第16回書き出し祭り 全感想

火野あかり

第1会場

  ※一読してからご覧ください※

 少々長いですが、予防線であり警告です。

 

 あまり心が強くない方、商業は目指しておらず、自分の好きなものを書きたいだけの方は見ないほうがいいかもしれません。

 ベースが辛口で、しかも誉め言葉を選んで書いていません。

 一応、全ての作品を最低三回は読んで書いています。


 下記感想は全て「商業作品として作るなら」を前提としています。

 なので面白く見せる構造に触れている部分が多いです。

 ただまさに私自身のように、商業では絶対無理だよなという趣味作品を投稿している人もいると思うので、その場合はだいたい見当違いになります。

 性癖メインの作品とかですね……その場合は笑ってやってください。


 また、書き出し祭りの特性ですが、第一話としての書き出しよりもそこがピークの実質短編のほうが評価されますが、私の場合はあくまで「書き出し」の評価をしています。

 書き出し祭り部分の満足度の評価でなく、次の話が読みたくなるか、の評価です。

「何をどう楽しむ作品で、どこに向けたものなのか」がしっかり提示してある作品の評価が高めになっています。


 プロでない方の場合、前提となる居場所と情報量、理解度が違うので、納得できない部分も多々あると思います。

 でもいつかプロになって企画を立ち上げるときには、私の書いていることの意味が分かるかなと。

 プロ作家の場合は共感してもらえる部分も多いのでは。

 

 せっかくプロサイドとして参加するのなら、ただ褒めるよりは嫌われても何か掴めるものを提示できればと思い、筆を執りました。

 私にとって、真面目に誠実に向き合うということはこういうことだと思いました。

 ですので少々厳しい言葉が並ぶ部分もありますが、改善案や間口の広げ方も同時に提案させていただいております。批判は代案ありきですね。

 指摘点を踏まえて改善、もしくはほかの作品に活かすなどできると思います。


 感想はもちろん絶対にこうすべき、しなければならないという意味ではありません。

 一笑に付してもらってもいいです。所詮は一つの方法論でしかないです。

 しかし私が指摘するのは、音楽で言うところの譜面通りに弾くことに近いものです。

 まずは楽器の使い方、譜面の読み方を覚えよう。アレンジはそこから。

 

 私自身まだ言語化できていない部分も多いですが、これを読んだ皆様に何かきっかけを与えられれば。私のこれもまた、練習です。


 できればご自身の作品の感想だけでなく、すべての感想を読んで、気になったところがあればその作品を読んで指摘を見る……なんて使い方をしてくださると本望です。

 私自身も含めて、みんなでレベルアップしましょう。


 だいたい、自分より売れてたり先輩作家がいるだろう企画でこんな危険なことやっても基本得はないんですよ!

 絶対に角が立つし、嫌われるし、文量やばいしで何も得はありません……!(本音)

 だから逆説的に善意がなければできないと解釈していただければありがたいです。


 私にとっていい編集さんは、手放しでは褒めず、基本は味方でも作品作りでは対立して代案や新しい方向性を提示してくれる方です。

 みなさんにとってそうなれれば。敵ではありませんよ。

 

 

1-01 廃棄東京、からっぽのマキナ


 好きな題材でした。

 廃墟でボーイミーツガールは夢がありますね。

 色々な理由で立ち入りはしませんが、youtubeの動画などで廃墟探索気分に浸ることが私もあります。某廃墟系youtuberが引退してしまって悲しい……。


 設定が非常にいいと思いました。

 時間が加速した空間は面白いです。

 第一会場においては一番好きな設定でしたね。

 

 私が同じ題材で同じように作るなら、最初の部長のくだり&キャラを全部排除し、読者が共通認識として理解と想像ができるモチーフ(廃墟化したコンビニや、道路が草で覆われているなど)を入れるかなと思います。説明もそういったオブジェクトから引っ張ります。

 廃墟の良さはかつてそこに生活があった痕跡から来るノスタルジーだと思うので、まぁ完全に好みではあるのですが、やはり哀愁が欲しい。

 そしてその開いたスペースに主人公自身の強い動機を入れます。

 現状だと「好きだから」で廃棄された危険な都市に入っていますが、何かしらの強い動機(家族や誰かを探しているなど)があったほうが入りやすく共感しやすいですね。

 部長に言われたから、マキナに言われたから、と受動的な目的だけでなく、何かしらの信念があったほうが好感が持てる主人公になります。

 

