追放された宇宙軍兵士、剣と魔法の世界に降り立ち無双する
十凪高志
序章 追放兵士
第1話 銀河の兵士、追放される
ここは剣と魔法の世界、シクスゼリア。
ディアグランツ国を侵攻する魔王軍は快進撃を続けていた。
人間が異世界より召喚した勇者も、【冥王】ヘルディースの配下である死霊騎士が見事に討ちとったと言う。
そうして、このまま魔王軍の勝利で終わるかと思われた時……その報せはもたらされた。
「報告いたします! 王国軍を追撃していた死霊騎士アガンディル様が、討たれました!」
「なに!?」
それは信じられない報せだった。
ディアグランツ王国軍には、【勇者】と呼ばれる存在がいる。
異世界から呼び出された者らしく、神の加護を得た最強の人間だと言われている。
その力はまさに人外であり、一騎当千どころではない。
だがアガンディルは、それを打ち倒した豪傑だ。
その勢いのまま追撃していたのだが……
「勇者亡き今、誰が……」
「それが……【勇者】がもう1人いるようなのです」
「なんと!?」
ディアグランツ王国の国王が、新たなる勇者を召喚したのか? いや、そんな話は聞いていない。
ならば一体……
「その者は、何者なのだ?」
「はい、突如空より漆黒の竜に乗り現れたと……」
そして、不死者の軍勢を壊滅させ、竜が変じた巨人によって死霊騎士アガンディルを打ち倒した。そう言う事らしい。
しかし……
「そのような事が……あり得るはずがない!」
いくら勇者が強くとも、所詮は人間の力だ。
「人間どもの言によれば……【天界人】だと……」
「なんだと」
天界人。それは星々の彼方に住まう、神に仕えし聖なる一族だという。
その存在すら伝説上のものでしかないと思っていたが……。
「その者は、本当に天界人なのか?」
「わかりません。ただ……実力だけは本物かと」
「ふむ」
確かに、先程の報告通りであればそうなのだろう。
「わかった。下がってよいぞ」
「はっ」
部下を下がらせると、魔王軍最高幹部の一人、【冥王】ヘルディースは思案する。
(果たしてこれは偶然なのか?)
王国軍に新たなる勇者が現れた事も、その者が【天界人】であった事も。
まるで誰かが仕組んだかのように、都合よく出来すぎている。
「……まさか」
ヘルディースはある可能性に行き着いた。
それは、この世界を管理するといわれている神の存在だ。
もし仮に、神が実在し、介入しているとしたら……
「……確かめねばなるまい」
ヘルディースが立ち上がり歩き出すと、背後で闇が広がりそこから巨大な影が現れる。
「我が主よ、何処へ行かれる?」
「我はこれより、地上へと向かう、全軍を率いてな」
「……人間どもを滅ぼすおつもりで?」
「まさか。されど、新しい勇者とやらを確かめておきたくてな」「成る程」
「お前も来るが良い。共に真実を見極めようではないか」
「御意」
こうして魔王軍は、動き出した。
だが。
冥王が勇者の姿を見る事は無かった。
この直後――勇者の攻撃によって、冥王の住む死の山脈が吹き飛んだからである。
冥王もその軍も、圧倒的熱量によって蒸発した。
天より降り立った【星の勇者】と呼ばれる男の一撃によって。
◆◇◆◇◆
「銀河共和国宇宙軍准尉ティグル・ナーデ。貴官を軍規違反で追放する」
「……はい」
その言葉の意味がすぐには理解できなかったが、しかし命令であるならば仕方ない。
どうやら俺は、軍規違反をしていたらしい。
「聞こえなかっ……」
「聞こえてますが」
俺の反応に苛立ったのか、目の前の上官は言葉を強める。
だが、俺の返答に上官は言葉を収めた。
「……そうか、従順なのは良いことだな」
命令違反をした俺に対する皮肉だろうか。
確かに俺は、惑星ウルドへの調査任務中に宇宙海賊との戦闘になった際に、命令無視をして単独行動を取った。
しかし、自分の部下である隊員を見捨てるなど、俺にはできなかった。
だが命令違反は命令違反だ。罰が下るなら甘んじてうけよう。
「これは上官としての命令だ。拒否する事は許されない」
「はい。拒否いたしません」
「……そ、そうか」
戸惑う上官。
拒否しないのがおかしいのだろうか。兵士なら当たり前だと思うのだが。
