで聞いた話では迷宮は第7層まで調査されているらしい。
ただ、7層の詳細は分からないので実質的には未踏領域扱いとなっている。
なぜならば調査を担当したパーティは全員死んでいるからだ。
6人組のパーティ、バランスの取れた編成。
功績も実力もあるアヴァロン屈指の強者達。
街には帰還できたそうだが、1人1人死んでいった。
原因は不明だ。
頭がおかしくなり、腹が破けて死んだらしい。
呪い、あるいは憑依。
君はまだ見ぬ強者達の死を悼んだ。
もしその場に自身がいれば、ルクレツィア達のように上半身を木っ端微塵に吹き飛ばし、然る後に蘇生させてやったのに、と。
蘇生が失敗したら?
なぁに、もう一回チャンスがある。
ルクレツィア達に準備の言渡し、君達は今日の所は解散した。
馬小屋で眠るといったらキャリエルが残った報奨金を返そうとしてきたので、馬小屋で眠らない探索者など素人未満だ、としっかり説教をした。
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明日から本格的な迷宮探索が始まると思うと、君の心は戦意の甘美な陶酔で満たされる。
ただ漫然と潜るわけではない。
最深部を目指す。そして、おぞましき魔を討ちにいくのだ。
そう思うと自然に口端が上がる。
きっと殺したり殺されたりするのだろう。
未知の宝も待っているに違いない。
最初に死ぬのは誰だ?
キャリエルか?ルクレツィアか?モーブか?
あるいは自分か?
誰でも構わないと君は思う。
迷宮を愛しているからだ。
殺し、殺されの殺戮の坩堝…それが迷宮。
君は、いや、ライカードの冒険者は皆迷宮に愛を捧げている。
愛の前では死など些細な事だと思っている。
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翌朝、合流場所へ現れた君を見たルクレツィア、モーブ、キャリエルらは我知らず生唾を飲み込んだ。
全身から放たれる噎せ返る程の精気、そして殺気。
君は完璧に仕上がっていた。
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アヴァロン大迷宮第1層『薄暗回廊』
君達は迷宮へと足を踏み入れた。
キャリエルに、勘は何かを告げているかと聞く。
「ん?ん~…そうだね、嫌な予感とかは余りしないかな」
ちょっとしたアクシデントがあっても良かったが、そう言う事ならそれはそれで良い。
この階層には特筆すべき所は何も無い。
陰に潜む犬鬼に注意する、それくらいだろうか。
とはいえ死ぬ時は死ぬ、それが迷宮だと君は思う。
本当の意味で安全な場所など馬小屋位だ。
そして君の会敵の予感は前方からノコノコと歩いてくる1匹の犬鬼を察知した。
ちらっとキャリエルを見ると、彼女は特に気負いもなく頷いた。
得物はロングソード。バックラー。
確か最初に会った時、彼女は盾と剣でガンガンやるスタイルだと言っていただろうか?
スタスタと犬鬼へ歩いていく彼女は徐に立ち止まった。
犬鬼が汚い鳴き声をあげて棍棒らしき物を掲げてキャリエルへ襲いかかる。
ふらりとキャリエルは揺れ、犬鬼の攻撃は空振りした。
その一連の動きに君は違和感を感じ取る。
キャリエルのそれは武術の動きではない。
まるで酔っ払いのような……いや、それにしては余りにも滑らかな重心移動に体捌きだった。
事前に犬鬼と打ち合わせでもしていたかのような。
どこへどういう攻撃が来るかを知っていたかのような。
犬鬼は攻撃が当たらなかった事に苛立ったのか、更に大きく吠え、今度は飛び上がって上から殴りかかるような仕草をする。
しかしやはりキャリエルの体幹は崩れず、ゆらりと揺らめくように回避すると、するりと懐に入っていき、その腹へ刃を突き入れた。
断末魔の叫びをあげ、倒れる犬鬼。
「えへへ、どうだった?」
君は頷き、花丸だと伝える。
「キャリエルさん、犬鬼の動きを予知していたのですか?」
ルクレツィアが質問をした。
「キャリーでいいよ。予知じゃないけど、何となく分かっただけ。でも何となく分かっても体がついていくとは限らないからなあ」
低階層に限るならば、そしてイレギュラーが無いならばなるほど、ソロでもやっていけるわけだなと君は納得する。
まあ彼女はそのイレギュラーのせいで1度は命を落としたわけなのだが…。
モーブにも感想を聞いてみた。
「え、感想ですか?そ、そうですね…、まるで踊っている様で美しかったと思いますが…」
美しかった…まあ美しいといえばそうなのかもしれない。
剣舞とでも言うのか、君は少し首を捻りながらも納得らしきものをする。
ただ、ルクレツィアがモーブに意味深な視線を向けているあたり、もしかしたら違う意味だったのかもしれない。
そんなこんなで殺される為だけに現れた哀れな犬鬼の一件を覗いて、一行は下り階段の前へやってきた。
ここを降りれば地下2階『屍涼荒野』だ。
全天型の階層となり、まるで外にいるかのような風景が広がっている。
初めて君がそこを訪れたときはライカードにないタイプの階層であったため涙が出る程感動したものだった。
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