nigera

白記 そら

プロローグ『morphium』

 夜の街にはいつの時代も賑わいが絶えない。


 ということはなく、流行り病や戦争などで普段の生活に支障をきたすような情勢になったときその賑わいは絶え、夜の街からは明かりが消える。


 そのことを踏まえて目の前の美しい夜景を見ると、案外この時代は平和なのかもしれないと思ってしまう。


 だが、今の日本の現状を考えるとそれが間違いなのは明白だ。


 かつての首都である東京は陥落し、主要都市を結ぶ公共交通機関は破壊し尽くされ、北海道、大阪、愛知、福岡以外の都道府県は壊滅状態。壊滅を免れた道府県(北海“道”と大阪“府”二つの“県”が残ったのでこのように表現する)も今まで通りの様相なのかと聞かれるとそうでもなく、各道府県の外周には鋼鉄製の強固な壁が設けられ、外界とは隔離されている。


 それらすべての元凶は、八年前日本各地に突如出現した“異形”という存在だ。


 “異形”はその名の通り学術的観点から見ると異常な姿・形をしている謎の生物で、その出自は不明であるとされている。というのが世の中の一般常識だ。この一般常識に対して自分は疑問を抱かざるを得ない。だって……、まぁいい。隊長もこの話は深く考えない方がいいと言っていた。話を戻そうか。


 とりあえず、そのような“異形”と呼ばれる存在によって旧日本は崩壊した。


 そして、残された四道府県は、その名称を『県』や『府』や『道』から『縣』や『腑』や『導』へと変更し、その四導腑縣を中心として新日本政府の体制が整えられた。


 そこから八年の歴史の密度は高く、各地の復興から始まり、多くのことが目まぐるしく進んでいった。それらの中で最も斬新かつ世の中を変えたのは、組織の再編成だ。今まであった既存の、戦力を保持している組織は解体され、それらを一つにまとめた新たな組織が作り出された。その組織の名は国防隊。


 その名の通り日本という国に降りかかるすべての脅威から国家と国民を守る組織。なのだが、その中でも旧日本の常識から考えると明らかに異色な部隊があった。


 異能対策班。そう呼ばれる部隊は日本を崩壊寸前まで追い詰めた“異形”への対策、異形発生後に増えた“異能”と称される特殊な能力の研究、そして、それを用いて悪事を行う犯罪者の取り締まりを主な任務とし、旧首都東京の奪還および全国にはびこる異形の撲滅を最終目標としている。


 その異色な部隊の中、更に異色を放つ小隊がいた。異形と戦う実戦課の中でも、突出する技術を持ち合わせた七人のみが所属する特殊戦闘部隊“PLOVER” 。


 これから語られるのは、そんな特殊な部隊に所属している一人の青年を中心とした記憶の物語である。


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