そう言って彼は俺を睨み付けると、更に言葉を続けた。
「既に司令部から正式な通達も出ている。これ以上の説明は必要ない」
「はい。必要ありません」
彼はまるで汚い物でも見るかのように、嫌悪感を隠す事無く俺を睨んだ。
風呂には入っているのだが。あるいは着衣に乱れがあっただろうか。
顔の造形については目をつぶってほしい、これはどうしようもない。
「まだ何か言いたい事があるのかね? だったら言ってみたまえ」
「ですから、ありません」
「だがその顔は……」
「生まれつきです」
「……いや、ああ、そうか。ないのかね」
「はい」
その表情と口調には、聞く耳を持つ気など全く無いのだが反論されないとそれはそれで調子が狂う、という感じだった。
今まで、反抗的な部下とばかり応対してきたのだろうか。苦労が偲ばれる。
「敵前逃亡は重罪だ。銃殺にならず追放で済んだだけ、共和国の慈悲に感謝する事だ」
……部下を助けるために持ち場を離れただけなのだが。
なるほど。客観的に見たら、確かに敵前逃亡になることもあるだろう。それは仕方ない。俺の落ち度だ。言い訳のしようが無い。
「返す言葉もございません。共和国の慈悲に深く感謝いたします」
「……」
しかし、上官は俺の態度に苦虫を噛み潰したような顔をしている。
体調でも悪いのだろうか。苦労をかけているから心労か。体を労わって欲しい。
「……連れていけ」
「はっ」
その言葉を合図に、数人の宇宙兵士が駆け寄ってくると、そのまま両脇を抱えるようにして連行していく。
抵抗はしなかった。する理由もない、
やがて、護送車の停まっている場所に着くと、その中に押し込まれる。
どうやらこのまま宇宙港へ向かうらしい。
「お前も馬鹿だな。歯向かったりするから」
護送車の兵士が言う。
誤解があるようだが、わざわざ訂正する必要もあるまい。
「はい」
「素直だな、ずいぶんと堪えたか」
「はい」
「まあ、出世コースから外れたようだが、気にするな」
「しません」
「恨みもあるだろうが……」
「ありません」
「……そうか」
「はい」
会話が止まった。
きっと俺を慮ってくれているのだろう。その優しさに感謝と敬意を払っておこう。
しばらく走った後、車が停車したので外に出ると、そこは見覚えのある建物の前だった。
かつて俺のいた部隊が使用していた建物だったか。
そのまま促されるままに中へと入ると、そこには見知った顔がいくつもあった。
306部隊。俺のいた部隊だ。
その中には、俺が作戦行動中に助けた少女の姿もある。
彼女は俺を見ると、一斉に駆け寄ってきた。
「ティグル隊長! お怪我はありませんか?」
心配そうな様子で問いかけてくる少女……フィリム・ラン伍長に対し、俺は小さく頷く事で応える。
すると、フィリムは安心したような表情を浮かべた。
「よかった……ご無事でなによりです」
「ありがとう。お前こそ無事なようで良かった」
「はい、おかげさまで何とか……」
そこまで言ったところで、急に表情が暗くなる。
どうしたのかと尋ねようとした所で、彼女が先に口を開いた。
「でも、私のせいで、隊長が軍にいられなくなってしまって……」
なるほど、それでさっきあんな事を言っていたのかと納得した。
だが、別に気にする事はないと思う。
「気にしなくていい。命令無視は事実だ、俺の責任だ」
「でも、それを言うなら私だって……」
「部下の行動は上司の責任だ。お前が気にすることじゃない」
そう言って慰めてみるものの、あまり効果はなさそうだった。
そんな俺達のやりとりに、仲間の一人、ディラック・ロッシュ軍曹が言う。
「追放と言っても、まああれですよ。田舎の惑星に飛ばされるだけです。戦いを離れてのんびり過ごせる、と思えば」
彼らしい言葉だ。
その言葉に、他の隊員達も同調するように頷いた。
ギデオン・フェリ曹長がにやにやという。
「なんなら伍長も一緒にいけばいいのでは?」
「そりゃ名案だ」
「いや、むしろそっちの方がいいんじゃないかしら?」
エリザ・ロバート曹長がからかうように言う。
そんな仲間達の言葉に、フィリムが慌てだす。
「え!? いや、それはちょっと……その、隊長がいいなら……」
そんな彼女の様子に、皆が笑い出す。
