荒野をゆけ

一齣 其日

プロローグ

荒野をゆけ

 人類が大気圏を越え、星の彼方へと旅立っていく時代にあっても、彼らの娯楽は早々変わるものではなかった。

 特に、闘争の舞台はそうだ。

 人はどの時代にあっても、肉と肉とがぶつかり合う様を求め、汗と血が舞う様に高揚する。

 それは、地球から収まりきらなくなり無理やりに追いやられ、火星を新たな住処としながらも茫々たる荒野の開拓に従事するしかなくなった貧困に喘ぐ人々であったとしても、例外ではない。

 むしろ、火星に広がる燃えるように赤い空は、一層の闘争心を人々に掻き立てさせたのかもしれない。

 作り上げられた街々の一角には、必ずと言っていいほどにリングがあった。

 誰もが、日々の鬱屈とした空気を忘れようとリングに足を運んだ。

 そして、娯楽を求める人々と同時に、拳に意地と矜持と自負とを握り戦い続けなきゃしょうがない、そんな男達の姿が其処にはあった。

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