1-02 錬金術師の紡ぐ旅。


 丁寧な筆致で書き慣れている空気があります。

 ただ丁寧すぎるかなと。

 私自身なるべく気を付けるようにしているのですが、活動歴が長かったり、書籍などで人目に触れることが多いと、ついつい予防線として細かく書きすぎてしまいますよね。上の警告文がまさにそれです。反省しています。

 この作品もまさにそのような状態になっているかなと。

 一冊書きあげて推敲した際、きっとかなりの部分を削ることになると思います。

 もちろんこういった作風はいいと思うのですが、エンタメという意味でなら冗長です。

 梗概(大きなあらすじの意)を作って、そこから逆算して必要なものを配置していくのがテンポ向上のコツです。


 現状でわかっているのが過保護な父親からお金を持って逃げ出して贅沢している……で、神秘領域に行くのも切実な理由はなく逃げるためだけとなってしまっているので、あまり動きがないかなと。

 正直なところ、主人公に対しての共感も好感も私にはありませんでした。

 あくまで主人公の冒険を見るものでしょうから、主人公の目的などはシンプルにわかりやすく好感の持てるものにしたほうが無難です。

 嫌悪で読ませる手法もあるのですが、この場合はやはり主人公を好きになってもらえるように作るのがベターですね。


 こちら木野先生の企画で「書き出し祭りの作品をコミカライズするなら感想!」にリストアップされていますので、スペースにて改めてお話させていただきます。

 おそらくそちらでも言うと思いますが、「誰にどう楽しんで欲しいのか」を意識するともっと良くなると思います。


1-03 月華に翔けよ蝋の翼の贋作達よ


 タイトルはイカロスの話のモチーフかな?

 それもあって、鋼の錬金術師を連想しました(キメラ)。

 こうした少し複雑な設定や重い設定の場合、主人公の目的はわかりやすくシンプルに最初から提示しておくほうがベターです。

 設定面が理解できない、もしくは完全に理解できない場合でも、主人公の目的がわかりやすければ読ませることが容易になるからですね。

 複雑であればあるほどベースの作りはシンプルに。自戒を込めて。


 私もいつだったかの書き出し祭りでネクロマンサーたちが自分の作品を戦わせる話を書きました。主人公の目的が自分を知るためというところがわかりにくかったかなと反省してます。


1-04 メドウグリーンの墓守は、そうか公園の跡地に立つ


 まず気になったのが語句ですね。

「そうか公園」は地元民などならわかるのかもですが、私のように知らない人が見て、タイトルにあると、「そうか、公園の跡地に立つ」なんて読み方をしてしまいました。そして意味がよくわからない……となりました。

 そうか公園である必然性も感じないので、ただただわかりにくさと文字数の無駄に思えます。

 ならばトピアリーについて説明を入れたほうがよかったかも。

 知ってはいたけどこんな名前なんだ、と調べてみて初めて知りました。

 まぁこれに関しては私に知識がなかっただけとも言えますが、百人が百人わかる単語でないなら説明を入れるか、ほかの語句に変えるかするのがベターです。トピアリー――木や枝で形を作った像、なんて代替ができますしね。

 

 作品として気になる点では主人公の順応性の高さですね。

 もう少し狼狽してもいいかなと。

 個人的には、この作品は全て一人称で書いたほうが文字数的にもいいと思います。

 書き出し祭りは文字数制限がありますので、一人称のほうが書ける量が多くなります。私の商業作品は全て三人称ですが、書き出し祭りは毎度一人称です。(メタ的ですが……)


1-05 リカちゃんの人形


 完成度がかなり高いですね。

 ラブコメ、エロラブコメにおける必要な要素は全て網羅していますし、漫画的な動きもしっかりあるし、主人公の状況の変化がくっきりあって、キャラも立っています。

 秘密の共有は背徳感もあり、それでいてお互いの本当を知るのはお互いだけというシステムが自然に作り出せるので鉄板です。


 書き出し祭りは私のように商業では無理だけど書きたいという作品を投稿する方もいますので、一概に商業の目線で見るべきではないのかもしれませんが、十分以上に商業レベルだと思います。というかプロでしょうね。