先程までの重苦しい空気が嘘のようだ。
彼らは、わざと明るく振る舞っているのだ。
俺の事を気遣って、少しでも負担を軽くしようとしているのだろう。
今回の処遇に対して特に負担に思っているわけではないが、その心遣いには感謝しよう。
よい仲間を持ったものだ。
その時、突然扉が開き、一人の男が入ってきた。
三十代の精悍な男性だった。
皆が一斉に姿勢を正す。
「楽にして構わんよ」男はそう言うと、俺に向かう。
「私はこの第13艦隊の司令官を務めているラウル・エスカ大佐だ」
その名前には聞き覚えがあった。
第13艦隊は、共和国軍の精鋭中の精鋭を集めた艦隊であり、現在は辺境星域において海賊討伐の任務に就いていると聞いた事がある。
「ティグル・ナーデ……元准尉だな」
「はっ」
名前を呼ばれ、返答する。
その様子を見て、エスカ司令は小さく笑みを浮かべた。
「そう緊張しなくていい。君をどうこうするつもりはないから安心してくれ」
「はい」
「306部隊は、これより海賊討伐任務に就いてもらう。同時に、ティグル・ナーデ元准尉の護送も兼ねてな」
俺の送り込まれる惑星へのルートに海賊が出るのか、それともその逆か。ともあれ、俺は「ついで」ということらしい。
それに不満はない。わざわざ俺程度の護送に兵力人員を割くわけにもいかない。
「了解しました」
そう答えると、彼は満足げに頷いた。
「出発は明朝0600だ。それまではゆっくり休んでくれたまえ」
それだけ言うと、エスカ司令は踵を返して部屋を出ていく。それに続いて、他の者達も退室していった。
とりあえず、今日はもうする事もない。
ならば言われた通り休むとしよう。そもそも俺にはもう、自由は無く、明日の出発まで軟禁状態だ。
指定された部屋に到着した俺は、簡素なベッドに横になると目を閉じた。しかし眠気は全くやってこない。
どうやら思っていた以上に精神的に参っているのだろうか?
確かに状況が急変した。それについていけていないのかもしれない。我ながら未熟な事だ。
仕方ないので、腕立て伏せをしておく。
瞑想もいいが、今の状況では雑念が逆に溜まろう。
百回を3セット。
それが終わると、部屋を見渡す。
……窓の所にちょうどいいでっぱりがあった。
俺はそれを掴む。よし、体は支えられそうだ。
懸垂運動を行う。百回を3セット。
その後は、同じく出っ張りに足をひっかけ宙吊りになり、腹筋運動を行った。
それを百回行ったところで切り上げる。
……いい汗をかいた。
この疲労感。よく眠れそうだ。
ふと窓の外を見る。
夜空に輝く無数の星が、まるで嘲笑うかのように瞬いていた。
◆◇◆◇◆
翌日早朝、俺達は基地の格納庫にいた。
これから出発するための準備をしているのだ。もっとも、俺が持っていく物など殆どない。せいぜい、着替えと食糧、護身用のエネルギーシールドとブラスターくらいだろうか。追放者に許されるのはその程度である。
あとは、サバイバルキットでも支給されるのだろうか。
荷物は既に積み込んであるし、後は輸送船に乗り込むだけだ。
「輸送船……なんですね」
フィリムが見上げながら言う。
150メートル級の星間輸送船。名前は……【ノーデンス】と言ったか。
「海賊討伐の任務と聞いたので、てっきり戦艦か何かで行くのかと」
「それだと宇宙海賊を警戒させてしまうからな」
「なるほど……」
フィリムは共和国軍教導学校を出たばかりの少女だ。実戦の機微に疎いのも仕方ない。
何しろ、宇宙海賊というものはその性質は多岐に渡る。
誇り高く自由を求め戦う者から、浅ましく卑屈な者たちまで色々だ。
弱い商船や市民しか狙わない海賊も多い。
「でも戦力が……」
「だからあれを搭載しているのだろう」
俺が視線を向けたのは、306部隊の愛機、TF-5型ライトニングⅢだ。
可変型宇宙戦闘機であり、人型に変形する。実弾機銃とブラスター熱線砲、電磁ブレードを装備した共和国の主力兵器のひとつである。
それらが、輸送船ノーデンスに詰まれている。
「なるほど……」
輸送船そのものには大した武装は搭載されていないが、ライトニングⅢを詰んでいれば。いざ海賊が出た時に出撃して撃墜するということだ。