 染谷ユウ先生の「罪と快」が構造的に似ているので好きだと思いますよ。

 主人公の女装、ヒロインがメスガキロリ、など懸念される(間口が狭い)問題はありますが、それを差し引いても絶対に好きな人がいる作品ですね。

 ぶっちゃけてしまえば私はあまり好きじゃない題材です。まさに間口から外れた存在です。

 しかし最後まですんなり読めましたし、面白いとも感じました。

 文句なしに投票候補ですね。

 会場一位の気配があります。ただ女性読者は捨てているし、予想は難しいです。


1-06 淡い輪郭


 この作品好きです。

 冒頭の流れる綺麗さや文体が素晴らしい。

 途中「?」の後が詰まっている部分があるのですが、さすがにこれは脱字だろうと断言できるくらいには文章が上手でした。大抵、こういう細かいところが気になる作品は全体的に気になる箇所が多いもの。しかしこの作品は違います。

 話そのものは正直そこまで動きもないし、驚くような引きがあるわけでもありません。

 でもきっとこのまま最後までずっと読んでしまうと思います。

 ただ単純にこの文体を読み続けていたい感覚……なんて言えばいいんでしょうね。

 こちらは商業化前提の客観的な評価ではなく、完全に個人的なフィーリングで投票候補です。


1-07 学園の天使と呼ばれる同級生の背中には正真正銘の翼がある

 

 青春小説なのか、ラブコメなのか。それが問題だ!

 ということで、ラブコメならばもう少しヒロインのキャラ立ち(可愛さ)は欲しかったかなと。

 青春小説ならば、もう少し主人公の人間性の強調(哲学や目的など)があったほうがいいかなと思いました。

 冒頭のプロローグに当たる部分で「羽を知ってしまったことによって、主人公の人生はどう変わったのか」を具体的に書くといいと思います。

 誰かに読ませる前提の創作物は「何をどう楽しむのか」の提示が大前提として必要です。

 天使ちゃんとの関係性を楽しむものなのか、天使ちゃんと何かの謎に挑戦するのか、はたまた主人公の悩みを一緒に解決するのか……そこの軸がしっかりできていると、もっともっとよくなります。


1-08 元勇者の俺が魔王少女に転生した話 ~今世は女の子として“世界征服”目指します!

 

 TS転生物。

 平和を目指すよりも、魔王の立場を十全に使って、安全な方向に世界征服しよう、という形にしたほうがいい気もします。せっかく魔王なので。


 こちらも木野先生の「書き出し祭りの作品をコミカライズするなら感想!」の企画に参加されていますね。

  

1-09 超天才おかしいイケメン幼馴染の、遺書の通りに生きてみた。


 面白かったです。

 事実上未来予知が可能になった設定なので、無双感まで楽しめるいい作りですね。

 一回目の引きは、理由があれどさすがに幼馴染が死んだ後なのに新しいイケメンって……という薄情さが見えてしまうので、もっとぶっ飛んだ未来予知であると面白く作れると思います。今すぐ教室を離れないと死ぬよ、みたいな突拍子もないもの。

 この作品の場合、新しいヒーローとの恋愛はあまり引きにならないかなと。私の場合、それだと先は読まないかなぁ……途中にあって、やっぱり幼馴染が好きを自覚させる流れなら好物です。ただ最初にやるのは的確ではなさそう。

 

1-10 終活ゴブリン


 知性の行きつく先は自分の望む自分の終わらせ方……という感じでしょうか。

 つい最近まで自分たちの望む最期についての作品を書いていましたので、テーマは当然いいと思いました。

 どちらかと言えばノクタ、ミッド向きかな? という印象です。単純に表現の幅が広いので(規制的な意味)


1-11 悪役御曹司の作り方


 こういう系か! と驚きました。

 てっきり女性向けの作品だと思っていました。

 怪獣8号のより佳境になったような世界観ですかね?

 ちなみに執事ですが、私はノーラン版バットマンのアルフレッドで想像しました。あの俳優さんもキャラも好きなんですよね。

 

 なんらかの形で主人公の活躍が一話にあれば……と思いました。


1-12 豊穣のぬりかべさん


 こちらも木野先生の「書き出し祭りの作品をコミカライズするなら感想!」の企画にリストアップされていますね。

 ですのでそちらで色々話すことになると思います。

 

 現時点で言えるのは、一話の段階で言えば農業の細かい説明はいらないということです。注釈がいるレベルだと作者さん自身が思っているものはいりません。二話以降で必要なタイミングが来た時に、キャラの行動を交えて軽く説明を入れるを繰り返していくのが基本の流れかなと。

 言い方は悪いですが、別段農業に興味のない私はそういった専門用語が出てきた段階で少々読む気が失せます。間口を狭くしているわけですね。

 まずはキャラを好きになってもらうところから始めましょう。

 読者が読みたいのは設定集ではなく物語、つまりは変化の過程です。面白いところだけ書く意識があるといいと思います。あとは膨らみがあるなと思わせられれば。

 一話の役割はその先を読みたいと思わせる面白さなので、重視すべきはそこになります。

 必要なのは非日常の案内人としてのぬりかべのキャラを立たせること、主人公が何をしたいのかをもっとわかりやすく明確にすること、でしょうか。


 最初の方はAIを駆使し農業をしている……くらいまで短縮可能に感じます。この短縮と言う考えが冗長さを減らしますよ。何を書いて何を捨てるかの考えは常に持つべきですね。人生にも創作にもダイエットは必要なのです。

 設定面の説明を減らし、もう少し先まで書いてあげるとよかったと思います。

 とにかく楽にやりたいんだ! と主人公をもっとしっかりキャラ付けて、徹底的な合理主義を貫いて妖怪を受け入れる……なんて、ある種の真面目さがあるだとか。

 書き出し祭りではぶっちゃけインパクトのほうが重要だったりしますので、キャラはぶっ飛んでいた方が評価は高くなります。

 この作品の場合、朝起きるとぬりかべが田んぼを荒らしていた――くらいぶっ飛んでてもいいと思いました。あらすじにあったら私の場合興味がわきます。


 公務員、中田忍の悪徳(ガガガ文庫・立川浦々先生)が参考になるかもしれません。非常に真面目にふざけていて、私はすごく憧れた作風でした。生活保護課の真面目な話から一気に主人公の性格やキャラ立てをして、エルフとの出会いから物語が動き出して……とテンポやペース的にも得られるものがあると思います。

 あらすじだけでも読んでみてください。そこだけでもう笑えます。


 スローライフ作品でも売れているものはやはり「こんな面白い奴らがこんな面白いことをするのか」と思わせられる作品です。

 話の展開が派手なファンタジーほど主人公のキャラは薄味でも通用し、話の動きがない作品ほど濃さが必要になると私は認識しています。もちろん、全てしっかり濃いほうが全然いいですが。

 この作品の場合は出会いも含めてラブコメに近い作りになるのではないでしょうか。なのでキャラの強さはかなり大事だと思います。

 こんな登場人物に出会って、自分の人生が変わっていく……の流れですね。


 めちゃくちゃ正直に言えば、ぬりかべではなく主人公の好きなキャラクターに近しい可愛い妖怪でよかったのでは? ぬりかべはやっぱり鬼太郎に出てくるようなのんびりした、そしてビジュアル的にはイマイチな妖怪だと共通認識があると思います。

 AIについても画面映えしないと思うので、漫画として考えるなら再考すべき点は多いですね。


 それと書き出し祭りは実際に書くかどうかは別にして、続きを書くのを前提とした書き出しです。

 ですので予告のようなメタ的なものは必要ありません。というかダメです。放棄してしまったような印象を受けます。

 一話の内容の段階で引きとして次の話を想像できるように作るべきです。話そのものが予告になる様に作る、ということですね。

 これは漫画原作でも全く同じです。

 色々厳しいことを書いてしまいましたが、編集さんは基本的にもっと厳しいです。ひとまず全ボツで! もっとキャラ練りましょう! は絶対言われると思います。


1-13 深海の舞台で死に至る


 舞台が才能を逃しはしない……という天才ものですね!