「では行こうか。新たなる門出に」
実際には追放、左遷だが。
その現実を直視しても始まらない。全ては考え方次第だ。
辺境の惑星でスローライフを送るのも悪くないのかもしれない。
軍人にならなければ、やってみたい仕事もいくつかあったのだ。宇宙ヒヨコの鑑定士とか。
久々に遮光器土偶作りに没頭するのもいいかもしれない。田舎だといい土もあるだろう。
こう見えて学生時代は遮光器土偶コンテストの地方三年連続優勝の実績があるのだ。
泥団子を磨き上げるのもいい。あれは無心になれる。
「……」
フィリムは何か言いたそうだったが、黙って船に乗り込んだ。
他の人員も船に乗り込み、星間輸送船ノーデンスは出航する。
宇宙魔導転移航法。
エーテルの満ちるこの宇宙において、長距離移動手段のひとつだ。
周囲のエーテルを取り込み、エルナクリスタルドライブにて変換。魔法陣を展開し、疑似的なワームホールを生成して空間転移を行う。
ノーデンスのの窓から見える宇宙空間は、やがて疑似ワームプレーンの青白い光景へと姿を変える。
それにしても宇宙というのは不思議な場所だ。地上とは何もかもが違う。
重力や空気抵抗といったものは存在せず、また、音速の壁すら存在しないのだ。
おかげで長距離航行も快適そのものなのだが、逆にいえばそれ故に戦争に利用されているという側面がある。
事実、今こうして宇宙を進んでいる間にも、どこか遠くの戦場で戦闘が行われているかもしれないと思うと、どうにも複雑な心境になってくる。
そんな事を考えているうちに、船は目的の座標付近に到着したらしい。
モニターに映し出された映像を見る限りでは、特に異常はないように見えるが、油断はできないだろう。
「海賊、いませんね」
フィリムが話しかけてくる。
「常に当該宙域にいるとは限らないからな。
まあ俺には関係ないが。海賊が出ても出撃はしないからな」
「隊長……」
「隊長ではない。小隊長だったのは昨日までの話だ」
「でも、私にとって隊長は隊長です」
そう真っ直ぐに言われてしまうと、何も言えなくなってしまう。こういう所がまだ子供なのだなと思った。だが同時に、それが彼女のいいところでもあるのだろうとも感じる。
「……分かった。好きに呼べばいい」
そんな俺の言葉に、フィリムは嬉しそうに頷いたのだった。
「“好きに呼べばいい”ですね! 言質とりましたよ!」
……なんだろう。何か決定的なミスを犯してしまった気がした。
しかしやめてほしい。こうも慕われると、軍に未練が残ってしまうだろう。
「あの、隊長」
「ん?」
「いえ……その……なんでもないです」
いや、明らかに何か言おうとしていただろう。
そう思ったものの、無理に聞く必要はないと判断して無視した。
それにしても、さっきから俺とフィリム以外の姿が見えないのだが。
「人がいないな……どうしたんだ」
「そうですね」
「何かあったのか?」
「……分かりません」
ふむ、どうしたものかと考え込んでいると、唐突に通信が入った。
相手はエスカ司令だ。どうやら艦内にいる全員に連絡しているらしい。
『総員傾注! 現時点にてオーダー198を発令する』
……?
聞いた事のない符合だな。
「わかるか? フィリム」
「いいえ……」
フィリムも知らないようだ。
艦内は静かなままだった。何かの指令が下されたと言うのに。しかし、静かだが……騒がしい。実際にではなく、なんというか……
不穏な空気を感じる。
「……嫌な空気だな」
「はい……」
その時、警報音が鳴り響いた。
同時に緊急放送が流れる。
『現在本艦は何者かによって攻撃を受けている。速やかに退避せよ。繰り返す。速やかに……』
攻撃だと……?
だがおかしい。
いったいどこからの攻撃なのかが全く分からない。船体に揺れは無い。
どういうことだ?
その時、ドアが開く。
現れたのは、部隊の仲間だった。
「アルフ、ベレット。何があったんだ?」
俺は彼らに聞く。
だが――
不意に、俺の背筋に怖気が走る。なんだこの空気は。
この――殺気は。
次の瞬間。
仲間の持つブラスターが火を噴いた。
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