 適材適所は人だけが選ぶ側じゃない、場だって役者を選ぶのだ、って感じですね。

 こういうの大好きです。

 役という深海に潜り、そこでしか生きていけない深海の生物である主人公は、日常生活では様々な圧力で破裂してしまいそうなほど色々なものに不満を持っていて――私のいる世界はここじゃない。

 なんて作りだともっと好みでした。漫画的なビジュアル表現が似合いますね。

 天才すぎて日常に馴染めないパターンで作る場合の話しですが。

 

1-14 呪いはマナを、やぶれない~復讐したい闇堕ち元王妃は、偽りの家族愛に屈しないっ!~


 こちらも「書き出し祭りの作品をコミカライズするなら感想!」に応募してくださっている方ですね。

 まず気になるのは明らかな推敲不足です。

 タイトルと本文で表記揺れがあったり、本文中でも誤字脱字があったり。

 個人的に、一番大事なのは本文そのものを作り上げることよりも、推敲によるブラッシュアップでより高めることだと思います。

 作者が全力を尽くしていない作品を読者がしっかり読んでくれると思うのは傲慢ですよ。


 主人公の不遇さについてはもう少し理由があっていいかなと。

 どうして愛されないのか、はあったほうがいいです。それも主人公に問題がない形で。この辺はいわゆる追放テンプレなどが参考になるかもしれません。

 これは直接恨みの強さにもつながりますし、入れておいて損することはないと思います。

 何か色々と惜しい印象がある作品でした。

 しっかり作ればもっといい評価が出来ましたし、それこそ商業化も全然あると思います。

 

1-15 ポルターガイスト@セッション


 死んでも魂までは死んでいない。一言にまとめるとそんな感じでしょうか。

 設定的に、時代背景や地域などを無視したキャラクターをたくさん出せるので構造的メリットを感じます。

 なんとなく、ヒゲ先生は三月のライオンの林田先生を思い出しました。櫻井孝宏さんの声が合いそう。

 

1-16 ニア・オートマトン・フランケンシュタイン


 ウェルテル効果からゴーレム製造……という感じでしたね。

 色々な蘇生術や人工生物が入り混じったような設定。

 どことなくゼロ年代の空気があります。ちなみに、私はゼロ年代の空気が大好きです。実際、テイストや題材こそ違いますが、この作品に近い構造の企画が放置されています。提出したいけど、書くの大変なんじゃ……なのでこの作品の難しさはわかります。


 こういう一人の美少女が周囲を狂わせる題材が好きなら、秋吉理香子先生の「暗黒女子」や、大塚英志先生の「零 〜ゼロ〜 女の子だけがかかる呪い」なんかも好きかもしれません。後者が完全に同じ空気です。零の時の中条あやみさんは美少女すぎて、上記のような狂ってしまう設定にものすごい説得力がありました。どちらも女学園ものです。

 関係ないですが、「狂う」は商業ではあまり使えないので使えてちょっと嬉しいです。


1-17 My genius


 あらすじがおしゃれ。

 話そのものは少々難解。

 冒頭で回りくどい話はしない、とある割に、全体的に回りくどく感じました。

 

「君」と呼ばれるアンドロイドは、おそらく人間の女性に限りなく近いもので、主人公から引き離されたor廃棄されたと思われた状態からのスタート。

 しかし主人公しか作れない人工知能を積んだ猫が現れ、それはすなわちコピーした事実を指す。つまりオリジナルが存在するはずだから探しに行こう、という解釈であっているのかな?

 

 こちらの作品も木野先生の「書き出し祭りの作品をコミカライズするなら感想!」にエントリーされていますね。

 漫画として見るなら、場所の移動や動きが薄いので、話そのものをもう少し変更すべきかなと。玄関先と部屋しかメインの場所がありませんよね。なのでアクションもなく。

 ただ短編読み切りだとありそうだなと感じます。ただ、それだとラストに向けたエモさの積み重ねが足りない気はします。


1-18 美人の国


 これ面白かったです!

 設定の残酷さは、一見ぶっ飛んでいるようで実は現実の普通の学校でも似たような状態であったりする不都合な真実系。

 ストーリー展開もいいですね。

 学校をかき乱すだろう人物の秘密を知り、自分の秘密も共有して。

 ことあるごとに「美人だから」を言う主人公の性格の悪さもいいです。

 こちら投票候補ですね。

 単純に上手く、単純に面白かったです。強く指摘したい点もありません。強いて言うなら先を書いてください。笑


1-19 正義な推しアイドルに更生を迫られてる俺だけど世界征服は諦めたくない!


 勢いがあってよかったです。

 ギャグテンポで読ませてくれるので読みやすかったですね。

 もう少し先、「更生させるわ!」くらいまであれば書き出しとして理想的だと思います。


1-20 転生したら弱キャラに偽装することになりました


 オーソドックスな転生物。

 特に過不足は感じず、書きなれている印象がありますね。

 もう少しキャッチーさがあればより強く印象に残ると思います。

 

1-21 隣の席の暗殺者


 ラブコメ……なのかな?

 アクションラブコメディとありましたが、もう少し全体の膨らみがあるとジャンル定義がしっかりしていいと思いました。

 例えば、秘密を知ったからにはこれからずっと監視すると言われてみたり(半同居ラブコメ展開)、主人公が事件に巻き込まれる流れ(アクション展開)を提示したりですね。

 

1-22 よろず怪異絵巻


 先生が二人出てくるので最初少しややこしいです。

 学校の方は教授とかでいいんじゃないですかね?

 もっと言えば存在の必要を感じませんでした。ディティールにこだわりたいのはわかるのですが、主人公の哲学に大きく関わりなく、しかもおそらく今後も出ないキャラを置くほど一話には余裕がないかなと。

 世界史と書かれているので、主人公は高校生なんでしょうか。内容的には大学生くらい?

 どちらかと言えば主人公の情報に割いたほうがいい部分だったのではと思います。

 実のところ、最後まで主人公についてわかることがありませんでした。一人称なので容姿はともかく、人間性や年齢も。

 

 設定をあまり活かせていなかったなと感じます。

 主人公が何かしらの怪異に遭遇するべきでした。

 怪異なので、唐突で突然で偶然で構わないのです。それが話における必然です。

 焦りや恐怖などの感情の中、主人公の人間性や情報をアピールしていくのがベターな作りでしょうね。

 危険がないと言われている怪異なのに、主人公は殺されかけて、だっていうのにレポートのことが頭を離れない……とか。こんな状況でレポートのこと考えるなんて真面目なやつだな、と読者が思いますね。

 そこで氷室先生に助けられ、事務所に連れて行かれる……などがスマートな作りかなと。

 人間社会に悪い奴がいるように、怪異にだって当然悪い奴もいるのだ、俺はそれを退治している、と氷室先生の役割を定義付けられますしね。最後を見るに、やはり戦いはしているっぽいですし。


 主人公+主人公の現状を変えてくれる人(氷室先生)+敵(怪異)という三人の構成で作ると簡単で、かつ、話としてスマートな作りになります。これは全ての作品で使える構成です。

 その話のメインは三人以上になるべきではない……というのが持論。

 メインとは役割が明確で替えの利かないキャラです。


 もはや古典になりつつあるかもですが、ワンピースの初期なんかは上記の構造です。

 色々と要素の多い一話目ですが、話として必須なキャラはルフィとシャンクス(主人公を変える人物)、ヒグマ(山賊の敵)だけで、ほかは全て替えの利くキャラでできています。性別が変わっても名前が変わっても全然問題ないってことですね。

 ちなみに二話目はルフィ、コビー、アルビダ。

 三話目はルフィ、ゾロ、ヘルメッポの三人で話ができています。


 最近のヒット作だと、怪獣8号の一話はカフカ(主人公)、ミナ(幼馴染のヒロイン枠? 追いつきたい人物なので、主人公の現状を変えるモチベーション)、レノ(もう一度夢を追いかける起爆剤。こちらも現状を変えてくれる人物)なんて作りになっています。

 分解していくとヒット作はたいてい普遍的な構造ですね。

 この視点で色々な漫画を見てみると共通点が見えてきて面白く見えると思いますよ。ラブコメなんかも流行りは案外この構造だったりします。

 ちなみに、私がこの感想で高く評価している作品もだいたいがその構造になっていたりします。

 エモさに寄せるなら必然性のあるキャラを主人公も合わせて二人だけにすると印象的になります。


 怪異、ということで一応思いついた化物語を挙げておくと、冒頭は(おそらく文量は書き出し祭りに近い)戦場ヶ原ひたぎの説明、主人公の面倒な人間性、そして戦場ヶ原の体重がほとんどないことで〆られています。

 そこで「なんで?」となることを一話の引きにしていました。

 逆に作品に関する説明は一切ありません。

 化物語は確か一章まとめての掲載でしたし、さすがに時代が違うので(掲載は2005年)書き出し祭りではそこまで思い切った作りにすべきではありませんが、やはり怪異中心に作ったほうがいいと思います。

 この作品を手に取る読者は、怪異に遭うことを期待しているのですから。


1-23 軋む歯車 狂う世界


 話そのものはオーソドックスな作りでした。

 問題点や主人公周りの特異性も書かれていましたし、構造面だけで言えば特に問題は感じず楽しめました。強いて言えばもう少し先、主人公の身に何が起きるのかを提示できていればいいかなと。


 私は読めるし意味も分かりましたが、漢字はある程度開きましょう。

 語彙もできるだけ簡単なものを選択すべきですね。

 理想は中学生が全て問題なく読める範囲まで。ただし、厨二病の学生は除く。

 かっこいいのは大事ですが、それが不親切ならば悦に入ってるだけです。

 プロ作家はあえて簡単な表現を探したりと苦心しています。

 小説や漫画の簡単な漢字にさえルビが入っているのは、表現でつまづいて「物語」から頭をそらさせないための工夫です。

 ちなみに、この作品でそのままプロデビューする前提で言うと、編集さん、もしくは校正さんに確実に全て開かれます。もちろん反抗することも可能ですが……悪手でしょうね。ページがルビで真っ黒になりますから。


 創作物に限らず、全ての表現は間口の広さが大事です。

 食品のキャッチコピー、バズるツイート、流行りのゲーム、どれも間口を広げるためにわかりやすく作りますよね。小説だって当然同じです。

 面白いを面白いまま届けるためには工夫や配慮が要りますよ。

 そこまでやっても本質的なところまで理解できる読者はそう多くありません。

 なので、本題に直結しない漢字くらいはせめて開くべきなのです。

 この作品に限らず、誰かに読ませる前提だということを忘れている作品が多々見受けられます。読まれたいと思う気持ちが少しでもあるなら、先にいる読者の気持ちになるのは大事なことです。これは日常生活すべてにおいて言えますが。


 わかりやすく作ろうという姿勢が見えればもっと高く評価できたと思います。もったいないですね。独りよがりは誰も救いません。


1-24 ハーレム嫌いの早乙女くん


 おいおい、幼馴染が赤メガネって……最高ですね。

 ちなみに私は眼鏡ではなくメガネと表記するのが好きです。何の話だろう。

 

 現在出ている二作品の商業作のどちらにも「ハーレム」が入っている私としては耳が痛い話です。

 そして実のところ、私はハーレムがあまり好きじゃなかったりします。マジです。

 なので明確にメインヒロインが存在していて、一歩以上に頭抜けた作りにしています。

 

 この作品はよくできているし面白いと思いました。

 問題は、しいて言えば少々古さがあることくらいかな……やれやれ系主人公に、ヒロインのありがちな属性に古さを感じます。ですが、この作品は逆にそういうコテコテなキャラの並びだからこそ面白いんですよね。

 ハーレムと言えばこれだろ! と昔の美少女ゲームを下敷きにしたような作りだからいい。

 出オチ感がすごいですが、これ続き書くの普通に難しいですよね。笑


1-25 町で噂のマモノビト! ~おとーさんは人形姫~


 あらすじ一行目のジャンル表記から誤字ってるやないかい!

 とツッコミたくなります。


 とはいえ面白く、魔王が来日したくだりは声を出して笑いました。

 文体もしっかりしているし、先々の期待もできますし、基本的に文句ない書き出しでした。


 ただ、最後の謎の幕間はいりません。

 最初パソコンのエラーかと思いました。

 普通に続きの引きを書いてくれれば投票していたと思います。個人的には第一会場では相当面白いと思いましたから。それだけのポテンシャルはある作品です。


 たまに謎の歌など入れる人いますが、ぶっちゃけ作者以外で必要だと思ってる人は一人もいないと思います。

 これに関しても同じことが言えて、一気に物語から引き戻されてしまいました。

 まず普通のサラリーマンがこんな歌を歌いだすこともないでしょうし、何一つとして必然性がありません。

 

 長々とした詠唱じみたものがかっこいいのはわからないでもないのですが、それは技名だから必要だとか、そういった必然性ありきです。

 シロウ版のアンリミテッドブレイドワークスがかっこいいのは、それまでの色々な積み重ねがあるからこそ。単独で成立しているものではありません。いきなり言い出したらセイバーも普通に引きます。

 残念ながら、私の心は硝子なので共感性羞恥が発動してしまいました。

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る